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トロマの禍  作者: 駄犬
9/18

試練

「上手くいっているみたいだね」


「失敗すると思っていたの? 私のことを低く見積もりすぎだ」


 悪意の構造は醜く、近寄り難いものに限る。神に遣わされた使者を思わせる典雅なる外貌をして、人の耳元に吹聴する悪意の波長はきわめて厄介だ。正体を看破するには相応の知見と、揺るぎない自分の意思が必要となる。


「人に干渉する神性態は往々にして、浮上が困難になるほどの泥に塗れて、結局は取り込まれてしまうから、心配をしてるんだよ」


 二脚を挟んで置かれた無機質なテーブルは、彼らの存在を知覚する為に鎮座していて、利便性などあってないようなものだ。足を伸ばそうとテーブルの上に投げ出せば、人間の倫理観とはかけ離れた常識を備えた、上位の存在に相応しい振る舞い方として咀嚼できた。


「アイツは人間に肩入れしすぎたんだよ」


 不躾に舌打ちをし、仲間の不始末を誹る。


「君も同じ轍を踏まないとは限らないだろう? 絶対はないんだ」


 テーブルの上に乗せた足を組み直し、石像のように精巧な脚線美を晒す。人間の礼節に則って、その不躾さを指摘し態度を改めさせるよりも、芸術としての美しさに目を奪われる。


「私はあくまでも、神の寵愛を授かる人間が如何に尊く、儚いかを確かめる為の試練を与えただけ。一線を引いて接している」


 最もらしい口演をしながらも、こめかみに隆起する血管を鑑みるに、そこには「怒り」という感情が通っているように見えた。


「俺は静観させてもらうよ。君がこれからどうなっていくのかを」


 口角に嘲笑の綻びを溜めて、人間を一つの個体として捉え、思考実験じみた画策の行方に手を叩いて激励を飛ばす。色が付いて壁があることで現世は現世たらしめる。垣根がなく、境界が見えないとなれば、人間は“意識”を頼りに辛うじて根を下ろすしかない。そんな隠世を想起させる空間に於いて、彼らは確かに存在し、計略について侃侃諤諤と良し悪しを語り、“試練”と称する間引きのようなことを、人間を家畜に見立てて行った。


 偶像崇拝とは得てして、均整が取れた物に対する敬意のようなものが含まれ、耳を傾けてしまうのが常だ。日本国に於いてそれは顕著であり、物体にすら神を宿す特異な性は、ケッタイな提案をまるで当然のことのように受け入れて、猜疑心に苛まれることなく実行に移す。これを現代社会の病理と括って被害者ぶるのは、あまりに猛々しい。あくまでも自分の意思に即した行動であって、誰かの言いなりで世間を賑わしたと恥も外聞もなく公言されれば、世界の退廃を悟らざるを得ない。

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