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トロマの禍  作者: 駄犬
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声なき咆哮

 あまりに手前勝手で自己中心的な犯行は、今に始まったことではない。日々、入ってくる事件事故の数々は、全て第三者による教唆を匂わせ、量刑など知らぬ存ぜぬであった。堅固な自己を確立し、他人からの評価を意図的にコントロールしようとする彼の性質からすれば、唾棄して当然の犯人像が雁首揃えて並んでおり、食卓で苦言を呈すほどの嫌悪感を抱いていた。世の動静をたった一人の思想によって矯正を企てようとすれば、社会的体裁をかなぐり捨てる覚悟や、首尾一貫した行動に勁草なる根深さが不可欠だろう。ただ、それを実現させようと動くのは、破滅主義者の遠吠えじみていて、あまりに刹那的な思考に流され過ぎている。感情の制御に長けた彼からすれば、言下に上記の思考を否定して、事も無げに日々の営みを享受するはずだ。そのはずだった。


「チッ」


 教室で見せた皮肉や、食卓での悪態に続き、評価の基準を他人に預ける気がない彼は、あからさまに感情の起伏を露見させた。顔のない加害者達の思想なき犯行は、彼をひとえに苛立たせ、色めき立つ世間の心ない声に青筋を浮かべる。ただ、寸暇に彼は息を深く吸い込み直し、平常心を心掛けた。義憤に燃えがちな彼の性分は夜更けになると、盛大に後ろ髪を引かれて、寝付きの悪さを助長する。何度も寝返りを打ちながら、寝心地を確かめる姿は、悪夢に追われた人間のそれだ。


 明くる日の朝方、彼は憮然とした表情でベッドから起き上がる。壁に設けた突起を持ち場とするハンガーには、学校で授業を受ける為の身なりに必要なジャージや制服が掛けられており、彼は一瞥もせずにジャージを手に取った。天気予報を参考に衣服の選択をした訳ではない。わざわざ硬っ苦しい制服の袖に腕を通す機会は、特別な催しに限り、学校生活を快適に過ごすのにジャージは大いに役立つ。


 彼はジャージに身を包むと階下の洗面所に向かい、洗濯機の中に汗ばんだ寝巻きを投げ込んだ。それから居間の扉を開ければ、朝食の準備を既に終えて調理器具の洗浄と向き合う母親の後ろ姿を横目に、ベーコンと目玉焼き、味噌汁といった典型的なメニューが並ぶテーブルに腰を下ろす。これらの料理に飽きるなどの概念は存在せず、一日三食を課された人間の強迫観念に基づいて用意されたものである。


「……」


 彼は何も言わずに朝食に手をつけ始め、「美味しい、不味い」といった味についての感想すら放棄し、ひとえに腹の虫を落ち着けようとした。何万回と繰り返されてきた物事に感傷的な情緒を持ち合わせることは稀だろう。だからこそ、母親もそれについて意見するようなことはしないし、家事の邪魔になるからと、余計な会話も排斥している。彼の家族が特別に言葉数が少ない訳ではないはずだ。両親の馴れ初めから、婚姻届を役所に届けて新たな船出を決めた当初の新鮮さを求めるなど、傲慢も甚だしい。乗り遅れることを許さない“時間”は、否応なしに前進を続け、自身や周囲の環境に変化を与え続ける。

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