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漂泊のベノス  作者: ism
【第二部・辺境/モンスター討伐編】

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37/115

一騎打ち

ベノスは静かに剣先をリザードマンに向ける。


リザードマンも身を低くかがめた独特の構えをとる。

互いに睨み合い、静寂が続く。


──先に飛びかかったのはリザードマンだった。

間合いを瞬時に詰め、疾風のごとき長剣がベノスを襲う。


ベノスはそれを風に舞う羽毛のような軽やかな動きでひらりとかわす。続く二の太刀、三の太刀も。身体能力、俊敏性を活かした人間には真似できないリザードマン特有の剣技もベノスにはかすりもしない。

誰が見てもこの数秒にも満たない立ち合いで察するはずだ。


ベノスの方があきらかに格上であると。


リザードマンは苛立ちから動きがわずかだが荒くなり始める。ベノスはそんな一瞬の変化を見逃さなかった。


一閃。

ベノスは相手の攻撃をかいくぐって高速の斬撃を放つ。あまりにも早いそれは常人には一度斬りかかっただけのように見えたが、リザードマンの喉、腹、など複数箇所に致命傷を加えていた。


返り血を浴びぬようすぐ様距離をとり構え直す。

リザードマンは大量の出血にぐらりと体勢を崩し、そのまま力無く倒れた。


トゥーチとフォークホードの遺体の目を閉じさせ、

「…間に合わず、すまなかった。すぐに戻る」

と一言いい、まだ戦いが続いているであろうリザードマンの根城へ駆け出した。



ヘキオン村の周囲には多くの村の男たちが警備にあたっていた。木こりのブランもそのひとりであったが、森の奥からタウザールが走ってくるのを発見する。


「タウザール!どうした?!」

「はあはあ…トゥーチも…フォークホードも…リザードマンに殺されちまった…アデット達も殺される…」

タウザールはボロボロの顔でブランにつげる。


「アデットたちは?!リザードマン達の退治にでかけたんだろ?お前たちも参加しとったのか?みんなは?!」

「わ、わからねぇよ、逃げるのに必死で…」


警備にあたっていた村の男のひとりがタウザールに言う。

「…お前、戦っとるみんなを放ってひとり逃げてきたんじゃ…」

村の男たちは無言でタウザールに視線を注ぐ。

そんな中、ブランは村の男達に

「俺も加勢に行ってくる!ベノスは強えし、ロンもアデットも機転の効くやつらだ、まだ踏ん張っとるかもしれん!」

と勇ましく声をあげると、ほかの者たちも勇気を奮い次々とブランに続く。


タウザールは俯きしゃがみこんだままその光景を見つめていた。



──アデットからリザードマンの根城のおおよその位置を聞いていたブランは周囲を警戒しながら森を分け入って行く。


「この辺りのはずだが…」恐る恐る近づくと、そこには驚きの光景が広がっていた。


弩弓の大型矢が複数体中にささった上、腹に大きな穴の空いた巨大なリザードマンの死体。他にも3匹のリザードマンの死体が転がっていた。


そばにはアデット、ロンボルト、ベノスが立っている。

ブランに気がついたアデットが声をかける。

「おっ!ブランさん!見てくれ、すげーだろコレ!」

「ははは…やったなぁ…やってくれたなお前たち!」

ブランやついてきた村の男達は喜び、みな歓声をあげる。


みんなの喜びの声が森に響く中、ベノスはブランに声をかけた。

「ブランさん、村を襲った剣で武装したリザードマンも俺が別の場所で葬った。そのそばにトゥーチとフォークホードの遺体がある。村まで運びたいんだが。」

「タウザールから聞いたよ。…あいつらなりに村のために頑張ろうとしたんかなぁ」

ブランは彼らを少し慮るように話した。


「どうかな…。それにしても何とか退治できてよかった」

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