ゆずれぬ戦い
「おいおいベノス!」
ディアボリカに再度挑もうとギルメルの前に歩み出たベノスを思わず止めに駆け寄るエルトロ。
「さっきの戦いでわかったろ?オレたちが到底敵う相手じゃない。こっから先はギルメル様に任せよう!」
そう諭すエルトロに戦意を失っていない目でベノスは答える。
「すまんエルトロ。これはオレがディアボリカに仕掛けた戦いなんだ。手も足も出なかった、だから後始末はギルメル公にお願いしよう、なんて無様なマネは悪いが出来ない。納得いくまでやらせてくれ」
「気持ちはわかるがベノス、あんな…」
と、言いかけたエルトロをギルメルが制止する。
ベノスの目をじっと見つめるギルメル。
「…フフッ、いい目だ。悪くない」
そう言うとギルメルは、ベノスの腹にいきなり拳を叩き込んだ。
「ぐぅっ!」
思わず声がもれたベノスであったが、殴られた腹に痛みは全くない。
それどころか身体の芯に何か熱いものが宿ったような、力がみなぎる感覚をおぼえるベノス。
「気合い入ったか?んじゃあ行ってこい!」
ギルメルに背中をドンと押され、ディアボリカと対峙するベノス。
剣を構えるベノス。
恐ろしく冷たい目をしながらも諦めや怒りが入り混じった表情でベノスを見つめながら静かに言葉を口にする。
「…救いようがないバカね。もういい。貴方はここで死になさい」
すっとベノスに向けられたディアボリカの手から、強大な闇の魔力の奔流が放たれた。
辺り一帯の大地と空気を揺るがすほどのパワーにギルメルはエルトロを結界で守りながらグッと踏ん張った。
明らかに、本気でベノスを殺しにかかったのが分かった一撃だった。
「ベノス!!」
声をあげたエルトロに、ギルメルは
「落ち着け。ザンデロスに聞いたが、ベノスには“勇者の加護”があんだろ?」
と言いながら自分の胸を指さした。
それを見てエルトロは呟く。
「あ…!」
魔力の奔流の中、無傷で踏ん張るベノス。
胸のあたりからは不思議な光が漏れている。かつてラブロウから受けた魔法の傷だ。
それによりベノスには闇の魔力を完全に無効化する力が備わっていることをエルトロは失念していた。
「もう…面倒くさいわね」
ディアボリカも怒りのあまり、その力の存在を忘れてしまっていたが別にどうということはない。
攻撃手段など他に幾らでも持っているからだ。
ディアボリカの背後から2本の槍が飛び出してベノスに襲いかかる。
「それは無力化できないでしょ。さっき私の分身にグッサリ刺されたもんね」
ベノスが無効化できるのはあくまで魔力であり、闇の力で作られていようと実体化した剣や槍は別だ。
高速で襲い来る槍を難なく捌きディアボリカに迫るベノス。
ディアボリカは虚空からさらに槍と数本の禍々しい刃のナイフを顕現し、ベノスに向かって放つ。
槍とナイフ合わせ10本ほどの武器を全て剣で弾き、または見切ってかわすベノス。
明らかに常人の動きや反射速度ではない。
戦いの前の“気合い”の一発──肉体の能力を大幅に高めるギルメルの補助魔法の効果だった。
弓から射たれた矢のような速度で迫り来る武器の群れが今のベノスにはまるで止まって見えるほどだった。
「いい加減にしなさいよ!」
複数の武器をまるで楽団の指揮者のような仕草で操りながら、さらに無属性魔法をも放ちはじめるディアボリカ。
だがベノスはそれすら避け、ディアボリカのすぐ目の前まで踏み込んでいる。
ベノスの剣とディアボリカの武器がぶつかる音が終わりなく続く普通の人間では目視不可能な超高速の攻防。
“竜の眼”をもって、その紙一重の戦いを祈るような気持ちで見つめるエルトロ。そしてギルメル。
(!!…そこだ!)
ギルメルとベノスはほぼ同時に同じ思考をした。
疲労からか、一糸乱れぬ動きをしていたディアボリカの武器に一瞬、恐らくベノスとギルメル以外では絶対に気が付かないであろうレベルでほんの僅かに動きが緩み、隙が生まれた。
針の穴を通すような、ディアボリカの喉を確実に貫くことができる剣の道筋ひらけたのだ。
勝負は決したかに思われた。
──だが、鮮血とともに吹き飛ばされたのは、ベノスの方だった。
宙を舞うベノスの身体を瞬時に移動して受け止めるギルメル。
ベノスの身体を槍とナイフが貫き、おびただしい量の血が滴り、地面に血溜まりをつくる。
ギルメルは先程と同じく、再度ベノスに魔力を送り込んで突き刺さった武器を消滅させ傷を塞ぎ完全治癒を行った。
「かぁ〜、お前、最初からこの結果を狙って…!?」
困ったやつだという表情でベノスを見るギルメル。
「え?!狙う?」
状況の飲み込めないエルトロは二人に駆け寄り声をかける。
傷はギルメルの力で元通り治ったものの血を多く失い足元をフラつかせながら立ち上がるベノス。
「…一度ならず二度までもお手を煩わせてしまって申し訳ありません、ギルメル公」
ベノス、ギルメル、エルトロはディアボリカに視線を向けた。
ディアボリカは怒りに満ち溢れた形相でベノスを睨みつけていた。
「ベノス……!!あんた、このあたしに……!!!」




