1対50
藁葺き小屋から出てきたゴブリンは2メートル近くあった。
そして横にも大きい。変異個体か。
その巨大ゴブリンが右手を上に上げると、積み上げた木箱の上にいる2、3匹のゴブリンが奇声を発しベノスを指さす。そして巨大ゴブリンがベノスに向かって腕を下ろすと同時に周りのゴブリンが一斉に飛びかかってきた。
(そうか、あの高台のゴブリンが大隊長、そしてデカブツが総司令ということか。ならば…!)
飛びかかってくるゴブリンを難なく斬り伏せ、高台の1匹に向かおうとすると、巨大ゴブリンは思い切り槍を投げつけてきた。すんでのところでかわすベノス。
巨大ゴブリンはその辺のゴブリンたちが巻き添えになるのも構わず近くの斧や槍を投げつけてくる!投擲モーションが大振りなためかわすのは容易だがゴブリン達を相手にしながらはさすがに厄介だ。
しかし着実にゴブリンの数は減っている。
「よし、これを…」
中央で燃え盛る燃える焚き木一本拾い、藁葺きの小屋に投げつけると勢いよく火の手があがる。
隊長ゴブリンと巨大ゴブリンは一瞬そちらに気をとられた瞬間、ゴブリンたちは我に帰ったように動きを止め、後退りする。それを見逃さず瞬時に斬り伏せる。残り十数匹。
巨大ゴブリンがベノスの方を向くとベノスの姿が見当たらない。
隊長ゴブリンの1匹が、キイイイと指さす方向は他の隊長ゴブリンの後ろ。振り返る間もなく一瞬で2匹の隊長ゴブリンの首が飛ぶ。
隊長の指揮を失い逃げ出そうとするゴブリン数匹を拾った槍で串刺しに。
「逃すものか」
ついに巨大ゴブリンが唸り声をあげベノスに突進してくる。他のゴブリン達も飛びかかる。
ベノスは持った槍でそのまま巨大ゴブリンの腹を突き刺した。
…しかし切先が少し刺さった後はびくともしない。想像以上に表皮が硬く分厚く、それ以上深く刺さらないのだ。
巨大ゴブリンは槍が刺さったまま、ベノスを蹴り上げた。
数メートル吹っ飛ぶベノス。
「ぐうっ…!」すぐに体勢を立て直す。
巨大ゴブリンは突進してきて、そのままもう一度蹴りかかるつもりだ。
突進してくる巨大ゴブリンに向かって走り出すベノス。
ベノスはゴブリンが振り上げた足の下をスライディングでくぐり、背面へ。
巨大ゴブリンが振り返るとまたもやベノスの姿はない。
1匹残った隊長ゴブリンがキイイイ!奇声を上げ空を指さす。
月を背に、木箱の上から飛びかかるベノスの姿を見つけた次の瞬間、巨大ゴブリンの顔面には深々と剣が突き立てられていた。
巨大ゴブリンが大地に倒れ込む間に投げつけたもう一本の剣は隊長ゴブリンの喉に命中。そのまま巨大ゴブリンから剣を引き抜きながら蹴り上がり、残りの数体のゴブリンに飛びかかり鮮やかに斬り散らした。
10分にも満たないわずかな時間。
巨大ゴブリンを含め50匹以上いたゴブリンは、手傷を負ってコントロールから解放されたのかすぐさま逃げ出した2、3匹をのぞきほぼ全滅。
後ろで藁葺き小屋が燃え盛る側でベノスはしゃがみ込んだ。
「さすがに、疲れたな」
アデットとブランが駆け寄ってきた。
「信じられない…」
唖然とした表情の2人にベノスは息をきらしこう言った。
「言っただろう、ひとりでやれると」




