それぞれの家族
ベノスのゴブリンとの戦いで負った負傷は、アフの毎日の治癒魔法と休息によってみるみるうちに回復していった。
戦いから数日後。
遠方の知人に会うためしばらく村を離れていたヘキオンの村長が息子のアデットと共にベノスのもとを訪れた。
「おお!あなたが村を救ってくれたベノス殿ですか!
話はアデットから聞いておりますぞ!私は村長のオーマック。私の留守中、村のために大変ご尽力いただき誠に感謝しております!ありがとうございました!」
村長はベノスの手を握り礼を述べた。
「いや…こちらこそアフ先生ほか村の方々に助けていただき手厚く看護いただいた。オレの方こそお礼を言いたい。」
ベノスもあらためて村への感謝を伝えた。
「旅の途中、ゴブリンの襲撃で大変な傷を負われて治療中のところをこのバカが無理矢理連れ出したようで…本当に申し訳なかった」
オーマックはアデットの頭を掴んで下げさせた。
「うぐぐ…それはすまなかったと思ってるって何度もいってんだろ。親父に言われなくたってわかってるっての」
「傷ついた旅のお方を魔物退治に駆り出すなど、悪かったで済まされるか!ずっと反省せえ!」
「親父が長旅から戻らねえのが悪いんだろ!1ヶ月近くも!村の要職をなんだと思ってんだよ」
「なにおう!ワシは今後の村のために大事な…」
「やめなさい!治りかけとはいえ怪我人の前で!喧嘩は自分たちの家でおやりなさい!」
アフが一喝し、オーマックとアデットはバツ悪そうにした。
「あー…失礼。
それはそうと是非お礼がしたい。死人も出ておるので大っぴらに宴とはいきませんが、我が家で食事でもどうかと。
村で最高の食事を振る舞わせていただきますよ。」
オーマックは取り直しニコニコとベノスを食事に誘った。
「今回の件は、俺だけの力じゃありません。先生とティアミー、ブランさんの一家も同席するなら是非。」
「もちろんみなで来てください!」
後ろで見ていたティアミーが声を上げる。
「え!本当に?やったあ!ご馳走がたべれる!」
「ちょっとティアミーたったら。村長、本当に私たちも同席して構わないんですか?」アフの問いに
「いやもちろんもちろん!」
機嫌良く答えるオーマックにアデットは
「みんなあんまり期待すんなよ。親父のメシのチョイス、毎回微妙なんだから」と笑う。
「なにおう!いつも子どもの食うような菓子ばかり食べてるお前に言われとうないわい!」
「ヘキオン甘焼きは自分が村長つとめる村の銘菓だろうがよ!」
「ふたりともいい加減にしなさい!」
アフに制止されしゅんとするオーマックとアデット。
オーマックは態度をあらため
「あーところでティアミー、ロンボルトのやつは?今日はせっかくだからやつも一緒に同行させようと思ったんだが家には不在での」
「朝からみてないですー。昨日村長さんと一緒に村に戻ってから、夜は自分の部屋にいたみたいですけど…また村の外れでバカやってんじゃないんですか?」
「ロンボルト?」ベノスが尋ねるとティアミーは
「兄ですよ、兄」少し嫌そうな顔で答えた。
「実は出向いた先で良い業物がいくつか手に入りましてなぁ。助けていただいたお礼に一振り差し上げようと考えていたのですが…ロンボルトに管理を任せておったのでこちらにお待ちすることが出来ず…」
オーマックは残念そうに言った。
「いや、そんな貴重な品をいただくほどのことは…」
ベノスが固辞すると
「いやいやいや!それくらいは贈らせてもらわんと。なんなら後で売り払って旅の資金にしていただいても構わんし。」
「…ありがとうございます。ではまた拝見させていただいてから…」と恐縮するベノスにアデットは
「親父の目利きは最悪だからなぁ」
「黙っとれと…!」アフの冷たい視線を察して話を戻す。
「…ではまた数日後、負傷がより回復されたころに使いを…アデットをよこします。お待ちしておりますよ。では」
オーマックはにこやかに退室した。
「気持ちの良い村長さんだな」ベノスが呟くと、
「外面がいいだけのタヌキ親父だよ」とアデットは答えた。
ベノスは少し父親のことを思い出した。
あんな風に遠慮せずものを言い合える親子だったら…
俺もこうはならなかったかもしれないな…そう思いながら寂しそうな笑みを浮かべた。
ベノスの顔になんとなく思いを察したアフは、
「さあ、傷の具合を見ましょうか!あら、もうほとんどいいみたい。あと数日も魔法で治療すればもう完全回復ね!」
と明るく振舞う。
そうこうしていると突然扉が勢いよく開き、一人の男が部屋に入ってきた。
「こんちは〜!おっ!あなたが噂のベノスさん!
随分お若くてハンサムだなぁ!もっと髭もじゃのマッチョな戦士かと思いましたよ〜…あれ、村長は?ここに来ると聞いて来たんだけど」
「とっくに帰ったわよ。何やってたのバカ」
ティアミーが呆れながら言った。
どうやらこのニヤついたやさ男がロンボルトらしい。




