ディメナード家
ラブロウが途中入団した数日後。
騎士団少年部は帰郷期間に入った。一週間ほど訓練生は各々故郷に帰りしばし休暇を過ごす。
ベノスは両親の住む屋敷に向かう馬車の中でラブロウのことを憎々しく考えていた。
(あの魔法猿をなんとか山に追い返す方法はないものか…)
この数日、ベノス達とラブロウは訓練中から寄宿舎での生活に至るまで常に睨み合いを続けていた。
しかし訓練での一件以来、ラブロウの魔法発動を警戒し教官が変わる変わるそれとなく様子を伺いに来るためベノスも迂闊なことができずにいた。
イライラと考えを巡らせる内、屋敷に到着。老齢の使用人がベノスを出迎える。
「お帰りなさいませ、おぼっちゃま」
「ああ、変わりなさそうだなリントン」
屋敷に入ろうとするベノスにリントンは耳打ちをする。
「旦那様の取引相手のライアン卿がお見えですのでご注意を」
「ああ、わかった」
屋敷に入るや真っ先に応接室に向かうベノス。
「父上、失礼致します。ベノス、ただいま戻りました。」
「うむ、入れ」
立派な調度品が飾られた室内ではベノスの父と取引相手が向かい合い座っていた。
「ああライアン卿、次男のベノスだ。騎士団少年部が休暇に入ったそうでね、今しがた帰ってきよったよ。おいベノス、挨拶せんか」
「初めてお目にかかります。ベノス・ディメナードです。大変聡明な御仁であると常々父よりお話を伺っております。」
「いやいや、お噂通りベノス殿も精悍な青年でおられますなぁ。あの高名な騎士団少年部でも稀に見る優秀な訓練生であると聞いておりますぞ」
「はっはっはっ。兄のマイザに比べ馬に乗って剣だ槍だを振るうしか出来ない凡才でまったく困ったもんですよ。おい、大事な商談中だ、さっさと下がれ」
「はい、それでは失礼致します。ライアン卿」
静かに応接室を後にするベノス。
これから数日間、父の機嫌を損ねないような振る舞いをしなければならないと思うと、生まれ育ったこの屋敷も気の休まる場所ではなかった。
「あらまあベノス、お帰りなさい。見て頂戴この花瓶。年代物の一品なんだけどようやく手に入ったのよ」
久々に顔を合わせて早々、お気に入りの花瓶をベノスに見せびらかす母。
「ああ母上、疲れているから自室で少しで休むよ」
「あらそう。他の物も見てほしかったわ」
自室のベッドに倒れ込むベノス。
(帰郷期間明けは、行軍演習。たしか魔獣が出るというドロック山中。あの魔法猿に罠を仕掛けて…。)
そんなことを考えているとベノスはいつの間に眠ってしまっていた。




