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新たな島は新たな出会い

 燃え盛る村の中、一人の子供が泣き叫んでいる。泣き叫ぶ子供の傍らには血だらけの女性が倒れていた。子供の目から見ても女性の傷が致命傷であることは明らかだった。

 

「かあさん、死なないで!」


「……ライ、私の愛しい子。どうか泣かないで……」


まだ幼く無力だったライは母親にしがみついた。傷が痛むだろうに、母はそんなことは気にもせず、ライの目から滝のように溢れ続ける涙を拭ってくれる。


「世界のどこかに"楽園"と呼ばれる場所があるわ。ルカとカイといっしょにそこを目指しなさい。そこはあなたたちの居場所になるはず……」


「いやだ! いくなら母さんもいっしょだ! いっしょにいくんだ!」


母が最後の力を振り絞っているというのに、幼いライは耳を貸そうともしない。あの時は怖くて悲しくて寂しくて、感情がぐちゃぐちゃになっていた。今、思えばこの日がライが最後に泣いた日であった。


「愛してるわ……」


 涙を拭ってくれる母の手はその言葉を最後に地面に崩れ落ちた。幼いライでもそれが何を意味するのかが理解できた。ライは涙を流し続けながら、炎の中を憎しみに濁った目で延々と睨み付けた。


「許さない……! 殺してやる……! 絶対に……!」


「……ちゃん! にいちゃん!!」


「絶対に、絶対にだ!!」


「にいちゃん!」


「!!」


ライはカイの連続する呼び声でハッと目を覚ました。手前でライの顔を覗き込んでいるカイはとても不安そうな顔をしている。どうやらライは昔体験した出来事を夢としてまた新しい。


 もう随分前の記憶だというのに、あの出来事だけは鮮明に思い出せる。ライは心配しているカイの頭を撫でると、弟を安心させようとした。


「悪い夢見てたみたいだ……。心配させてすまなかった」


「ううん、大丈夫。起きないから心配になっちゃって」


ライとカイのやりとりを遠く離れた場所で見守っていたルカは仕切りに落ち着きなく、外の様子を窓から見ている。


「兄さまが寝ている間に船は港に着いてしまいましたよ。もたもたしていては取り残されてしまいます」


「そうせかすなよ」


ライは木箱からヒョイっと身を乗り出した。窓から外の様子を見てみると、他の乗客は既に外に出終わっている。ルカの言う通り、早く行かなければ置いて行かれてしまうだろう。もう一度バルカルの街に戻るのはごめんだ。


「ルカ! カイ!」


「わかっています」


「了解!」


他の乗客と同じように船の入り口から出るのはまずい。小さな船のため、船員は乗っていた人の顔を全て把握しているだろう。船員にライたちの顔を見られたら、無賃乗車したことがバレてしまう。普通に降りるわけにはいかない。


 ライに呼びかけられたルカは船の壁に手を添えた。壁はその瞬間激しく歪みだし、ひとひとりが外に出れるくらいの出口が作られた。この船は運のいいことに木製だ。ルカは地面に育まれた木を操ることもできる。

 

 本来なら海の水が船内に入り込んでくるところだが、カイの能力により海の水はせきとめられている。海に愛されたカイは海を自由自在に操ることが可能なのだ。


「行くぞ!」


ライは壁の穴に飛び込むと海の中に入り込んだ。カイもそれに続き、最後に残ったルカは壁の穴を修復してから海に飛び込んだ。


 カイは兄と姉が近くにいるのを海の中で確認すると、両手を掲げ、三人を包み込むシャボン玉を作成した。この中に入れば、水の中で呼吸ができず、死に絶えることもない。


 近寄ってきた魚が興味津々なのか、仕切りにシャボン玉をつついてはいるが、強力なシャボン玉は決して破れることはない。


 カイは近寄ってくる魚にしばらく目を取られていたが、ライが肘でせっつくとようやく自分のするべきことを思い出したようだった。


「いっけーー!!」


「ちょっ、待ってて!」


「さすがにこの速さは!」


カイが陸の方を指差すと同時に、シャボン玉は凄まじい速度で動き出した。カイとは違い、バランスをとることに長けていないライとルカはシャボン玉の中で転倒する形となる。


* * *


「あはは!! 楽しかった!」


結局、シャボン玉は森に墜落する形となり、三人は揃って森の中にある湖に落ちる形となった。宙をかなりのスピードで回転したため、ライはクラクラとする頭を抑えた。ルカの方は酔いに強いこともあり、割と平気そうな顔をしている。


「ここはどこでしょうか?」


「お腹すいた〜」


冷静に状況を分析しようとするルカに対し、カイは自分の欲求に忠実だ。カイらしくはあるが、少しは真剣になってほしい。


「昨日食べたばっかだろ? 腹が減ったんならなんか取ってくか?」


ライは周囲に目を凝らし、食糧になるものがあるかどうかを探ってみる。木には紫色の果物がなっているが、いかにも色が怪しい。キノコや山菜もあるが、どれも初めてみるもので簡単に口にしていいか疑問である。


「うま、うま!」


「あ、ばか!!」


試行錯誤している間にも、カイは木に登って初めてみる果実に早速かぶりついている。毒でもあったら一体、どうするつもりなのか。心配している兄に対し、カイは二個目に取り掛かっている。


「にいちゃんたちも食べてよ! すっごく美味しいよ!」


カイは嬉々としながら、木からもぎりとった果実を二つ地面に落とした。ボトっという音と共に、落ちてきた果実をライは持ち上げ、匂いを嗅いでみるが怪しそうな匂いはしない。


 隣で同じく果実を手に持っているルカも果実をすぐに口にしようとはせず、真っ二つに割って中身を見ていた。


「食べれそうか?」


「カイの様子を見る限り、食べれそうですけど……」


「そうだよ、にいちゃん! こんなに生えてるんだからきっとこの島の食りょ……」


「カイ?!」


果実を口いっぱいに頬張っていたカイの言葉は突然途切れる。体の力が抜けたのか、木から落下してくるカイをライはしっかり両手で受け止めた。

 

「うう〜!! うーー!!」


腕の中で抱きしめられたカイはしきりに苦しそうな呻き声をあげている。汗も大量に出ていて、顔面蒼白状態だ。どう考えても、普通の症状ではない。


「くそ、とりあえず病院に連れて行かないと!」


「空から見ましたけど、ここは島で発展している集落からだいぶ離れています。この症状をみる限り、それでは間に合いません。それに正体がバレたら、治療をしてくれるかどうかと怪しいです」


「くそ! どうすれば……」


カイはひどく苦しそうで、今にも死んでしまいそうだ。もう二度と家族を失うわけにはいかない。こんなに突然に奪われてたまるもんか。


「君たち、困っているの?」


「!!」


森の中から突然、ライたちに声がかかる。驚いて背後を振り返ると、背中に翼を生やした少年が木の影に立っていた。











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