復讐者ギルメル
ディアボリカの前にはエルトロよりさらに大きい、全身に白金の装甲を纏ったドラゴンが立ちはだかっている。
ベノスは鉱物化したエルトロに覆い包まれ、その場の状況はまるで把握出来ないがディアボリカが呼んだその名は耳に届いた。混濁した意識の中、ふと数日前のザンデロス達との会話が脳裏によぎる。
(ギルメル…?!たしか、ザンデロスの叔父…30年前にモナルカを撃退したという…)
「ずっと前から色々と話だけは聞いてたけど、こんなところで会うことになるなんてね。初めまして。モナルカ第三代当主・ディアボリカよ」
ディアボリカは微笑みを湛えながら自己紹介をするが魔力を抑えるどころかさらに高め警戒心を露わにする。
「存じ上げてるよお嬢さん。いやぁ、まさかこれまで討ち倒したモナルカ従属者どもの言った通りこんな見目麗しいお嬢さんが現当主とはなぁ。俺の追跡を惑わす為のデタラメかと思っていたが」
そう言いながらギルメルは竜形態を解き、人間の姿になった。
ザンデロスによく似た精悍な顔つきに長髪と無精髭。使い込まれた革のハットとコート、腰には太いガンベルトのようなものに武器やアイテムを吊るし、熟練の冒険者といった風貌であった。
鉱物化したエルトロに触れると、ボウッという音とともに一瞬で膨大な魔力を送り込んだ。
鉱物化の魔法が解除され、さらにエルトロの竜形態が解かれた。
「…うぅ…え?!ギルメル様!!」
意識が戻ったエルトロはギルメルの姿に驚きと安堵の表情をみせた。
「腕輪から発する魔力信号の消失はSOSの合図。全速力で飛んできたぜ。こんな化け物相手によく持ちこたえたな」
エルトロに向かって笑みを浮かべ親指を立てた。
「SOS…?あぁ〜、なるほどね。戦いの前に腕輪を壊したのはそういうコトだったの。…ていうか失礼ね、誰がバケモノよ。ドラゴン風情が」
ギルメルを睨みながらディアボリカが呟いた。
「はは…ギルメル様ならすぐ気付いて爆速ですっ飛んで来てくれるって信じてましたよ。間に合ってくれてよかったぁ…」
エルトロは全身の傷こそギルメルの力で完治しているものの、魔力を使い果たしてしまいグッタリとした様子で答えた。
「で、お前さんがベノスだな?ザンデロスから話は聞いてるぜ。世話になった友人だから助けてやってくれと頼まれてる」
ベノスにも先程のエルトロ同様に魔力を送り込む。
脇腹に突き刺さっていた剣は塵となって崩れ落ち、傷も瞬く間に塞がっていった。
初めて会うドラグガルドの王族たるギルメルに対し、無礼なきようベノスは膝をつき感謝を述べる。
「ありがとうございます、ギルメル公。貴方の武勇はザンデロスから聞き及んでいましたが、まさか救援に来てくださるのが貴方だとは…。あらためて、私はベノス・ディメナードと申します」
「ははは、よせよせ。長いこと王族らしい暮らしも振る舞いもしてないし、外界に出ずっぱりでほとんど冒険者みたいなもんなんだ。畏まった扱いは性に合わん。楽にいこう。よろしくなベノス」
ギルメルは、立て立て、とベノスに促し肩をバンバンと叩きながら手を強く握った。
気さくに挨拶をするギルメルの表情が突如、ギラリと獲物を捉えたかのような目つきに変わった次の瞬間──
ドォォオン!
と、真上から何かが落ちてきたかのような衝撃を受ける一同。
辺りを見回したベノスは驚愕した。
ギルメルのハットの真上にはディアボリカの放ったものと思われる巨大なギロチンのような刃。
そしてその刃を振り向きもせず二本指で白刃どりの如く受け止めるギルメル。
「そう焦りなさんなよお嬢さん。今から幾らでも相手してやるから」
巨大なギロチンの刃に魔力を流し消滅させると、獲物を見据えるような目つきのままニヤリと笑ってディアボリカの方に顔をむけた。
「ベノスや下っ端のドラゴンと違って楽しめそうね」
ディアボリカの力高まる魔力が辺りに充満しだす。
エルトロはあらためてディアボリカの恐ろしさを痛感した。
先程のギルメルに対する攻撃を、魔力が尽きてしまっていたとはいえ全く感じとることができなかった。
つまり本気を出せばいつでも、ベノスもエルトロも殺すことが出来たということだ。
自身の力の及ばなさを感じながら、あの攻撃を容易く見切ったギルメルの凄さにもまた感服した。
(俺じゃ手も足も出なかったけど…ギルメル様なら…!)
睨み合うギルメルとディアボリカ。
両者の凄まじい魔力が渦巻く中、なんとギルメルの前にベノスが歩みだした。
「?!どうしたベノス?」
突然のことに、不思議そうに尋ねるギルメル。
「ギルメル公。もう一度、奴と戦う機会を下さい。一太刀も与えずこのまま引き下がることなど出来ません」
ベノスは剣を握り直し、ディアボリカに向けた。




