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バラバラの戦闘

 ライはレオの急激に伸びた長い尻尾によって吹き飛ばされ、木に激突した。


「いっ!!」


木はまるで鋼鉄のように硬く、ライは頭を押さえて地面を転がる。涙が出てもおかしくないほどの痛みだ。背後を振り返ると、予想していた通り木がまるで鉄のような色をしている。試しに拳で叩いてみると、カンカンと木を叩いてする音ではない音が聞こえる。


「くっ、どうなっているのだ!」


ライとは違い、尻尾の攻撃を避けたアイシェリカは足をついた瞬間、いきなり泥水になった地面に足を取られている。片足が半分近く、地面に埋まり完全に身動きができない状況だ。


 それを木に尻尾を巻きつけ上からみていたレオはくすくすと口を抑えて笑っている。どうみてもこちらを小馬鹿にしている。


「こうなったら飛んでいく!」


ライは背後にある木を踏切台にして高く空に飛び上がった。空での戦闘ならライの得意分野だ。しかしライはすぐさまその作戦を覆されることとなる。


「木が動いていてる?!」


ライが空に飛び上がった。その直後、地面から生えている一際長い木の大木がライの体を鞭で打つようにして地面に叩きつけた。まるで意志があるような華やかな動きだった。


「フッ……」


「お前、今笑っただろ!」


不恰好に地面に転がり落ちたライをみて、アイシェリカは口元を抑えて鼻で笑う。完全に不可抗力であったため、うまい着地が取れなかったのだ。


「くそ、こうなったら!」


ライは腕に雷を纏い、レオに向かって攻撃を試みた。幼い子供を攻撃するのは心が痛むが、相手がやる気満々な以上、致し方ないことだ。一度倒すしかないとライは心に決めた。


腕に雷を纏ったライはその雷を木に巻きついているレオに向かって投げ飛ばした。速さは普通の雷と比べて劣るが、当たれば確実に戦闘不能になるほどのボルトだ。


「そりゃ!!」


レオは前足を伸ばして、雷を手で受け止めて、こちらへ跳ね返したきた。それはライに直撃するが、幸運なことにライは雷に打たれても平気だ。しかし今、気にすべきことは

そんなことではない。


「あいつ、雷を跳ね返した?!」


「異世界からきた人間だそ! 我々の常識は彼らには通用しない!」


「戦闘スタイルも違うのか」


ライは人並外れたレオの身のこなしをみて、妙に納得してしまう。普通の人間が能力を使うには、神に忠誠を誓い一つの能力を授かるか神の宝玉の一部である魔法石を使うしか方法はない。


 しかし亜人はそういっためんどくさい小細工が一切不要なのだ。段取りをすっ飛ばして能力を使っている。


「試してみるか……」


ライは身体中に雷を纏い、その雷を両手を合わせた十本の指に集中させる。レオは予想通り避ける気配もない。ライは十本の指から同時に多種多様な岐路で雷をレオに向かって飛ばした。


「フィンガーサンダーだ!」


「!!」


レオは多種多様な方向から飛んでくる雷を木の上で上手く立ち回り、左手と右手を自由自在に使うことで跳ね返していく。ライが飛ばした雷の数は十個。それ全てを両手で跳ね返せるはずがなく、レオは足と背中に合計三個の雷をくらってしまう。


「うぐ!!」


 レオは体勢を大きく崩したが、すぐに意識を取り戻すと再びより高い木の枝に飛び上がった。上空からこちらを攻めるつもりだろう。しかし先程の戦い方を見る限り、レオの能力には予想がつく。


「跳ね返す力。カウンターっていう方がしっくりくるかな」


「どうやら手、限定の能力であるようだな」


ライとレオの戦いを黙って見守っていたアイシェリカもレオの能力の正体を見抜いたらしい。つまり手で守りきれない背中などを重点的に攻めてくといいわけだ。


「いいね、その技名! かっこいい!」


木に巻きついているレオは耳をピクピク動かし、喜びの声を上げた。どうやら技名を考えていなかったらしく、ライのいったカウンターという名前の響きが気に入っているようだ。


「さあ、どんどん攻撃してきてよ! 次は絶対にくらわないから!」


レオは尻尾でゆらゆらと宙をまいながら、こちらを強く挑発してくる。そのなんとも子供ぽい姿になんだか戦意を削がれてしまう。


「おい、ライ! そんなことよりも早く私を助けろ!」


「ああ、はいはい」


地面にまだ足が浸かってしまってあるアイシェリカは不満顔で助けを求めてくる。ライはアイシェリカの両手を握り締めると上に引き上げようとした。その途端、地面が大きくぬかるみ、ライの体まで地面に引きずり込まれそうになる。


「なんだこれ……。重い!」


「きさま、女性に対してその言葉は失礼であろう!」


「誤解だって! 地面がなんか変なんだ!」

思いという言葉に敏感に反応するアイシェリカに対し、今はそんなことをいっている場合ではないと、ライは心の中で悪態をついた。そういえば、ルカも体重の話題に触れると明らかに嫌そうな顔をした。女性に体重の話をすることが御法度なのは、共通認識らしい。


「どーん!」


「え!」


アイシェリカを引っ張り上げようと必死になっているライはなにかに背中を突き飛ばされた。背後を振り返るまでもなく、正体は声でわかった。


「いってらしゃいーー!!」


レオだ。ライは体勢を立て直そうとしたが、もう間に合わない。ライとアイシェリカは地面のぬかるみの真下に落ちた。


* * *


「思えば、かなり苦労してんな俺……」


今までのことを回想して、ライは苦労の連続にため息をついた。ぬかるみの下は落とし穴のようになっており、落ちた地面はクッションのようにふかふかとしていて怪我もない。しかし問題はここからどうやって上がるかということなのだ。


 感覚的には五十メートルぐらいは余裕で落ちてきた気がする。普段なら飛べばいいのだが、穴の側面には数百本の木の枝が生えており、さっきのように叩きのめされることはわかりきっていた。


「やはりこれは走って登っていくしかないな」


「やってみろよ。受け止めてやるから」


「なぜ、私が落ちる前提で話を進めているのだ?!」


穴の側面をじっと眺めていたアイシェリカが出した結論はあまりにも実現不可能なことだった。ルカならできるが、ライたちのような人間には無理だ。ライは諦めてふかふかの地面に寝っ転がった。考えても脳を無駄に使うだけだ。


「これは……」


ライは寝っ転がった拍子に手に当たったものを地面から掘り起こしてみる。人骨だ。触ってみると軽く崩れる。恐らく、だいぶ前からここにあったのだらう。


「やられたな」


ライは地面に寝っ転び直すと、目を瞑った。ここにいた人がどうやって亡くなったのかは知らない。しかしいい理由ではないことは確かだ。


「きさま、なにをやっているのだ! 生きる気がないのか!」


「こっちにはルカがいるから大丈夫だ」


ライは穴から漏れ出すかすかな光をみあげ、ルカへの絶大な信頼を口にした。



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