地下拘禁室にて②
「他の訓練生が何人かメキシオとスラドルがキミから手渡されたモノを僕の荷物にこっそり入れるのを見ていたんだよ。普段ボクに近寄りもしないキミらが出発前に突然激励する姿にみんな訝しんでいたんだ。」
悪知恵は働いてもベノス達はまだ10代だ。つまらない悪事など簡単に露呈するというところまで思い至らなかったのだ。またこれまで横暴な振る舞いが見過ごされてきた経緯から、こういった場面での行動に慎重さなどまるで皆無であった。
「スラドル・メキシオはその件についても追及されてる。いずれ口を割るだろう。……ベノス、キミらはもうお終いだ。」
最後にそう告げたジロッサは拘禁部屋の前から離れる。足音が少しずつ遠くなっていった。
だがベノスの心の内に去来したものはこれから下る処分への絶望感や後悔、悪事が露呈するかもしれない焦りではなく、さらなる怒りと憎しみだった。
(こんな雑魚どもが、オレのやり方を糾弾したり行く末を妨げるなどもってのほか。断じてあってはならない。あってはならない…!)
ベノスは怒りをこめ、両腕で力いっぱい扉をなん度も叩きはじめた。木製だが分厚く作られた扉は硬く、ベノスの腕や手は血が滲む。
だが何度も繰り返すうち、衝撃で扉の錆びた鍵穴の部分が緩みはじめた。ただの物置きとして何年も使われていなかったため誰も気に留めていなかったのだろう、鍵穴やノブを固定しているクギや周辺の木材が腐食していたのだ。
ついに固定するクギが折れ、鍵の部分やドアノブがグラグラになり、バキッと音をたて破損したと同時に扉がゆっくり開きはじめた。
ベノスも少し驚いた。怒りにまかせ八つ当たりしていただけで扉を破るつもりは全くなかったからだ。
だがベノスはなんの躊躇もなく部屋の外へ出て、静かに地下の階段を上がった。
地下から出る扉は開きっぱなしだった。
少し離れたところに見張りがふたり、こちらに背を向けて雑談に盛り上がっていた。
ベノスは特に身を隠したりコソコソとすることもなく見張りを横目に外へ出た。
向かう先は騎士団少年部。
「奴は医務室か、寄宿舎か…」




