村民会議
アフ、アデットと共に村の中心部までやってきたベノス。
辺境の小さな村かと思い込んでいたが意外にも村は活気があり、数軒の商店の前では買い物客で賑わっていた。
「ハーズメリア王都から国境までの行路沿いの村だからね。人もそれなりに多いのよ」
小さいながら人で賑わう村のメイン通りに驚いたベノスにアフは言う。
他の家屋より少し大きめの邸宅に案内された。村長一家、アデットの住む家だ。
会議室には村の男たちが集合して、なにやらガヤガヤと相談をしていた。
「村のみなさん、お待たせした。先日ゴブリンを大量に“駆除”してくれたベノス殿に来ていただいた!」
みな口々に話しかける。
「おおーやっとおでましかあ!」
「傷は大丈夫なのかね」
「随分若いなぁ!」
「旅の途中かなにかかい?」
「ベノス殿は各地で剣の腕を試す武者修行をされているお方…だったっけ?まあそれはともかく!」
アフから事前にそんな説明を受けていたアデットだったがそんな事も流すくらい事態は急を要していた。
「知っての通り緊急事態だ。今夜にも武装した大量のゴブリンが村を襲う可能性がある。相談していた通りすぐにでもこちらから逆に打って出る必要があると考えているが、どうだろうか」
先ほどのようにみなザワザワと隣と話し出す。
「で、誰が討伐に出向く?ようやく傷が治りかけたっつうその若剣士さんが行ってくれんのかい?」
「当然。その為にここへ足を運ばせてもらった」
ベノスが淀みなくハッキリ答えるとおお〜と声があがる。
「もちろん俺も行く。他に同行してくれる者はいないか?」
アデットの呼びかけにまたザワザワと相談がはじまる。
「1匹2匹ならともかくなぁ…さすがに…50匹近いんだろ?」
「守りに徹した方がいいんじゃないか?」
消極的な声が上がる中、それを後押しする若者が前に出る。
「あのなぁアデット。ゴブリンどもったって、わざわざモンスターの拠点に素人集めて飛び込むなんてバカのやる事だぜ?無謀すぎんだよ。死人増やしてーのかオイ。」
狩人のタウザールだ。取巻きが3人さらに声を上げる。
「そのよくわかんねーよそモンに頼み込んだ上、弓もろくに使えねー剣だって使ったことねーお前がいってゴブリン50匹相手になにすんだよ!自殺してーならヨソでやれや!」
「カッコつけてんじゃねーぞタコ!」
口々に罵声を浴びせる。
しかしこの様子、どこかで…。あ、メキシオとスラドルみたいだ!ベノスは思わずニヤリとしてしまった。
「なに笑ってんだあ?テメー」
タウザールがベノスに凄む。ベノスは静かにこう返す。
「怖くて行きたくなければそう言え。
特に志願者がなければ俺だけで行く」
ベノスの強気な物言いにタウザールはくってかかる。
「ああ?!ゴブリン相手に死にかけたザコが抜かしてんじゃねーよオラぁ!」ベノスの眼前に顔を近づけるタウザール。
自分より大柄なスラドルやカムラを体術訓練でものともせずねじ伏せ、屈強な騎士団員や王国の兵士団を常日頃目の当たりにしていたベノスにとっては村で息巻く、せいぜい村民同士の喧嘩くらいしかしたことがなさそうな男などになんの恐怖心も抱かなかった。むしろ、いまなら倒すのに何秒かかるかな?5秒か?などと考えていた。
これまで少し凄めばすぐ黙ってしまう村民たちばかりを相手にしてきたタウザールは顔色ひとつ変えずこちらを冷ややかに見つめるベノスの態度に一瞬たじろいだ。手を出したら負けるかも…と頭をよぎったからだ。しかしすぐにこう言い放つ。
「上等じゃねーか。じゃあひとりで行ってもらおうじゃねーか剣士様によお!」
「村の見張りくらいはやってやっからよー。ありがたく思えよアデット!」
扉を蹴って外へ出るタウザールと取巻き達。
メキシオとスラドルみたいだな、本当に。今ごろなにやっているのかアイツら…。そんなもの思いに一瞬ふけってしまったが、集まった村の男たちの声にすぐ引き戻される。
「いや、タウザールの言うことも間違っちゃいないぞ。
みんな守らなきゃいけない家族がいる。小さな子供や年老いた親。命を捨てるような行動にはおいそれと出れんよ。」
「それはわかっている、わかっているが…」アデットは言い淀むも、ベノスはこう言った。
「だからこの村に縁もゆかりもない俺がひとりで行く。
みんなは村の守りをしっかり固めて、女子供をいつでも避難できるようにしておいてくれ。」
老齢の村人がベノスに問う。
「ただ通りすがった村のために、なぜそこまで…」
「あの夜のゴブリンどもとの戦いは痛み分けだったんでね。
この程度の相手なら完全勝利を収めておかないと前に進めそうにないのさ。」
「ダメよ、まずは意固地なところ直さなきゃ…」
アフは後ろでため息をつく。




