真実は残酷
「だ、誰だお前!」
カイは姉を背後に庇うと、突如として現れた謎の男を力一杯に睨みつけた。カイには詳しいことはよく分からないが、この男は村を火で襲ったやつに違いない。
その証拠に火の粉を連れている。オレンジ色の火の粉はまるで生きているかのように道を飛び跳ねている。
「お前のは随分、口が悪いな。俺を誰と心得る?」
「知るか!」
カイは強い口調で吐き捨てると、その場にあった木の枝を拾い、やつに殴りかかった。他人に暴力を振るうなと教えられたカイだが、家族を守るためなら母の言いつけだって破る。
しかしうっすらと笑みを浮かべる男に木の枝は届かない。その男に睨みつけられただけでカイは大きく後ろに吹き飛んだ。カイの体は道にゴロゴロと転がり、あまりの痛みに悶絶した。
「こんな木の枝で、俺に逆らおうとは。躾がなってないな」
男はカイが手から落としてしまった木の枝を拾い上げると、手に持っただけで木の枝を消し炭にする。まるで体全体が火みたいだ。
ある意味、吹き飛ばされたのは正解だったかもしれない。体に少しでも触れていたらカイも木の枝のようになっていたのかと思うと、ゾッとする。
「地面よ、あの男を撃て!」
カイが痛みと恐怖にたじろんでいる間にも、ルカはやつに手を伸ばして地面に助けを求める。地面はルカの声に呼応するかの如く、一斉にやつに泡をつかそうと、地面から大岩が突き出してくる。
男はそれをヒョイヒョイとかわすと、大岩を足で蹴破った。
「ふん、破滅の三子といえど所詮は子供。全く能力を使いきれていない」
「姉ちゃん!」
カイはこれ以上、姉に戦われてはならないと姉にしがみついた。今は少しでも休息が必要だ。姉に無理をさせるわけにはいかなかった。
「カイ……」
姉は一瞬、名残惜しそうにしたがすぐにその表情は消え、カイを遠くへと突き飛ばした。その直後だ。姉の体に火の粉がぶつかったのは……。
* * *
「ハァハァ」
「終わりだな。すぐに天国でお姉ちゃんに会えるぞ」
戦意喪失し、逃げる気力も失ったカイに男は悪びれもなく慰めてくる。理解できない。こんな残酷なことをした後で笑みを浮かべられるなんて到底、理解できない。
カイの腕の中にいるルカはもう息をしていない。少しも動かない。大丈夫とも言ってくれない。姉は死んだのだ。
「終わりだ!」
「黙れ……」
男がカイに対し、持っていた鎌を振り上げようとしたところでカイは溢れ出す憎しみに心を飲まれながらも、言葉で制する。男は疑問の顔を浮かべながら、一歩ずつうしろに後ずさった。
「逃げるな……」
カイは手を大きく振り上げると、自身の唯一の味方である海に語りかけた。
「海の主である、我が命ずる。汝の思いのままに敵を葬れ」
カイは普段ならお願いをするところを命令と言う。普段は海にお願いをして力をもらっているカイだが、能力を無制限に使う方法をカイは前から知っていた。それはお願いではなく命令を使用することだ。
こうすることで海はカイに逆らえなくなる。しかしこの方法をカイはなるべく取りたくなかった。
カイにとって海は唯一の友達だった。友達には命令なんかしない。同時に命令を何度も使用すると心を失っていくこともカイは知っていた。友達には命令をすることが当たり前になっている人間に心なんて不要だということだろうか……。
「な、なんだ? その力は……」
男も恐怖を感じたのか、後退りながら逃げようとしている。カイから家族を奪って、逃げようなんてなんて虫がいい話だ。轟音とともに海の水はこちらにやってくる。
そのまま男の体を飲み込んで海は村にどんどんと流れ込んでくる。津波に近い現象だ。カイもこの現象は自分でも上手くコントロールできないため、あまり使いたくはなかった。
「兄ちゃんのところ、行かないと……」
カイはヨロヨロと姉を抱きながら、兄がいる場所を海に教えてもらうことで、兄を探しに歩いていく。
* * *
「ん、何じゃ?」
イルタグルの街で医者として働く老人、ラスタカランは突然家に入ってきた子供を不審に思い、疑問符を浮かべる。現れた少年は銀髪に金色の目、全身に怪我をしており子供が負っている傷と考えると痛々しい。
腕に少女を抱いており、少女の方はすでに生き絶えている。まだ六〜七歳の子だというのに、この世は実に不憫な子が多い。
「あんたが死者を生き返らせてくれっていう、イルタグルの名医か?」
「そうじゃよ。なんじゃ? お客さんだったのか」
「ルカを、妹を生き返られせてほしいんだ」
金色の目の少年は言葉を発したところで、膝を崩した。見れば、背中にいくつも矢が刺さっている。一体何をすればこんなに小さな子供をここまで痛めつけられるのか、医者である彼には理解できなかった。
「その前に君の治療が先じゃよ」
「そんなのいらない!!」
少年は片手で床を殴りつけると、力強い眼光で睨みつけてくる。自分のことをなんとも思っていない人間がする目だった。数々の患者を治してきた彼には分かる。
「分かったよ。その子を寝台に乗せなさい」
「……」
少年はこちらに歩いてくると、寝台に少女を寝かせた。遺体はそこまで傷んではいない。死後、数時間といったところだろう。ラスタカランは少女を治す準備をしながら少年に語りかけた。
「君は私がどんな医者か知っているかね?」
「どんな難病、よもや使者ですら治すイルタグルの名医。機械を医療に応用することで有名だ」
少年はラスタカランの質問に迅速に答える。これは同意を取る為に必要な質問だった。何故なら、この医療を施しての苦情は受け付けないからだ。
「よく知っているな。では、生き返った人間がどうなるかは知っているかね?」
「生き返っても、それは見かけだけ。元の記憶はないし、複雑な感情も抱かない。単に死を受け入れられない者たちを慰めるものでしかない」
「なるほど。しかし君が死を受け入れていないようには見えないね」
ラスタカランは少年を繁々と見つめた。少年は妹の死に対する困惑や狼狽が見られるが、現実を拒絶しているように思えない。ここに来る人間にしてはいささかまともなのだ。
「俺じゃなくて、弟の方だ。受け入れられてないのは……」
少年は外に目をやると、苦虫を噛み潰したような顔をした。恐らく、弟を外で待たせているのだろう。
「この子とは双子かね? 見た目がそっくりだ」
「……いや、三子だ」
「ほぉ、今巷で騒がれているあれか」
ラスタカランは世間の情報に疎いところがあるが、破滅の三子は耳にしたことがある。なんでもいずれ世界を滅ぼす、大厄災を招くらしい。しかしラスタカランは非科学的な占いを信じていない。
「 俺らを通報するか?」
「いや、わしはそんなのに興味はない」
少年はぎろりと睨みつけてくる。これに嘘でもはいと言ったら速攻で殺されそうだ。ラスタカランは迷うこともなく、興味はないと言い放った。
「よし、準備は整った。して、それだけ知っているということは代償の話も耳にしているのだろう?」
「ああ、俺の心を貰うって話だろ?」




