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空と陸と海の声

「うう〜〜ん、どこだろ? ここ……」


カイはゆっくりと目を見開くと、薄暗い周囲に目を凝らした。明かりはついておらず、足元すらも見ることができない。一体、どうしてこんなところにいるのかがわからない。カイはとりあえずここがどこだかを確認しようと身動きを取ろうとした。


「あ、あれ? 体が動かない……!」


動揺していてすっかり気づかなかったが、カイの体は何かにしっかりと固定されている。手足を鎖に縛られ、何かにきつく巻き付けられているのだ。身動きしようとびくともしない。


「くっ、ちぎれない!」


これが縄であったのなら、腕力で引きちぎることも可能だった。しかしいくらカイでも鎖はどうにもできない。カイは目を瞑り、耳を澄ますと海に語りかけようとした。


「こうなったら、能力を使って……」


「やめた方がいい。ここは海から遠く離れているし、そんなことしたら、ただじゃ済まさないよ」


「!!」


 暗闇から急に声がかかったため、カイは緊張で体を固めた。姿は見えないが、近くに誰かいる。声質から察するに男だろう。しかもかなり若い声だ。


 状況から察するに、カイはこの声の主に誘拐されたのだ。カイの最後の記憶は果実を食べていた途中で止まっているが、恐らく間違いない。そうなると、兄と姉の安否が心配だ。あの二人なら大丈夫だとは思うが……。カイは考えを中断すると、声の主に向かって勢いよく吠えた。


「誰だ! あと、ここはどこだ!」


「名を名乗ることはできないよ。けど、場所だけは教えてあげる。ここは死の監獄だよ。君はここに幽閉されたんだ」


「死の監獄……」


周囲から一般常識が欠けていると、言われることが多いのがカイという人間だ。だが、死の監獄はそんなカイでも幾度となく耳にしたことがあった。入ったら二度と出られない監獄。出れるのは死体になった時だけだという。黒い噂が絶えないことで有名な場所だ。


「僕をどうするつもりだ!」


「君たち、兄弟は仲がいいのかい?」


「うっ、なんだよ急に……。まぁ、悪くはないよ」


 嘘をついてもいいが、そんなことをしたらこの男に何をされるかがわからない。それに、たとえ嘘であっても二人と仲がわかるいとは言いたくはなかった。それを聞いて、暗闇の中で男がそっと笑みを浮かべた気がした。


「そうかい、そうだと思ったよ。それなら、こんなところに囚われた可愛い弟を放ってなんておかないよね?」


「ま、まさか僕を出しに誘い込むつもりか?」


 兄と姉なら自分が攫われたと知れば、すぐさま助けに来るだろう。場所がわかるかどうかだけが疑問だが、兄たちは賢いからもしかしたらカイが捕まっている場所もすぐにわかってしまうかもしれない。


「意外に話がわかるようで、助かるよ。なーに、心配することはないよ。すぐに殺したりはしないからさ」


「……。もし、僕の家族に手を出したら僕がお前を殺す!!」


「ふーん」


 カイは目を殺意で満たすと、腕に力を込めた。今すぐに目の前のあいつをぶん殴ってやりたい。その勢いでカイを縛っていた鎖が激しく軋み始めた。放っておけば、いずれ鎖はちぎれてしまうだろう。


「困るよ、抵抗しちゃ……」


目が少しずつ暗闇に慣れてきている。男がこちらに手を伸ばしてきたのもわかった。刹那、カイを縛っている鎖がさっきよりも激しく肉に食い込むほどに、体に巻きついた。カイの腕力によりちぎかけていた鎖も元に戻っている。あまりの鎖の激しさにカイはうめいた。


「うわあぁーー!!」


「少し、大人しくしていてね。そうでなければ、乱暴にはしないからさ」


男は痛みによって吠える気力も失ったカイを一目見ると、部屋から立ち去っていく。そしてその鋭い狡猾な目で空を睨みつけた。


「もうすぐ、もうすぐさ。やっと僕の夢が叶うんだからさ!」


* * *


「死の監獄か……。そんなところに囚われているなんて……」


幼い頃、悪戯をするとよく母親に言われたものだ。"悪いことをしたら、死の監獄に放り投げてしまうと"。それはライだけでなく、他の子供にもよく使われていた言葉だ。


 それを聞くと、どんなにいうことを聞かない子供でも借りてきた猫のように大人しくなるなだ。今、思えばあれは子供たちを躾けることわざのようなものであったのだろう。


「そこにいるのは事実なのか?」


「嘘をつく理由がないよ。波長を感じるさ」


 フーラは目を瞑ると、両手を横に広げた。波長を感じることができないライたちにはわからないが、その仕草が波長を感じるために必要なのかもしれない。フーラを見ていてルカは波長に興味を示し始めた。


「その波長というのはなんですか? それさえあれば、誰がどこにいるのかをすぐに把握することができるんですか?」


「そうだよ。けど、人間の君たちはどんなに頑張ろうとも使えないよ。これは僕らの特権だから」


「そうか、俺らも使えたら便利だと思ったんだけどな。カイなんかすぐにいなくなるし」


 幾度となく迷子になるカイをすぐに探せるようになるためなら、波長を感じられるようになれる特訓を受けてみてもいいと思ったのだが、種族上無理ならどうしようもない。


「君たちはまだ寵愛をものにしてないね。寵愛を鍛えれば、誰がどこにいるのかわかることなんて簡単さ」


「寵愛ってんのは、俺たち破滅の三子の能力のことだったよな。居場所がわかるってどういうことだ?」


 ライは自分の能力を天候を操る力としてか、考えていなかった。ルカだって口には出さないからきっとそうだ。ライに問いかけられたフーラは突然、その目を喜びに輝かせた。質問をされるのが嬉しいのかもしれない。そういうところは子供ぽくていい。


「簡単だよ。君たちは想像力に長けていないね。君たちは空と大地の寵愛をその身に受けているんだ。空と大地はどこにでもある。もっと君たちは空と大地の声に耳を傾けるべきなんだよ」


「それ、カイも時々言ってましたよね。海の声が聞こえるって……」


「そういえば、言ってたな。あれってちゃんと意味があったのか」


 思い返してみればカイは今と変わらず、幼い頃も突然どこかにいなくなってしまうことがあった。


 その時は大抵、海の近くにいて理由を問いただすと海の声が聞こえたなどとおかしなことを述べていた。ライやルカには意味がわからなかったが、あれは本当に聞こえていてのだ。だとしたら……。


「俺とルカは声なんて聞いたことがないぞ」


「それは、君たちが能力を使いこなせてない証拠だよ。大丈夫、心配はなくても遅かれ早かれ寵愛の声はきちんと、君たちに語りかけてくれるよ」


「今後に期待ってところか。そういえば、あの男が現れる前、なんかいいかけてなかったか? 予言がなんとかって……」


「ああ、あれか。うーん、今話してもいいんだけど……。まずは三人揃うのか先決かな」


「そうですね。たとえ死体であっても助け出さないと!」


「物騒なこと言うな! 生きているに決まってるだろ!」


開始早々、物騒なことを言い始める妹をライは叱りつける。カイが死んでいるわけがない。生きている。なんとなくライにはわかる。ライはフーラの家から勢いよく飛び出すと、遠くに見える死の監獄を睨みつけた。


「待ってろよ、カイ! にいちゃんが今、助けにいってやるからな!」



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