途中入団の少年
騎士団少年部への入団希望受付は3年に一度、資格は13歳〜18歳までのハーズメリア生まれの男子。数百人の希望者の中から簡易なテストを経て百人弱選ばれ、見習いとして訓練が開始される。体力的にも精神的にも過酷で3年の訓練期間後10名残ればその期は豊作と言われている。
ベノスの所属する108期生は現在14名。あと1年ほどの訓練を無事修了すれば正規騎士団入りとなる。誰一人脱落者なくいけば過去最高人数の正規騎士の誕生と喜ばしいことではあるが、ベノスは正直“多すぎる”と感じていた。
ベノスから見ると、過酷な訓練を経て残った同期すら自分に比べれば遥かに劣る者たちばかりである。
自分と取巻きの数名以外は全員脱落してほしいとすら思っていた。
─“暴れ馬騒動”翌日、早朝座学の時間。
講義を待つ訓練生の前に、ゼラー教官が見知らぬ少年を引き連れ講義室に入って来た。
「突然だが、今日から皆と共に訓練を行うことになったラブロウだ。よろしく頼む」
訓練生たちは一斉にざわめいた。
騎士団少年部への途中入団なんて話はこれまで聞いたことがなかったからだ。
「なんか急に訓練することになって俺もびっくりしてんだぁ。わかんねえことしかねーから迷惑しかかけねーけどよろしくな!」
ラブロウは無駄にデカい声で挨拶をし、最前列のピットーの隣に座るやいなや
「今から何すんだ?騎士なのに本読むのか?」とピットーの教本を珍しげに見出した。
「ラブロウ、これまでの山での生活とは180度違う生活だが少しずつ慣れるようにな」
ゼラー教官はまるで小さな子を諭すような口調でラブロウに言った。
ベノスの中には凄まじい嫌悪感が沸き起こっていた。
なんだこのサルは?突然現れた知性のカケラも無さそうな山猿と一緒に訓練?冗談じゃない!
「おいベノス、そうイラつくなよ」
小声でメキシオが囁く。
ラブロウが現れてから一言も発していないし、みじろぎ一つしていないがメキシオら取巻きにはベノスのラブロウに対する嫌悪感は充分すぎるほど伝わっていた。
丁度いい所に次の時間は剣術訓練。今後デカい声を出さないようきっちり相手してやるか。
ベノスは口角を少し歪ませた。
─そして剣術訓練。
木製の剣、薄い鉄製の軽鎧と兜を装備し訓練を行う。とはいえ、ヒットすれば相当な衝撃で骨折をした事がある者もいる。
皆ある程度怪我のなきよう手ごころを加えて訓練を行うが、ベノスと取巻きたちは“真剣に訓練に取り組む姿勢”を口実に
気に入らない対戦相手を徹底して痛めつけていた。
ラブロウの相手は、訓練生の中では一番の体格をもつベノスの取り巻きのスラドルだ。
「わかってるよなスラドル」
「へっ、当然」
ベノスとスラドルが小声で一瞬言葉を交わした後訓練がスタート。一人の相手と終了の合図まで自由に打ち合う乱取りのような訓練だ。
スラドルはその大柄な見た目と違い太刀筋にスピードがある。
「うわっ、危ねえ!ケガすんだろおい!」
「これが剣術訓練だよ、新入り!」
ひえっ!わ!…と声をあげながらもラブロウはスラドルの剣を全て紙一重でかわしていく。
(なんだコイツ?すばしっこ過ぎんだろ!)
ラブロウの動きに驚きを隠せないスラドル。
スラドルの猛攻をかわしながら、ふとメキシオとピットーの訓練がラブロウの視界に入る。体格も小さく腕力もないピットーはメキシオの巧みな剣捌きにボコボコにされていた。
「オラオラぁ、全然相手にならねーな道具屋!」
衝撃で兜が外れたピットーの頭部に剣がスピードを緩めることなく振り下ろされようとしたその瞬間。
ラブロウの手から光の矢が放たれ、メキシオの木の剣を一撃で粉砕。
ついでに光を帯びたもう片方の手でスラドルの剣を掴み粉々にしていた。
「あー…しまった。つい…」
「ラブロウ!それはいかんといっただろう!」
ゼラー教官が叫ぶ。
驚愕の光景にベノスを含め皆立ち尽くすばかりだった。