リザードマン
ベノス、ロンボルト、アデットの3人は昨晩襲撃を受けた場所からリザードマンが逃走した道筋を辿っていた。
炎に包まれ、エンリスの攻撃で出血した状態で逃げ回ったおかげでそこかしこに痕跡が残っており、追跡は容易だった。
ただ罠の可能性もあり、周囲を警戒しながら慎重に進む。
川まできたところで血の跡が途切れた。川に飛び込んだのは容易に想像がついた。3人は川を渡り下流に向かって進む。数十分下ったところで再び血の跡を発見。ここで川からあがり森に入って行ったようだ。
「このまま森を進むのは危険だ。あの山の中腹あたりから森全体が見渡せるはずだから、一旦そこから様子を伺おう。」
ロンボルトの提案に頷く2人。
さらに小一時間ほどかけ山を登り、森を一望できるポイントまでやってきた。
ベノスが周囲を警戒しつつ、アデットとロンボルトは望遠鏡でしばらく森を観察する。
ロンボルトは
「木々が思ったより邪魔だな。少し遠すぎたか。もう少し近づいて…」とアデットに話す。
「いや、ちょっと待て。森のずっと奥…他より多く葉の茂った木のそばの…岩壁の下…何かいるぞ」アデットは木々の間にわずかに見える影に注目する。
岩にもたれかかる巨大なリザードマンがいた。
「なんて大きさだ…!よくあんな奴返り討ちにできたな」
ロンボルトは驚きベノスに訊ねた。
「投げたランプが命中してうまく燃え広がってくれたよ」
アフの言われた通り、エンリスのことは隠しロンボルトに答えた。
「なんだ?濡れた葉を体に擦りつけてるな。手当てしてるのか?もしかして」アデットが言うと、
「あれは恐らく鎮痛と傷の治りを早める薬効のある葉だな。リザードマンにもそんな知能があるのか。興味深い。」
ロンボルトが感心していると、アデットが小声で驚く。
「おい、他のが現れたぞ!」
リザードマンがもう一匹現れ、大型の個体の側に抱えてきた大量の葉を置いた。大型の個体に比べたらだいぶ小さく恐らくロンボルトとそう変わらない体格だ。たぶんこれが一般的なリザードマンのサイズなのだろう。
「やはり群れだったか。2匹だけのはずがない」
ベノスは呟くとロンボルトは
「村からそう遠くない場所に根城を置いていて、群れを成しているが数は不明…想像以上に危険だ。一度村に戻って警戒を強めるよう村のみんなに報告しよう。」と提案。
他の2人は静かに頷くと、全員すぐにきた道を引き返した。
村に到着すると、何やら騒がしい。
話を聞くとタウザールらがリザードマンに襲われ、スリッグスが重傷を負って診療所に担ぎ込まれたのだ。
アデットはオーマックに報告。ロンボルトは村を回り住人たちに夜は絶対外へ出ず武器があれば用意して警戒するよう指示する。ベノスはスリッグスの状況を見て聞き取りを行うため診療所に戻った。
診療所の前には大量の血が。スリッグスのものだろう。容態は深刻なようだ。
診療所に入るとタウザール達がおり、入ってきたベノスを見るやつかみかかってきた。
「てめぇ!デタラメいいやがったな!何が手傷を負わせて追い返しただ!スリッグスが死んだらてめぇのせいだからな!」タウザールの手は恐怖か怒りか震えていた。ベノスは冷静に言い放つ。
「リザードマンは群れでこの近辺に来たんだ。先ほど奴らの根城を確認し、そこで昨晩傷を負わせた奴と他にもう一匹確認した。お前達を襲ったのは別の個体だ」
タウザールはベノスの胸ぐらを掴んだまま黙り込む。
「それに群れの可能性があることも、近辺の山や川に彷徨いている可能性があることもみなに言っておいたはずだ。
…なぜ無視して山に入ったんだ?」ベノスは胸ぐらの手を払い諭すように言う。
「…う、それは…お、俺たちにも生活があるんだ!山に入らねえわけに行くかよ!」
「死の危険があってもか?早く日常を取り戻したいなら何故協力しないんだ?」畳み掛けるベノスに
「うるせぇ!ともかくスリッグスにもしものことがあったらお前らのせいだ!お前らがさっさと解決しねぇからだ!」
タウザールはヤケクソ気味にベノスに言い放つ。
相手にしてられないといった様子のベノスはタウザールを押しのけ治療室へ。部屋の前には村の女性がひとり、血まみれの布や医療具を片付けていた。
「容態は?」
「ああ、出血が多く意識はありませんがなんとか命は助かったようで。いまも先生が魔法で治療を続けています」
「承知した」
ぼんやりと治療を待っていても仕方ないので、村へ戻りアデットと対策を話し合うため診療所を出たベノス。
次の瞬間、服の袖を物影からすごい力で引っ張られ、倒される。
ヤバイ!リザードマンか?!…と肝を冷やしたが正体はエンリスだった。
「なっ、なんだ突然?!どうした?」
尻もちをついたままベノスがエンリスに問うと、エンリスは唸りながら答えた。
「今スグ、アフノ治療ヲヤメサセロ!!」




