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漂泊のベノス  作者: ism
【第五部・漂泊者の帰趨】

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108/123

休息

「かぁ〜…こいつぁ迂闊に近づくとやべえな」


ベノス、エルトロ、アフを背中に乗せエンリスを脇に抱えた竜形態のギルメルは上空からヘキオン村を見下ろしながら呟いた。

「かなり強い呪術結界だ。普通の人間は近づきゃすぐ呪いの眠りにとらわれちまうな」


眼下には一面、灰色の霧が立ち込めて村全体を覆い隠している。夕陽が差しはじめる時間ではあるが結界の影響か上空も辺りもすでにうす暗い。


「ギルメル公のお力で、この結界を消していただくことは出来ませんか?」

ベノスはまるで神仏にでも願うかのようにギルメルに伺いを立てた。


「あのモナルカの娘が放った“ただの魔法”なら無力化するのは容易いが…これだけの広範囲・持続力、モナルカの娘の魔力に加えてどこぞの邪神やらなんやらの“呪力”が絡んでるようだ。これがかなり面倒なシロモノでなぁ。やはりあのお嬢ちゃんを叩くのが一番手っ取り早い」

ギルメルはそう言うと巨大な翼を広げた。

「とりあえず、少し離れたところに降りて休むか」

灰色の霧がかからない、村から離れた低い山の山頂に降り立ってベノスたちを背中から降ろした。


竜の姿から人間の姿に瞬時に戻ったギルメルは、腰の道具入れから畳まれた布のようなものを取り出す。

勢いよく広げると、瞬く間に大きなベルテントに変わった。テントの奥にこれまた道具入れから取り出した寝袋を敷き、

「さ、その娘さんを寝かせな」

とアフを抱きかかえたベノスに促した。

ベノスが寝袋にアフ寝かせると、エンリスがすぐさま走り寄ってアフのそばに体を伏せた。


「なんとか、先生とお前を連れ戻せて良かった」

ベノスがそうエンリスに語りかけると、エンリスはグルル…と小さく唸って目を閉じ顔を背けた。


ベノスは小さく微笑む。

その光景を見ながらギルメルは

「さて、メシにするか。どいつもこいつも相当消耗してるだろう。エルトロ、火を起こしといてくれ」

といいつつ、森の中に分け入っていった。


「…ギルメル公に、食事の用意なんてさせてしまっていいのか?」

恐縮するベノスにエルトロは、

「はは、人の世話焼くの好きなんだよあの人。俺も昔稽古つけてもらってた時は毎日食事作ってもらってたよ」

と懐かしそうに話した。


「ギルメル公に稽古?」

驚くベノス。

「ああ、ギルメル様は俺と姉上の師匠なんだよ」

なるほど、自分と変わらぬ歳ごろのエルトロやキーラが、老練のデズオンや見るからに屈強なルドレオルザに並びドラグガルドの精鋭部隊に選ばれたのもそういった特別な鍛錬を経たからか、とベノスは合点がいった。


数十分後。

2頭の鹿と、鳥の卵や野草を携えたギルメルが戻ってきた。

ギルメルはどこからか取り出した小さな手鍋に水と野草を入れ、エルトロの起こした火に焚べた。

さらに手際良くナイフで鹿を捌き、食べやすい状態にするとスパイスと火の魔法を使って丁寧に焼いていく。周囲に食欲をそそる香ばしいにおいが広がる。

ぐつぐつと煮立たせた鍋に卵を割り入れ、塩で味を整える。

「よし、こんなもんか。さあ食えよみんな」

10分とかからず食事は完成。


「ありがとうございますギルメル公。御相伴に預かります」

深くお礼を言うベノスに

「ははは、遠慮せずたらふく食え!」

とギルメルは豪快に笑いながら答えた。


「ぃやっほう!いただきまーす!」

鹿肉に齧りつくエルトロ。

いつの間にかそばにエンリスもおり、肉に食らいつく。

それを見てベノスも肉を口にした。


「おう、いい食いっぷりだ。作った甲斐があるってもんだ。おっとスープはそこの娘さん用のメシだから手を出すなよ」

ギルメルは食事をするベノスらを和やかな表情で見つめながら懐からキセルを取り出し一服する。


「ドラグガルドに連絡をとってあのモナルカの娘…ディアボリカの居場所を確認し、しっかり寝て夜明け前には討伐に向かう。あのお嬢ちゃんもこっちとやる気まんまんで準備してるはずだ。下手すりゃ今夜にでも再度やって来てこっちが迎え撃つ形にもなるかもしれんしな」

と肉を頬張る二人にギルメルは煙を燻らせて告げる。

そしてベノスを見ながらこう付け加えた。

「あと、ディアボリカは俺が相手をする。いいなベノス」


「承知しています。そもそも俺の力では到底敵わない相手…先刻の戦いでは、一騎討ちの機会を下さった上に途轍もない助力を与えていただき…本当に感謝しております。ギルメル公のお力がなければ死んでいました」

ベノスは先程の戦いを振り返り、あらためて感謝を口にした。


「ザンデロスから話は聞いていたが、俺も自分の目でお前さんの腕前と度胸がどんなもんか見ておきたかったからな。ヤツが言うだけのことはある。思ってた以上だった」

ギルメルはニヤリと笑ってベノスを見たあと、ん?と何かに気づいたような表情でテントの奥に目をやった。


エンリスはすぐに察し、肉を放り出してテントの中へ駆け出した。

「…エンリス…?ここは…」

枯れた弱々しい声で、目覚めたアフがそばに来たエンリスに話しかけた。

エンリスは尻尾を振りながらアフに顔を近づける。


「─先生!よかった、意識が」

ベノスも安堵の表情でアフのそばへ歩み寄った。


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