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漂泊のベノス  作者: ism
【第二部・辺境/モンスター討伐編】

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22/115

闇夜の襲撃

本当にベノスとアデットの2人だけでゴブリンの住処を襲撃することになった。

村民はみな、そうは言っても誰かが…と考えていたようだったが、結局だれひとり志願したものはいなかった。

しかも今夜。


ゴブリンは夜行性。アデットは明日の昼間に行くことを提案したが、向こうが襲撃の準備をしようとしているであろう時だからこそ勝算があるとベノスは話した。


アフは猛反対したがベノスは折れることはなく、それならせめて…とありったけの魔力でベノスに治癒魔法を施した。

アフは極度の疲労で途中倒れてしまったが傷の痛みはあるものの、ベノスは万全に近い状態だと感じるくらいまで復調することができた。軽めの装備で身を整え、さらに予備として剣を追加で2本用意した。


そこへ木こりのブランが斥候と道案内を買って出てくれた。出発を前に簡単に打ち合わせ…だが作戦などあってないようなものだった。


ベノスが奇襲をかけゴブリンを掃討する。途中もしベノスが倒れることがあればアデットはすぐ村へ帰って避難指示。以上。

アデットも参加する気であったが足手纏いになるから安全なポイントから様子を伺っていてくれとベノスから強く言い渡されてしまった。絶対に助けるようなことはするなと。


もはやベノスを信じるしかなかった。ただ、万が一犠牲がでてもベノスひとりなら…と浮かんでしまったのも事実。ここまで覚悟をしてくれた人になんてことを考えてしまったんだと思いながら、もしかして直前で逃げ出したりしないだろうか?など色々な思いが駆け巡っていた。



日が落ち夜もふけたところで出発。



山中を行けるところまで馬で進み、そこからゴブリンの根城まで慎重に歩いて行った。


小一時間ほど歩くと──

いた。大量のゴブリンが火を囲み商人から奪った剣や槍を手に大騒ぎしていた。火には人間のものと思われる腕や足がくべられており、ゴブリンは汚く貪っていた。ヘキオン村の人間ではないがすでにどこかで人間を狩っていたようだった。

「クソ…もうどこかで犠牲者が!」アデットは憤った。


身体にも動物の毛皮らしきものを着込んで丈夫さをお互いに確認しているところを見るとやはり今夜なにがしかの行動に出るつもりだったようだ。


「よし、行ってくる。絶対に動かないようにな」

「えっもう?!ちょっと様子をみてから…」

ベノスは身を屈めて素早く移動、アデットの潜む場所が悟られぬよう大きく根城を回り込んで襲撃位置を確認。



…この辺でいいか。

悪臭に気が散らぬよう口元を布で覆う。


村で調達した剣を抜き、木の陰から音もなく飛び出す。


瞬時に2、3匹を斬り裂いた。

ゴブリン達が大声を上げるが、ベノスは構わず次々斬り捨てていく。


ゴブリンもすぐに臨戦体勢をとって奪ってきた剣や槍を振り回す。重みで体がよろけている。


…やはりな。

鋭く剣をふるいながら予想通りと考えていた。

奴らの小さな体で昨日今日奪ってきた人間用の慣れない武具をそう易々と使いこなせるはずがない。ゴブリンどもが要領を得る前に襲って正解だった。


そしてもう一つの読み。俊敏性のあるゴブリンの動きはラブロウの身軽さに似ていた。比べればラブロウの方が圧倒的にしなやかで掴みづらいものであったが。

そのラブロウの動きを徹底的に調べ尽くしたベノスにとってゴブリンごときの動きを読むなど造作もなかった。


開始一分。すでにゴブリンの死体の山が築かれていた。


心配で様子を見にきたブランに、アデットは一言

「凄すぎる…!」

まるで疾風のような動きでゴブリンを斬り刻んでいくベノスにブランも言葉を失う。


村で調達した剣は折れてしまうが、すぐさま折れた剣を捨てもう一本の剣を抜いてゴブリンの攻撃を全てかわして斬撃をくりだす。

前の戦いでは最悪のコンディションと興奮状態からか気が付かなかったが、さすがに今回は何か妙だと思いはじめた。


ゴブリンが全く逃走する様子がない。


一旦逃げ出した者もすぐ踵を返して襲いかかってくる。ゴブリンというかモンスターの性質上、人間のように明らかに敵わない相手に立ち向かうような行動を取ることはあまりない。あるとすれば…

何かにコントロールされているのか?


と、思ったその瞬間、根城の奥に建てられていた粗末な藁ぶきの小屋から鉄斧が凄まじい勢いで投げつけられてきた。


紙一重で避けたベノスの前に現れたのは、巨大なゴブリンだった。

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