公正なペア決め
「いってぇ〜〜」
ライは力強く打ち付けた頭を押さえ、ふらふらとなんとか立ち上がった。まだめまいがしていて、思考だっておぼつかない。そんな状況でなぜ、こんなことになったのかを真剣に考えてみる。
「たしか、あれは数時間前か?」
* * *
「うわー! 島がみえてきたよ!」
「地図に記載されていたよりも大きな島ですね」
「大陸が時間経過により大きくなったのかもしれないな」
「なんだかサバンナって感じだね……。僕はここで待っていたいな」
「キキュ!!」
遠目から見え始めた島に対し、四人と一匹は多種多様な反応をしてみせた。アイシェリカがその中に混ざっていることを最早、突っ込む人間も存在しない。ナットを除く四人はもう島に足を踏み入れ始めている。警戒心というものを知らないのか、かなり無防備な行動だと思ってしまう。
ライは未知の島に降りるのを一瞬、ためらったがライだけいかないというのも仲間はずれにされたみたいで気が引ける。
「仕方ないか」
ライはクイーンの体から飛び出ると、地面に着地した。地面はなんだかふかふかとした土でどうにも歩きにくい。まるで粘土みたいだ。意識して歩かないと転んでしまうかもしれない。
「ナット、あなたもくるんですよ」
一人残ろうとしたナットを気にかけたのか、ルカは消極的なナットを手招きした。それに対して、ナットはあからさまに嫌そうな顔をする。
「ええ……。いかなきゃだめかな?」
「……約束を破るつもりですか?」
ルカは厳しい目でナットを強く睨みつけた。ナットはなんだかルカに弱い。いや、むしろナットが強く出れる相手などこの世にいないのかもしれない。ナットは観念すると、ゆっくりと頷いた。
「わかった。ちょっと待ってて」
ナットはクイーンの体から身をよじって脱出するが、着地がうまくできずに地面に顔面着地した。そのなんともカッコ悪い姿に流石のルカもため息をついた。ナットはそれにめげずに素早くその場に立ち上がって笑ってみせる。
「いや〜、ここの土地ってなんだか着地しにくくって……」
「僕も思った! なんだか水を含ませた泥みたい!」
カイはライの意見に同意し、自身の下の地面を手で触っている。
「海に面している場所なのに、なんで砂浜じゃないんだ?」
ライの指摘に一同は考え込み始めた。普通、浜辺のいうのは砂で構成されているものだ。こんな泥水で構成されているなど、絶対におかしい。
「それだけじゃないぞ、なんだかこの島おかしくないか?」
ライは島をぐるっと見渡してその景色の異常さに目を取られた。木の実を生やしている木だって、砂のようなものでできている。そろりと触ってみると木は砂屑のようにこぼれ落ちた。落ちてきた木の実は触ってみる感じ、以上はなさそうだ。
「なんだか陸地が変だね? いった?!」
カイも草原に足を突っ込むと、痛みに悲鳴を上げた。慌ててカイの元に近寄ると、カイが手で押さえている足が真っ赤に腫れ上がっている。こんな症状、石のような固いものを蹴らない限り、出ることはない。
「なんだ、これ? 草がまるで石みたいに固まってるじゃないか」
まさかと思い、草を握り拳で軽く叩いてみるとカンカンと石を叩いた時のような音が鳴り響いた。
「みせてください」
ルカはライとカイの間に割って入ると、草に手を添えた。そうするとあっという間に石のように固かった草がフサフサの触り心地に戻った。ルカは戻ったことをしっかりと確認すると、浜辺の土の上で軽く足踏みをする。
その瞬間、粘土のような柔らかかった地面が通常の砂浜に姿を変えた。
「土質を元に戻したのか。そんなこともできたなんてな」
「試してみただけです」
思いもよらないルカの力の使い方にライも驚く。それに対し、ルカはあいからわず軽い態度だ。
「これが破滅の三子の力。やはり、異質だ」
「あなたはいつまでここにいるんですか? もう帰ってほしいんですけど」
ルカの力を目の当たりにし、危険を再認識するアイシェリカに対して、ルカは辛辣な一言でそれを返した。ルカからしてみれば、なぜ彼女が自分たちと一緒にいるのか理解できないのだろう。
それはライだって同じだが、そんなにストレートに質問する勇気などライにはなかった。アイシェリカはルカの問いに反撃するかのように口調を荒げた。
「私だって帰れるものなら帰りたいさ! でも、もしかしたら……」
アイシェリカは言葉を濁らして、会話を中断した。目も泳いでいるし、なんだか隠し事がありそうな雰囲気だ。その反応を見逃さなかったのか、ルカはしつこくアイシェリカの話を聞き出そうとする。
「もしかしたら? なんですか?」
「いや、なんでもない。こちらの話だ!」
アイシェリカは懐に入ろうとするルカを怒鳴りつけ、明らかに動揺した表情になった。もしかしたら帰れない事情でもあるのかもしれないが、ライたちにはそんなことを気にしている余裕などない。
「と、とにかく。私はきさまたちを討ち滅ぼすまでは帰ることができないのだ!」
「僕たちを討ち滅ぼすって、僕たちを殺すってこと?」
「そ、それは……」
話を聞いていたカイの純粋な子供ながらの質問にアイシェリカは少し威勢を削がれる。やはりアイシェリカは甘い。そもそも彼女は先程まで会話をしていた相手を無条件に殺せるほど、無情には慣れないだろう。ライ相手にはともかく、ルカとカイに意欲的に手を出すことはないだろう。
「わ、わかった! そんな目でみるんじゃない! ライはともかく、きさまときさまの姉なら見逃してやらなくもない!」
アイシェリカはじっーと見つめるカイに精神的に負けたのか、なんとも甘い発言をした。やはり、カイにはとことん甘いようだ。理由はわからないが、カイに優しくしてくれるのならそれに越したことはない。それを聞いてカイはパァーと顔を明るくした。
「よかった!! ありがとう!」
「ん? 兄の心配はいいのか?」
「だって兄ちゃんは誰にも負けないんだもん!!」
カイの安心しきった顔に疑問を浮かべるアイシェリカに対し、カイはライへの実力への信頼を口にする。たしかにライは今まで戦闘で負けたことはない。しかしだからといって今後も負けないとは限らないだろう。だが、それをあえてカイにいうこともない。ライは大人しく黙って話を聞いていた。
「ふん、みくびられたものだな。私がライに負けるなどとは……」
「実際、一度ボロ負けしただろ?」
「う……」
ライの鋭い指摘にアイシェリカは苦しそうに胸を押さえた。
「で、食料調達のためにこの先に進むんだろ? 道が三手にわかれてるけど、どうやって進む?」
「三つのグループにわかれればいいのでは?」
「わざわざわかれるなんて危険じゃないのか?」
「私は物事の効率性を求めます。みんなでいったら獲物が逃げてしまうかもしれませんし、少数で行動するメリットは存在すると思います」
「よし、わかった。三グループにわかれよう」
ルカの意見はある意味、的をえている。わざわざ反対する理由もないだろう。ライの提案に各々はペアを決め始める。
「じゃあ私はナットを連れて行きます」
「じゃ、僕はプリンセスにする!」
「え、じゃあ俺を必然的に」
「なぜ、きさまと組まねばならぬ!!」
完全にあまりものになってしまったライとアイシェリカは仕方なくペアを組むこととなった。




