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聶史  作者: 鍋島五尺
第1章
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山寺の岩 第11話

 泥蓮が涙を流しながら無我夢中に哀しみの面を彫り続けていると、背後から大きな笑い声が聞こえました。それは嘲るような乾いた笑い声で、住職のする柔らかな笑い声とはまるで似つかないものでしたので、泥蓮はその声を聞くとすぐに振り返りました。そこには、あの男が立っていました。男はススキのような細い体をこれでもかと捻じ曲げながら、泥蓮を指さして高らかに笑い続けていました。何がそんなにも可笑しいのかと泥蓮が男に問いますと、その発声の不格好を聞いて男はまた喧しく笑いました。ひとしきり笑い終えてから男は泥蓮にそろそろと近づいてきて、にやにやと嫌味な笑みをたたえながら、お前は何をやっているのだ、彫り物なぞやって鬼のくせに人間にでもなったつもりなのかと、喧嘩をふっかけるように言い放ちました。

 この男は、後世の私が評価するのもいかがなものかと思いますが、それにしても全く仕方のない人です。自らの弱さを棚に上げ、他人を蔑むことでプライドをどうにか保っている、可哀想な人です。誰しも彼のような行いをしてしまうことがよくあります。恥ずかしながら、私とてそれは例外ではありません。良くないなとは思うのですが、このような弱さ、浅ましさが人の性です。反省あるのみですね。

 さらに彼が可哀想だと感じるのは、彼の審美眼です。彼はおそらく、このタイミングで泥蓮の彫った面を見ています。それは彼の目の前にあったはずなのです。しかし、それでも彼は泥蓮の才能に気がつくことは終ぞやなかった。泥蓮がもっとよく仏道を知っていれば、きっと哀れなのはこの男の方だということにすぐ気がついたことでしょう。しかし、泥蓮にはまだそれだけの理解はありませんでした。そして何より、やっとのことで掴んだ人生の煌めきを一蹴されたことが泥蓮には到底赦せませんでした。


 泥蓮は腕を伸ばし男の首をぐっと掴むと、そのまま地面へと投げ飛ばしました。泥蓮の腕は両腕共に異形であったそうですから、きっとその腕はひどく痛んだことでしょう。成人男性を投げ飛ばすことは健常な体を持った人でも一苦労ですから、彼がいかに腸を煮えくり返らせていたのかよくわかります。

 男はすぐに起き上がって反撃をしようと試みましたが、その顔を泥蓮は左足で蹴り上げられ、男は再び地面に倒れ込みました。泥蓮は男の上に馬乗りになると、何度も何度も拳を振り下ろしました。男がどんなに泣きわめいても、殴ることをやめようとはしませんでした。怒りに任せて、何度も何度も男を殴りつけました。それでも泥蓮は、一度たりともノミを振り下ろしはしませんでした。


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