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語りかける本音

「うーん、ここどこだ?」


カイは頭を抱えながらも、自身がどこにいるのかを探ろうとする。プリンセスが森の中に突っ込んでしまい、それを追っていたら道から大きく外れてしまったのだ。

   

 小さな島ではあるものの、迷わないほどの面積の小ささではなかった。カイはあっという間に迷子になり、街に戻れなくなってしまったのである。


「こんなんじゃ、また怒られちゃう」


不安がるプリンセスを抱きしめて、カイは空を見上げた。カイが道に迷うことなんてしょっちゅうだ。しかし今回は迷わないようにしっかりと拾った石で木に目印をつけておいたはずだった。

 

 だというのに、辿ってきたはずの道を戻っても気には目印の一つもついていない。


「おかしいよ。こんなの……。だってあんなにいっぱい目印つけたんだから、一個ぐらいみつかってもいいのに」


そう、それがカイが不思議に思っていることだ。覚えている限りでは数十本の木に線の目印をつけた。しかしそれが一個もみつからなというのは妙なことである。


「迷子になったの?」


「うん。でも平気さ。きっとすぐに道に戻れるよ」


オロオロとするカイにプリンセスは不安そうに声をかける。カイは無理矢理にでも笑顔を作り、自身の不安を悟られないようにと努めた。


「もしかしてこれって変土現象?」


カイは昔、図書館で読んだことのある本の内容を思い出した。一人の勇敢な少年が未知なる島を冒険する話だ。カイはその話が好きで、本がボロボロになるまで読んでいた。周りの大人たちはそれを創り話しだと言っていたが、カイにはとてもそうとは思えなかった。


「だって、みたことのないものを"ない"って決めつけるなんて変だ」


カイはよく大人たちが創り話しと言い切るのを聞いて、なぜみたことのないものを否定できるのかと、疑問に思った。みたことがないから"ない"じゃなくて、みたことがないから"あるかもしれない"とは大人の思考では至らないらしい。


「変土現象ってなに?」


「変土現象ていうのは、大陸の形が変わったりするんだ。時には木とか石とか砂とかも別の物質に置き換わったりするんだよ」


カイは説明していてこの島に上陸したときのことを思い出した。あの時、変土現象という言葉が頭をよぎったが、あえて口には出さなかった。確証が持てなかったというのもあるが、敵を目前として情報を提示したくはなかったのいうのが、本音だ。


「あの、女の人。兄さんの目が離れたら片付けないと」


兄がなぜあの女を追い払わないのかがわからない。自分たちといては危険な存在だと、いうことは兄にだってわかっているはずだ。姉も警戒しているようだったが、明確に敵意をぶっつけたわけではない。


「……! だ、だめだ。殺しは良くないんだ」


段々と過激化していく頭の中の感情をカイは無理矢理にでも押し殺した。カイは相手を殺したいわけではない。ただ兄と姉に危害を加える相手にはなぜだか過激な思考回路になってしまう。昔はこんなんじゃなかった。もっと自分の感情をうまくコントロールすることができた。


「できなくなったときって、いつからだっけ?」


カイはふと幼少期のことを思い出してしまう。カイたちは平穏に母と一緒に小さなはずれの村で暮らしていた。当然、はずれの村にも破滅の宣告の情報は届いた。


 何度か騎士が捜索に来たこともあるという。けれど母はカイたちの存在を隠した。村の人たちも優しくて、カイたちのことを誰一人として騎士に告げ口しなかった。文字通り、生まれたこと自体を隠したのだ。

   

 カイたちが生まれたことにより、その年に生まれた赤子の殆どが殺された。それは村の人間だって同じだった。


「告げ口したのも仕方ないのかもね」


カイたちの存在が王国にバレたのは誰かが騎士に告げ口をしたのだ。それが誰なのかはもうわからない。村の人たちは優しかったし、誰一人として疑いたくはなかった。


「その後だ、僕がおかしくなったのは……」


昔のことだが、段々と思い出してきた。確かその後、村が焼き討ちにあったのだ。姉であるルカは不安がって泣き出すカイの手を引っ張って、ずっと慰めてくれた。


「なんでだろう? そのあとのことがよく思い出せない」


そこでカイの記憶は止まってしまっている。医者からはあまりのショックに記憶が抜け落ちてしまったと診断された。人間はあまりに辛いことがあると、その記憶を脳から無理矢理にでも消してしまうらしい。


「忘れたくなるぐらい、消したい記憶ってなんだ?」


カイは激しい頭痛がする頭を抑え、うめいた。兄は真相を知っているはずなのに、どんなに聞いても教えてくれなかった。そのときショックだったのは覚えてる。兄弟だから隠しごとなどないものだと、思っていたカイにとって隠しごとをされるのはガッカリすることなのだ。


「あのとき、兄ちゃん泣いてた?」

     

 目覚めたカイが何が起きたか知りたいとせがむと、兄が涙を流したような気がする。兄が泣くなんて珍しいのでそれは記憶に鮮明だ。


「その日からだ。僕、うまく自分をコントロールできなくなった……」


カイはある程度の感情が昂ると、意識が吹っ飛んでしまう。目覚めたときには全てが終わっていて相手からはひどく怯えられている。幸い、まだ二人には気づかれていないなが、いつ気づかれるのかと思うと少し怖い。いずれ二人にも恐れられる日が来るのだろうか。


「カイ。木の上に誰かいるわよ」


「!!」


カイがブツブツと独り言を呟いて昔のことを回想していると、プリンセスがカイの服を引っ張って、注意してくる。


「うわ!!」


いきなりのことだったため瞬時に反応が出来ず、カイは大きくうしろに吹っ飛んだ。木の上に立っていた誰かにぶつかられ、突き飛ばされたのだ。


「なんだ、亜人か」


カイは誰かの存在を確認すると、見慣れた姿に息を吐いた。黄色のふわふわとした体毛に同色の欠けた耳に、二本の長く太い尻尾。体にはやけに傷が多く、妙に痛々しい見た目をしている。見た感じ、子供だが大人びた顔をしている。


「我らの種族をみても驚かぬとは。肝が座った童であるな」


「亜人とは昔、面識があってね。兄さんは知らないだろうけど……」


妙に大人びた口調で話しかけてくる亜人の少女にカイはしっかりと受け答えをした。村が焼き討ちにされる前に森の中で怪我をした亜人の子供をみつけたことがある。


 ちょうどその時は姉と一緒に森の中で遊んでいたときだった。最初こそは警戒されたものの、足の手当てをするうちにすっかりと仲良くなったのだ。


 言葉は通じなかったが、そんなの関係ないぐらい最後の方は親しくなった。最終的に人間の言葉を覚えた亜人は自分のことは誰にも話さないで欲しいと頼まれ、家族にもそのことは言わなかった。


「確か、ティフォンとかいったけな?」


「!!」


カイの独り言を長い耳を伸ばして聞いていた少女はティフォンという名前に動揺するような表情をみせた。


「きさま、なぜ母の名前を知っている?!」


少女は声を高らかにして、森に響くほどの大声を上げた。

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