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無数の亜人

「これは興味深い……。数十年ほど前の器具がこんなにも綺麗に残っているとは……」


アイシェリカは巣の中に眠っていた数々の遺品をみて、鑑定している。どうやら歴史ものに興味があるらしく、先程から妙に熱心だ。ライはそんなものに微塵も興味がないため、退屈するばかりだ。


「ん?」


そんなライが退屈気に辺りを見渡していると、ふと目につくものがあった。それは銀色に強く輝いていて、まるでライを呼んでいるかのようだった。ライは導かれるままに銀色の光を放つ物体を掘り起こしてみる。


「よし、みえてきた。これ、かなり重いな」


少しばかりみえたのは剣のつかだった。恐らく、剣が埋まっているのだろう。ライはつかを掴むと、思いっきり力を込めて引き抜こうとした。


「あと、もう少し……」


ライは地面に強く足を踏み込むと、力一杯に剣を引っ張った。こんなに重いものは持ったことがない。体感的に百キロはあるだろう。少しずつ上に引き上げられてはいるが、それでもまだ半分も引き上げられていない。


「む? なにをやっているのだ?」


ライの行動にきずいたのか、アイシェリカは不思議そうにこちらに近寄ってくる。聞かなくてもわかるだろと思いつつも、ライは協力を仰ぐ。


「みてわかるだろ? 剣を引き抜いてるんだよ。重いから少し手伝ってくれ」


「それぐらい自分でやれ。私はきさまに力を貸す義理など存在しない」


「悪かったな。じゃあ、いいよ。自分でやるから」


ライは身体中に電気を纏わせると、電気を使うことで無理やり自身の筋肉を覚醒させる。この技を使うことで大抵のものは持ち上げられるのだが、反動が凄いのでやるのを躊躇っていた。しかしそれを考慮しても、これは手に入れなくてはいけない業物だ。


「くそ、えい!!」


ライは力を完全に振り絞ることで、剣が宙を舞うほどにまで地面から離れた。地面に深く沈むほどの威力で落ちた剣はみるものを圧倒させる綺麗な剣だった。


 つかは銀色に輝いており、刀身には紛うことなき純金が使われている。宝石があちこちに埋め込まれており、戦うというよりも観賞用の剣といった方が正しいのかもしれない。


「これは!!」


「知ってるのか?」


「勿論だ。過去にクリスタル王国でまつわれていた神剣だ。扱うことは難しいが、資格を持つものが使うと国一つを滅ぼすことができるといわれている」


「やけに詳しいんだな」


「弟がよく剣の話題を口にしていてな。その頃は私も興味がなかったが、何百回と聞かされるうちに覚えてしまった」


 アイシェリカは遠い過去を思い出すかのような目をしていた。話の流れからして弟とはだいぶ親しい仲だったようだ。なんとなく王族は兄弟仲が悪くなるイメージがあったので意外だった。


「仲よかったんだな。カイに優しくするのもそれが理由か?」


「そうだな。弟とよく似ている。生きていたらちょうどあのぐらいの年齢だろうな」


「……」


どうやら弟は既に故人であるらしい。亡くなったのは数年ぐらい前の口ぶりだったが、医療も食事も完璧な王族がなぜ、亡くなったのかは不明だ。


「お前、なんで帰られないんだ? 王族なら転移結晶ぐらい持ってるだろ? そんなに俺たちに執着するのか?」


「するどいな。たしかに帰るにはお前らの首を持って帰ることが条件だった。しかし今は先にやらなくてはならないことがある」

  

 アイシェリカは目を瞑り、ライたちの討伐よりも大事にすべきことができたようだ。それがなんなのかは理解できないが、話してくれるほどの信頼も培われていないし、これからもそんなものは芽生えない。どちらにせよ後回しにしてくれるのならそれが一番だ。

 

 ライだってできれば殺しなどしたくはない。それにアイシェリカは他にも殺せない理由が存在する。


(クリスタル王国の王女を殺したとなっちゃ、国からの敵意に油を注ぐことになる)


それがライがアイシェリカを野放しにしている理由だった。クリスタル王国に痛手を加えられるのは間違いないが、それはライたちにとってのデメリットもある。気軽に手が出せる人物ではないとライは考えている。


 ルカとカイはどう考えているのかは知らないが、危ないのはルカだろう。ルカは少し暴走気味なところがあるので兄としてしっかりとみてやらなくてはいけない。


「それにしてもこんな歩いちまって大丈夫かな……」


ライは穴の側面に手を添えると、自分たちが歩いてきてしまった道のりを確認した。ライはその場から動く気など毛頭なかったが、


 アイシェリカに行動を起こさでばならないと叩き起こされてしまった。逆らうのもめんどくさいので、従ったがどうにも歩いてきた道が歪んでる気がする。


「これ迷子になってるんじゃないのか?」


「フ、迷子? 寝言はそれまでにしろ。どうやらきてるぞ」


「!!」


ライが気を取られている瞬間に便乗したのか、そこらじゅうの壁から亜人が飛び出してくる。年齢も大きさも多種多様で一貫性がない集団だ。ライは腕に飛びついてきた亜人に骨まで届くほどに歯を食い込ませられ、あまりの痛みに歯を食いしばった。


 噛み付いてきたのはまだ幼い子供だった。心は痛むが、仕方がない。ライは身体中に電気を纏い相手を縛らさせると、子供を亜人の群れに向かって投げ飛ばした。


「ヴァ……!!」


「おっと、この地形を完全に利用してるな」


逆方向から飛びかかってきた亜人をライは飛び上がってかわすと、空中を浮遊した。亜人の数はせいぜい数百程度だ。いろんな色が混ざり合っているせいで、目がチカチカする。それの同時にここまでの亜人はみたことがなかったため、ライは驚きに目を見開いた。


「亜人が絶滅危惧種っていうのは真っ赤な嘘なんじゃないか?」


こんな小さな島にこれだけの亜人がいるとなると、そういった結論に辿り着く。もうこれで一生分の亜人をみてしまった気分だ。アイシェリカは亜人に埋もれてしまったのか完全に見失ってしまった。彼女の腕前があってもこれだけの亜人を振り払うのは無理だろう。


「ギャウ!!」


「いっ……」


ライは少なくとも十メートルほどは地面から離れていた。だというのに亜人はそんな距離をもろともせずにライの体に凄まじい跳躍で飛びかかってきた。はらわたに噛みつかれたライは慌てて亜人を地面にぶん投げた。


 ただ一回噛まれただけだというのに下腹部が血だらけだ。これほどの実力を間近にしてしまうと少数の亜人で人間の半分の人口を削り切った歴史にも納得がいく。恐らく、多くの人間が食い殺されたことだろう。


「な、なんだこれ……」


ライは突然表れた激しい目眩に全身を焼かれるような痛みを覚える。体に異様に力が入らない。こんなことは初めてだ。ライは忍耐強い方だし、これぐらいのダメージで意識を失うわけがない。


「も、もしかして毒か……」


 牙に毒があるのだとしたら、ライの体に起きている変化にも納得がいく。しかもかなりの猛毒だ。


(もう、だめだ……)


ライは体の力が完全に抜けると、空から落下した。



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