ロンボルトと新しい武器
アデットの言う通り、村長オーマックは良品と粗悪品を見分ける目がまるでない。遠出のたびに市場などでつまらない物を高額で掴まされていた。
そこで今回の遠方への出張には付き人のうちの一人としてロンボルトも同行した。
幼少期より人一倍好奇心旺盛だったロンボルトはモノ、建造物、美術品まで、なにで出来ているのか、どうやって作られているのか、どんな歴史があるのか徹底的に調べないと気が済まないタチだった。
村では変人扱いされることもたびたびだったが、そんなタチのおかげで齢20にしてあらゆる分野で専門家顔負けの知識を身につけ良し悪しを見極める目を持っていた。
新しもの好きのアデットとはウマがあい、アデットが王都に行き流行り物を持ち帰るたびに調べ尽くしている。
またどこで出会ったのか近隣諸国の似たような者たちと随時手紙で情報交換を行っているため各国の情勢にも詳しい。
そういった理由からの同行だったのだがロンボルトも村長オーマックも大変満足のいく視察外遊だったようだ。
ロンボルトはいい物を手に入れたからぜひ見てほしいと、ベノス、アデット、ティアミーを連れて村外れの人気のない実験場に連れ出した。
「もぉ〜別に興味ないってロンの買ってきたものなんて〜」
妹のティアミーは小さい頃からロンボルトに付き合わされているからもう飽き飽きといった様子だった。
「まあ見てろ」
包みから人の腕くらいの大きさの鉄の筒を取り出した。なにやら色々と準備をはじめ、アデットに
「小屋の中のランプをもってきてくれ」と指示。
ランプを受け取ると火を木の棒に移した。
「全員耳を塞げ。冗談抜きで指を耳穴にぐっとつっこんでしっかり塞げよ」ロンボルト自身もしっかり小さい布キレで耳を塞ぐ。そして先ほどの鉄の筒を脇に抱え、正面の積み上げられた大きめの石に狙いをつけた。「行くぞ…!」
棒の先端の火を筒のへこんだ部分に差し込むと…
ドォォン!
凄まじい爆発音と共に積まれた石は粉々に砕けた。
「はっはー!よーし今度は命中したぞ!」大喜びのロンボルト。
「た、大砲か?!」アデットは驚いて尋ねると
「いや、大砲を人が持ち運べるサイズに改良した鉄砲という。」
とロンボルト。
「噂には聞いたことはあるが、凄いな」
ベノスも素直に感心した。
「びっくりしたぁ…そんな武器こんな村でなんの役にたつのよ」ティアミーがロンボルトに問う。
「村の防衛に決まってるだろう。これならどこへでも持ち運べるし誰でも使える。弓のようにテクニックも要らない。命中精度に難はあるし弾の装填に時間はかかるが、爆音と破壊力は十分な威嚇になる。これが複数個あれば今回のような外部からの襲撃に際し戦いのプロが不在でもなんとか対応できるだろう」
今回の村長とロンボルトの視察外遊の目的はそれだった。
ヘキオン村は、市や商店が連なるメイン通りがあり村といえどそれなりに人通りの多い集落である。
過去に賊やモンスターに襲われ壊滅してしまった村もあると聞く。防衛のためどのような対策をとるべきか長年の懸念事項であった。
「時間はかかるだろうが複製することも出来なくはなさそうだし、火薬の原料もわりと簡単に調達できるからな。」
「おお、いいじゃないか!ぜひ複製を進めようぜ!」
とアデットも乗り気になっていたところ、林の方から男たちの声が聞こえてきた。
「オイコラてめーらぁ!馬鹿デケェ音出しやがって迷惑だろうが!」
「ははは、バカと変人コンビが揃ってんじゃん。お、しかも噂のゴブリンキラー様までいらっしゃる!」
アデットは、はぁ〜と深いため息ついた。
タウザール達だ。
「どこでも出てくるなよ…お前らにゃ関係ないし、村の外れだここは。誰の迷惑にもなりゃしねーからすっこんでろ。」
「俺らが迷惑だよボケ!」
小さい頃はみんな一緒に遊んだ仲だが、いつからか対立関係になっていた。アデットは子どもじみた諍いにはウンザリだったが、タウザール達の方からいつも絡んでくる。
「ヒマかい?なら手を貸して欲しいんだが」
ロンボルトは笑顔でタウザール達に協力を乞う。
「誰がやるかよバーカ!」
「だろうな。お前らには難しすぎる」アデットが煽る。
睨みつけながら近づいてくるタウザール。一歩も引かないアデット。
まあまあと間に入り仲裁するロンボルト。
チッと舌打ちし、踵をかえすタウザール。ロンボルトには以前何度かねじ伏せられたことがあるため手を出そうとはしなかった。ロンボルトは体術の指南書から独学で格闘の基礎を体得し、タウザールのようなチンピラ程度なら転ばし投げ飛ばすことくらい朝飯前だ。
罵声を浴びせながら立ち去るタウザール達。
「はぁ〜あ、すっかり話のコシ折られたな」
「どこにでもいるさ、ああいう輩は。」
ベノスは騎士団少年部にいた時の自分とメキシオ、スラドルの振る舞いを思い出し、我が身を振り返っていた。
挿し絵のキャラクターは右からベノス、ロンボルト、アデットです。




