表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ大賞

猫はポーカーフェイスが上手

作者: 夏月七葉

 猫の表情は、意外にも豊かだ。

 猫を飼ったことがある人なら解ると思うが、驚いたり、不機嫌だったり、嬉しそうだったり、眠たそうだったり……その時々で様々な表情を見せてくれる。まあ、可愛い飼い猫のことだから、半分くらいは飼い主補正が効いているのかもしれないが。

 兎にも角にも、そんな表情豊かな猫との生活はとても楽しい。

 しかしながら、猫はポーカーフェイスも上手かった。例えば――。

 ガシャン、と大きな音がして、私は肩を跳ね上げた。物思いに耽っていた頭が現実に引き戻され、ぼんやり外を眺めていた窓から室内へと視線を移す。

 リビングの中央に置かれたダイニングテーブル。その上に、一匹の白いペルシャ猫が上品に座っていた。

 視線を落としてみると、床の上には見事に散らばった色とりどりのビーズとそれが入っていたプラスチックのケースが。これからこれを片づけることを考えて、私は思わず頭を抱えた。

 趣味のアクセサリー作りの休憩で席を立つ時に、せめてビーズをテーブルの真ん中に避難させておくのだった。己の不注意も悪いが、落とす方も落とす方である。

 私がテーブルに近づいていくと、こちらを見ていた猫はツーンとそっぽを向いた。

「こら」

 軽く叱ってみるが、猫は髭の先まで微動だにしない。「わたしは何も知りませんけど?」とでも言いたげな顔だ。

 私は猫を抱き上げて目を合わせようとしたが、くるくると視線を逸らされてちっとも合わない。

 犯人――いや、犯猫は明らかだというのに、素知らぬ顔を貫き通す。猫のポーカーフェイスは鉄壁だ。

 早々に問い詰めるのを諦めた私は、溜め息を吐いて猫をテーブルの上に戻した。散らかったビーズを片づけるべくしゃがみ込むと、テーブルから床にトンと飛び降りた猫が私の脚に擦り寄ってくる。

 あれだけ堅固だった鉄壁は呆気なく、甘えた声と表情で私を見上げてくる。おまけに喉まで鳴らして、変わり身の早いことといったら。ポーカーフェイスを作るのも壊すのも、猫にとっては朝飯前のようである。

「……全く、しょうがないなぁ」

 私は片づけを後回しにすることにして、猫のご飯が仕舞ってある棚の戸を開いた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ