魔犬エンリス
エンリスはアフに向かって
「アフ、ナゼ早ク“念話”ヲヨコサン?少シ遅ケレバ死ンデイタゾ」とリザードマンを睨みつけながら語りかけた。
「?!言葉をはなせるのか?!」ベノスは驚きを隠せない。
「気が動転しちゃって…ありがとう来てくれて」
アフはホッとした顔でエンリスに答えた。
「死ネ!」エンリスは目にも止まらぬ速さでリザードマンに飛びつき喰らい付いた。
リザードマンも必死で抵抗するが喰らいつかれた腕や爪で抉られた身体からから鮮血が迸る。
なんとかエンリスを引き剥がしたリザードマンはたまらず逃走する。
「ナカナカ硬い皮膚ダナ。コレデハドウダ?」
エンリスは口から激しい炎を吐いた。
リザードマンは一瞬で業火に包まれる。炎の中で必死にもがくリザードマンの影はガクンと倒れ込んだ。
「雑魚ガ。他愛無イ」
エンリスがフッと息を吹きかけると激しい炎は瞬時に消滅した。辺りは残った煙がもうもうと立ち込める。
ベノスは投げ捨てられた剣を見つけて拾い、警戒しながら生死を確認する。
「確認ノ必要ハナイ小憎。塵トナッテ崩レオチタダロウ」
「いいや、よく見ろ。」
ベノスが指さす林のずっと奥まで煙が続いている。炎に巻かれながら這いずって逃げ出したようだ。
「ウヌゥ、追ッテ息ノ根ヲ…!」
「よしなさい!思った以上に知能の高い個体みたいだから仲間が待ち伏せていたり罠をはっていたりするかも知れないわ」
「リザードマンナド何匹イヨウガ負ケハセン!」
「そうやってむかし死にかけたのを忘れたの?!」
アフの強い口調に、低く唸りながらその場をぐるぐる回った。
「俺は村に戻り村長とアデットにこのことを知らせてきます。先生はエンリスと診療所に戻って充分警戒を」
「コノ俺ト一緒ナラバ、心配無用ダ」
「フフ、頼もしいな。確かにお前と一緒なのが一番安全だ」
まだ興奮状態のエンリスにベノスは声をかけた。
「あ、ベノス。ひとつだけ…
エンリスのこと、誰にも話さないで。彼が会話できたりすごい能力を持っていることを知っているの、村で私とティアミーだけなの」
「わかりました。秘密にしておきます」
ベノスはそう答えると、村へ駆けて戻って行った。
「リザードマンゴトキニ手ヲ焼クトハ、情ナイ小僧ヨ」エンリスがフンと鼻をならすと、
「彼も私も人間よ。あなたのようにはいかないわ。」
エンリスとアフは周囲を警戒しながら診療所への道を歩いていった。
戻ってきたベノスの話を聞いた村長とアデットはすぐに村中に知らせに周り、集落の周囲に厳しい警戒網をしいたまま朝を迎えた。




