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漂泊のベノス  作者: ism
【第五部・漂泊者の帰趨】

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ディアボリカの誘い

突如現れたディアボリカに驚愕するベノスとエルトロ。エンリスもその闇の魔力を感じとり唸って威嚇する。


「あのつまんない村までわざわざ出向いてあげたんだから、ちゃんと村に居なさいよ。そのドラゴンの目立つ魔力を偶々見つけられたからここまで来れたけどさぁ」

ディアボリカは探索魔法でヘキオン村からエルトロの魔力を探知して追ってきたことを話した。

「!? 村に行ったのか?」

ベノスは嫌な予感がしてディアボリカに問いただす。


「ええ。ちょっとお昼寝してもらったけど」

ディアボリカの言葉に顔色が変わるベノス。

「どういう事だ?!」


妖しい微笑みを浮かべながらディアボリカは魔力をこめた指で宙に円を描いた。

すると円の中に村の様子が映し出された。


村には奇妙な霧が立ち込め、人々が路上や店先、生活中に突如意識を失ったかのような形で倒れ込んでいる。


「貴様…村で何をした!」

激昂するベノスに、ディアボリカは優しい口調で返す。

「落ち着いて、眠らせただけよ。誰にもかすり傷ひとつ付けてないわ。…ただ、あたしが死ぬか魔法を解かない限り死ぬまで眠ったまんまだけど。

…ベノス、あたしと一緒に来て。そしたらすぐに魔法を解くわ」


エルトロはそれを聞きディアボリカに叫ぶ。

「人質かよ、汚ねえ!」


ディアボリカはエルトロを無視して更に話を続ける。

「実はね、あたしいい事思いついたの!ベノス、あたしと来たらあなたをハーズメリアの王様にしてあげる!」


ディアボリカの突然の突拍子もない提案に、一瞬怒りを忘れ唖然とするベノスとエルトロ。


「もうすぐハーズメリアはあたしの国になるの。やっぱさ、王様が居た方がサマになるじゃない?あ・心配しないで、ベノスはな〜んにもしなくていいのよ?あたしの言う通りにしてくれればいい。あたしと一緒に国を動かして、前より面白い国にしましょう。どう?楽しそうでしょう?」

「何が王だよ、ただの傀儡じゃねぇか。裏で糸引くって手口、ほんと変わんないなお前ら」

ディアボリカの話を聞き、呆れたようにつっこむエルトロ。


「…あのさぁ、下っ端のドラゴンはちょっと黙ってて。ベノスに聞いてるんだから」

エルトロをあしらうと再度ベノスに判断を迫るディアボリカ。


「━━ねぇベノス。退屈なんじゃない?強くなった貴方には。王都から遠く離れた何も無い村での生活、そして数ばかりで雑魚みたいなモンスターの退治。どこかで、もっと自分の力を試せる場所を求めてるでしょう?」


ベノスはディアボリカを真っ直ぐ睨みつけたまま話を聞いている。


「…騎士団を追放され、名家たる家柄も失い… 強くなりすぎて安穏な環境に身を置くことも難しい。

…あなたのその寄る辺なく漂う、漂泊する魂が満足できる居場所をあたしが作ってあげる」


満面の笑みで誘いの言葉を投げかけるディアボリに、しばし無言のベノス。

そして口を開く。


「友人を操り人形にされ、どん底から俺を救ってくれた恩人達も邪悪な魔法にかけられた。俺にとってかけがえのない人たちの心や命を道具のように扱うやつらの仲間になるなんて、死んでもお断りだ」


ディアボリカの顔がスッと冷めた表情に変わる。

「あらそう。じゃ村はこのままでいいのね?10日も経てば体力のない人間から眠りながら順に死んでくけど」


「お前さっき、“自分が死ぬか・魔法を解くか”しなければ村は目覚めないといっていたな?」


ベノスは剣の先をディアボリカに向け戦闘体勢をとる。


「はぁぁ…冗談でしょベノス?あなたがそこまで大バカとは思わなかったわ…」

ディアボリカは深いため息をつき、頭を抱えるような仕草をする。


「俺がお前に同行したとて、お前が素直に魔法を解く保証がどこにあるんだ。これ以外にとるべき選択があるのか?」

ディアボリカを見据えたままベノスは剣を握り直す。


エルトロはディアボリカを警戒しつつも高まりはじめる彼女の強大な魔力を感じとり、かなりの危機的状況だと考えざるを得なかった。

(マズイな…さすがにコイツと戦うのはヤバすぎる)


凍りつくような目つきでベノスを見つめるディアボリカと、恐ろしい魔力に気圧されぬよう険しい表情で相対するベノス。


まさしく蛇に睨まれた蛙のような状況の中、エルトロは無言で竜から人間の姿へと戻った。


「…エルトロ?!」

戦いが始まろうかというタイミングで戦闘体勢を解いたエルトロに、ベノスは驚き思わず声をかける。


(“あの人”が気付いてくれる事にかけるしかねーな…)

そう思い覚悟を決めたエルトロは、腕につけた竜の彫刻が施された腕輪を力を込めて破壊した。


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