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漂泊のベノス  作者: ism
【第五部・漂泊者の帰趨】

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届かぬ一手

「くらえ!」

エルトロは、嵐の結界に難なく侵入してきたディアボリカに間髪入れず強烈なブレスを放った。


普通の人間なら一瞬で塵になる凄まじい熱風だが、ディアボリカの周りに魔力で形成された防護膜には一切通じず、彼女の美しい黒髪を僅かに揺らしただけであった。


「こんなものが私に通じるとでも…」

と言いかけたディアボリカに、エルトロは魔力を帯びた爪で襲いかかる。


エルトロの爪があとほんの数㎜のところにまで迫るも、ディアボリカの防護膜は一瞬で全方位放出型の攻撃魔法に転じ、魔力の奔流が怒濤の如くエルトロとベノスを襲う。


エルトロは常時展開されている対魔法結界でダメージは軽減したものの、放たれた魔力の衝撃に後方に数m押された。

ディアボリカの魔力を全身に受け、まるで毒のように身体を蝕まれる痛みを感じるエルトロ。


エルトロの後方にいたベノスも、ドラグガルドのマントで防御するも放たれた魔力に枯葉のように吹っ飛ばされた。

ベノスは以前ディアボリカの従者ゾゴムからこれとよく似た魔法をその身に受けたことがあるが、威力はその時のものを遥かに上回るものだった。


「へぇ、やっぱ頑丈なのねドラグガルドのドラゴンは。何年か前に戦ったドラゴンは今の一撃でオダブツだったのに」

ディアボリカは感心するようにいうと手に集めた魔力を瞬時に禍々しいの形状の槍に変える。

槍は重力を失ったようにふわりとディアボリカの手の上で浮かんだ。


「これならどう?」

宙に浮かぶ槍はディアボリカの声と同時にヒュッと風を切ってエルトロの心臓目掛け飛んで行った。


「遅えよ!」

爪で難なく飛んできた槍を砕くエルトロ。


だがディアボリカはその光景を笑みを浮かべて眺めている。


エルトロは異変をすぐに察した。

砕かれた槍の破片が地面に散らばることなくエルトロのすぐ側に滞空しているのだ。

「しまっ…!」

先ほどのディアボリカの攻撃魔法によって防御結界が弱体化してしまったため再度結界を張ろうとするエルトロだったが、それより早く無数の破片が雨のように降り注ぎ、エルトロの身体を刺し貫いた。


「ぐうっ!」

ドラゴンの表皮に突き刺さるほどの槍の破片だが、恐ろしいのはそれだけではなかった。

刺さった破片から無数の微細な触手が出て傷口に根を張りだす。徐々に肉体を侵蝕し激痛がはしる。


痛みに耐えるエルトロの様子にベノスは思わず剣を構えディアボリカに向かって駆け出した。

ディアボリカの魔力によって作られた槍の破片を除去するには彼女を倒すしかない。


「や、やめろベノス…!」

制止するエルトロを傍を疾風のようにすり抜けディアボリカに迫るベノス。


「ふふふ、貴方はひとまずコレの相手でもしてなさい」

ディアボリカは言葉と同時に魔力を込めた手を掲げ振り下ろすと、ベノスの眼前に突如“もう一人のディアボリカ”が姿を現した。


ベノスは躊躇なく斬りかかる。

だがもう一人のディアボリカはベノスの繰り出した斬撃を手に持った漆黒の剣で受け止めた。


背格好こそ全く一緒だが、現れたもう一人のディアボリカには目も鼻も口もない。

「私の10分の1くらいの魔力を使って出来た分身よ。それが倒せたら相手してあげるわ。まぁ無理でしょうけど」


ディアボリカの分身は激しい攻撃をベノスに浴びせてきた。

技術などあったものではないデタラメな剣さばきだが、繰り出されるスピードが尋常ではなかった。


その攻撃をなんとか防ぐだけで精一杯のベノス。


「ベノス!」

叫ぶエルトロに向かってディアボリカは魔力の光輪を

次々と放つ。

「ほら、あんたの相手はこっちよ!」


エルトロは爪や尻尾で弾き飛ばすが、弾き飛ばされた光輪はブーメランのように再度エルトロに向かってくる。さらに速度を増して。


捌ききれず徐々に光輪に切りつけられるエルトロ。


ディアボリカは腕組みし余裕の笑みを浮かべながら、劣勢のエルトロとベノスを眺めて煽った。

「なぁーに?だらしないなぁ。もっと楽しませてよ」


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