ベノスとラブロウ
剣術訓練後、ゼラー教官からラブロウについて簡素な説明がなされた。
数ヶ月前、ハーズメリアの兵団が北方の山岳地帯に現れた魔物の群れを討伐に向かった時のこと。兵団が苦戦を強いられる中、不思議な力をふるって兵団を助け勝利に導いたのが北方の山村に暮らしていたラブロウだったそうだ。
この時兵団を率いていた将官はラブロウの力を目の当たりにし、ハーズメリア王国軍トップのダージオン将軍に是非ともこの少年を軍に引き入れるべきであると進言。適切な教育を施すため騎士団少年部への入団が決まったらしい。
“インネイト”─
生まれつき高い「魔力」を持ち、魔術修練なしでも魔法を放つことができる者をこう呼ぶ。
(生まれもった魔法の力かぁ、すごいなぁ〜)
本来ベノスとその取巻きたちがやるはずの訓練道具の整備をひとり行いながらピットーは訓練時の光景を思い出していた。
そこへ当のラブロウがひょっこり現れ
「おっ、いたいた。さっきのチャンバラの時間、手ひどくやられてたけど大丈夫だったか?」
ラブロウに突然声をかけられてビクッと肩を揺らすピットー。
「あっ!い、いや…へ、平気だよ、僕剣術ヘタだから…いつものことなんだ」
「オレの相手だった奴もブンブン木の棒ふりまわしてきてよー。ひっでー奴らだよなあいつら。」
「はは…彼らは少年部の戦闘訓練上位3名だからね、強いし僕じゃ敵わないよ。」
「そうなんか?オレの村にゼルドさんってすっげー強い人いたんだけどさぁ、その人に比べたら全然大したことな…」
「誰が大したことねぇだと?!サル野郎!!」
後ろを振り返ると、鬼の形相のスラドル、そしてベノス、メキシオが立っていた。
「はははだって棒がカスりもしなかったじゃねーのさ」
「いい気になんなこのバケモンが!!」
掴み掛かろうとするスラドルを容易く交わすラブロウ。
「ほら当たんないだろ?」
すっ転んだスラドルに目をやったラブロウ。その一瞬の隙をつき、ベノスはラブロウの襟を掴んで強引に投げ飛ばした。
「図に乗るな、魔法猿」
「いってえー!やるかこの!」
「何をしとるんだお前たち!」
たまたま通りかかった庭師のじいさんが怒声をあげた。
「騎士の見習いたる者たちが仲間同士でつまらんケンカをするとは何事か!」
「チッ…行こうぜベノス」メキシオが諌めると
「フン…」と庭師を一瞥し足早に立ち去るベノス。
「テメェ…このままで済むと思うなよ…!」ベノスの後をスラドルも追って行った。
「全く…あのバカどもワシがいくらいっても何ひとつあらためん。それにしてもまた雑用押し付けられておるのかピットー。」
「いやぁ…仕方ないです…」
力ない笑みを浮かべるピットー。
「あんな奴らの言う事なんか聞く必要ねぇって!それよりさぁ、訓練場いろいろ案内してくれよ!」
「で、でも…」
「ほら、行こうぜ!じいちゃん、アイツら追い払ってくれてありがとな!」
ラブロウはピットーの手を引きその場を後にした。
「…面白そうなヤツが入って来よったなぁ」
庭師のじいさんはなにやらワクワクした表情でそれをみつめていた。