2人の覚悟
「…なんのマネ?なんかのおまじない?」
突如、人間の姿に戻り身につけていた腕輪を壊したエルトロに対し、表情を変えることなく問うディアボリカ。そんな彼女をなだめるようにまぁまぁと両手を前に出すエルトロ。
「まぁそう焦るなよモナルカのお嬢さん、それにベノスもな。後に予定がつかえてる訳でもないんだから」
軽い態度のエルトロを訝しむディアボリカは、
「何企んでるのか知らないけど、話し合いで事を納めるつもりならアンタがさっさとベノスを説得しなさいよ。私も出来ればベノスを傷物にせず連れて帰りたいんだから」
とエルトロにベノスの懐柔を促した。
エルトロは静かにベノスのそばに歩み寄る。
「ベノス…まともにやっても勝ち目はなさそうだけど」
「すまんエルトロ、退くことはできない」
いつになく真剣な表情を近づけて囁くエルトロに、ベノスは固い決意を返した。
「君は撤退してくれて構わない。ただ、エンリスとアフ先生なことだけは頼まれてくれないか?」
エルトロに戦う気がないと思い込んだベノスは、逃げるのであればせめてアフ達も連れていくよう頼んだ。
「俺だけ逃げるワケないだろ。それにディアボリカはたぶん誰も逃さないよ」
恐らくディアボリカはエンリスもアフも、エルトロさえも脅迫材料にしようとしている。
ベノスが頑なに拒むようなら、村に人間だけでなくこの場にいるもの達の命の保証はしないと。
「あと3分ねー」
どこからか取り出した高級そうな懐中時計を見て時間を計りだすディアボリカ。
「では、戦うのか」
ベノスの問いに、エルトロは静かに頷く。
「やるしかない。もしお前がディアボリカの要求を飲もうとしたら力ずくで阻止してたさ。俺には戦うしか選択肢がなかったんだよ最初から。お前を連れて行かれたらここで生き延びたってドラグガルドに戻りゃあ…だからな」
と言いつつ、舌を出しながら首を掻っ切る仕草をしておどけてみせた。
“ベノスの護衛”。
ベノス自身今まで重く捉えていなかったが、それはドラグガルドの王子・ザンデロスが下臣エルトロに命じた「王命」である。
王族に命じられた任務、しかも仇敵が絡む重要な任務だ。護衛対象であるベノスを護りきれなかったなどという結果は到底許されることではないだろう。
「すまんエルトロ…やはりあの時、護衛の話は固辞すべきだった。今さらこんなことをいっても遅すぎるが」
「んなこたぁいいんだって。それより、まともにやり合おうなんて思うなよ。なんとか身を守って時間を稼ぐんだ。運がよければ必ず…」
エルトロとベノスの会話を遮るようにディアボリカが声をあげる。
「はーい、しゅーりょー。で、どうすんの?」
「あと20〜30分相談させてくんない?」
ヘラヘラと返答するエルトロに対し冷たい表情を向けるディアボリカ。
「時間稼ぎや冗談が通じる状況かどうか、流石にわかるよね?」
エルトロとベノスに向けられた掌に、どす黒い魔力が込められ始める。
「さすがにもう待ってもらえねーか」
諦めたようにため息をついた次の瞬間。
エルトロは一瞬でドラゴンに姿を変えつつ、ディアボリカの目の前に強大な竜巻を出現させる。
竜巻は洞窟の前にいるエルトロとベノスを中心に形成された嵐の結界だった。
巻き上げられた周辺の石ころが一瞬で粉々に砕け散り、暴風の中に発生する雷がバチバチと火花をたてる。
「これでしばらくは時間が稼げ…」
と、言い終わる前にドスン!と結界内に重い振動が
響く。
「エルトロ!」
振動に驚いたベノスは思わずエルトロに声をかけた。
「どんだけ強力な闇の魔力でも、さすがにこの結界を破るにはかなりの時間がかかるハズ…」
と言いつつ結界に目をやったエルトロは驚愕する。
激しく渦巻く暴風の一部が、まるで切り取られたかのように穴が空いているのだ。
徐々に塞がりだす穴へ、2撃目、3撃目と魔法が撃ち込まれ、広がっていく。
「んな馬鹿な…!?王子やデズオン様ですらこの結界を破るにゃ相当な魔力と時間がかかるってのに…!
」
そう言いかけてエルトロはハッと察した。
「無属性魔法か…!」
人通れるほどの穴があき、結界内に悠然と入ってくるディアボリカ。
「さあ、はじめましょうか」
※無属性魔法については、第94話をご覧下さい。




