地下拘禁室にて①
王宮および騎士団の詰所・騎士団少年部の訓練場から少し離れた場所に、古くなって廃棄予定の馬具やかつて式典などで使われていた装飾などが保管されている現在はあまり使われていない、いわば王国の物置きのような建物がある。
その地下には昔は敵兵の尋問などに使われていた小さな小部屋がいくつか存在している。今ではそこも物置きになってしまっているのだが、ベノスとラブロウは騎士団団長からの正式な処分が下るまでそこに拘禁されることになった。
ベノスとラブロウの部屋は地下の両端、一番離れた部屋だったが、午後の乱闘から3時間ほど経ちわずかな日の光も差し込まなくなった頃、ラブロウの部屋に誰かが訪ねてきたのがベノスの部屋にも聞こえてきた。
「えっ、出られるのか?やった!」
地下に響いたラブロウの声に、ベノスはそこ知れぬ不快感をおぼえた。
とはいえ、ラブロウが出されたということは自分もようやく出れるということか…ベノスはやれやれと溜息をついた。
ベノスの部屋に向かって足音が少しずつ大きくなり、やがて部屋の前で止んだ。
(さっさと出せ、こんなカビ臭いところこのオレを閉じこめやがって…)とベノスが思っていると、意外な人物の声が扉越しに聞こえてきた。
「起きてるか?ベノス」
なんとそれはジロッサだった?
「キミのことだからこんなカビた薄暗い物置き部屋で寝るなんてこと死んでもしないよな…まあいいや、とにかく喋らせてもらうよ」
「ラブロウはボクの父上に頼み込んで無罪放免になった。
なんせボクの命の恩人で大事な友人だからね。傷だらけのままこんな所にいつまでも居させるわけにはいかない。
手当して数日休養をとることになったよ。ま、本人は大丈夫だなんて強がっているけどね。
…ちなみにキミは引き続き処分が下るまでここで拘禁継続だ。」
(親や魔法猿に頼るしか能のないブタが…!いずれ訓練に復帰したら二度と対等な口を叩けないよう徹底的にやってやる…!)
ベノスの煮えたぎる怒りを抑え、無言を貫く。
ジロッサは続けた。
「他にも父上に話したことがある。キミやメキシオ・スラドルの、ピットーはじめ他の訓練生に対する横暴で身勝手な振る舞いと言動。これも全て話したよ。きっと父上から騎士団団長の耳に入って今ごろ処分を協議中だろうね。」
「…今までボクは、自分が騎士団少年部を無事修了できさえすれば他の訓練生がどうなろうが正直どうでもよかった。でもこの間のラブロウを見て…みんなを逃がしてひとり危険を恐れず戦う姿を見て、ボクも誰かのために何かをしたくなった。ただ、いつものように父上に頼ってしまったけど…」
ジロッサはさらに話を続ける。
「あと…王国の学術調査団がフンババの死体を確認しに行ったそうだ。普段人前に姿をほとんど見せない魔獣がなぜこんな大暴れしたのか気になったみたいでね。
調査の結果、死体からある花びらがいくつも見つかった。人面獣系の興奮を誘発する花だ。あの花はこの一帯には自生していない。
キミら…
ボクの荷物にフンババを誘い出す花を忍ばせただろう?」




