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善意の裏には悪がある

 〜十二年後〜


 時刻は早朝、まだ人々は眠りについており街は静けさを保っている。そんな街の中の錆びれた小さな酒場のカウンターに一人の少年が座っていた。


 銀髪のツーブロックに金色の目を持つ、一二歳ほどの少年だ。ちびちびと店で一番の低価格である水とつまみのセットを食べている。

  

 青いフードがついたパーカーに黒い膝丈のズボン。服はやけに擦り切れており、裕福な家の出身ではないことが明確だ。何処となく暗い目をしているのもそれが原因であろうか?


「失礼、隣いい?」


カウンターテーブルにいた銀髪の少年に声をかけたのは、いきなり店に音もなく入ってきた一人の少女だ。長い金髪に緑色の目。その整った外見は世間でいう美人というやつだ。


 しかし少年が気にしたのは彼女の容姿でない。胸につけている小さなバッチだ。金色に輝く竜が刻まれたバッチは王国騎士であることを意味する。やけに長いフードで身を包んでいるのも周りに目立たないようにするためだろう。歳は十六歳ほどで、少年よりも四つほど歳上だ。


「……」


少年は答えるのが面倒くさかったため、首を縦に振ることで彼女の問いに意思を示す

。少女は少年の隣の椅子に腰をかけると、注文をしだした。


「店長、私にもこの子と同じのを!」


「はいよ!」


奥で皿磨きをしていた中年の店長は少女の注文に勢いよく返事をする。少女は一人でいる少年に興味を示したのか、質問をしてくる。


「君、いくつ? 名前は?」


「……歳は十三歳。名前はライだ」


本当は一二歳だが、ライは年齢を詐称した。元よりライは大人びていると周囲によく言われる。一歳の詐称ぐらいはわけないことだ。


「三つ違いか……。私の名前はフラワー、よろしくね」


 フラワーという少女は騎士団員の割にはやけに愛想が良い。注文をあえてライと同じにしたのもこの地域に慣れていない証拠だ。これはいける。ライはフラワーに愛想笑いをし、話しかけた。作戦開始だ。


「この辺は初めてですか?」


「えぇ、そうなの。実は父の仕事の都合でこの町にやってきて……」


(嘘だ……。そんな見え見えの嘘で俺を騙せると思うなよ、王国騎士団員)


 王国騎士団員のバッチは一般の人には公開されていない。それもそのはず。王国騎士団員はよっぽどの事が無ければ動かない。上級国民か犯罪者でしか王国騎士団員と普通の人間を見分ける事は出来ないだろう。


「よかったら案内しますよ。俺、この辺に詳しいんで」


「本当?! ぜひ、お願いするわ」


フラワーは迷う暇も無く、ライの申し出を素直に受け入れた。


* * *


「ここが、バルカルの街で一番有名な商店街ですよ」


「賑やかで凄いわね! こんなに人がいっぱいいるのは初めて見たわ」


ライの案内にのこのこついて来たフラワーはその人の多さに圧倒されていた。それもそのはず。バルカルは世界で最も人口が多い街だ。


 その証拠に、立ち止まっていれば必ず誰かと肩がぶつかる。フラワーは街の様子を見るふりをしながらも、あらゆる一二歳ほどの子供に目を凝らしている。"誰か"を探しているのだろう。


(あいつら、どこ行ったんだ? うまい具合に逃れられているといいけど……)


ライはさきほどまで一緒にいた二人の姿を探したが、どこにも見当たらない。片方は心配ないと思うが、もう一人の行方は心配だ。


「うわ?!」


周りの様子に目を取られていて、ライはフラワーが差し出してきたものに気づかなかった。それはアイスクリームだ。頰にキンキンに冷えたクリームを押しつけられ、思わず声が出てしまう。


「これは……」


「あげるわ。案内してくれているお礼よ」


ライは渋々、アイスクリームを受け取る。みればフラワーも片手に自分用のアイスクリームを持っている。目を離している隙に近くの店では買って来たのだろう。


「ありがとうございます……」


アイスクリームなどというものは小さい頃に食べたきりだ。一般人からしたらかなりの高級品で滅多に食べれないものである。


(あいつらにも食べさせてやりたいな……)


「さてと、次はどこを案内してくれるのかな?」


「次は展望台ですかね。街を一望できるんですよ」


* * *


「うわぁ〜、綺麗な場所ね!」


時刻は夕方に差し迫っており、展望台の景色は夕焼けに染まったいた。ライからしたら見慣れた景色だが、初めて見る人は感動するのだろう。


「にいちゃん、みて! 鳥さんだ!」


「僕、見えないよ!」


「……」


小さな二人の子供の声がする。ライの隣からだ。七〜八歳ぐらいの兄が三〜四ぐらいの弟を肩車している。その懐かしい光景にライは昔を思い出した。その間にもフラワーは背景を見終わったようだ。


「さてと、いろいろありがとう! 私は仕事があるからこれで失礼するわ」


「ちょっと待ってください。実はもう一つ、絶好のスポットがあるんですよ。よければ、そこも案内させてください」


「うーん、わかった。お願いするわ」


「フッ……」


あまりにも話が上手くいきすぎるものだからか、笑いを堪えるのに必死だ。仮にも王国騎士団員だというのに不用心すぎる。


「こっちですよ」


* * *


「随分、錆びれたところね。本当にここが絶好のスポットなの?」


三度目の案内の場所は狭い路地裏だ。誰がどうみても絶好のスポットとは思わないだろう。実際、街を歩く人々は路地裏に目もくれない。


「ここを真っ直ぐ通った先ですよ」


「ふーん……」


フラワーは若干、怪しむような顔をしたが文句も言わずにライの指差した方角に歩いていく。背中はガラ空きだ。しかし最後にどうしても聞いておきたいことがあった。


「フラワーさんは、破滅の三子についてどう思っていますか?」


「……随分と急な話ね。それなら簡単よ。死ななければならない存在としか言いようがないわ」


「……。彼らが無垢なただの子供だったとしても?」


「無垢な子供なんてとんでもないわ! あなたはまだ小さかったから覚えていないでしょうけど、十二年前の破滅の宣告、あの日だけでも数十万の人々が命を落としたの。それは私の父だって例外じゃないわ」


「あなたはさっき、父親の仕事の都合でこっちに来たと……」


 ようやく本性を露わにし出した女に対し、ライはあくまで無害な子供のふりを続ける。失言をしてしまった彼女はやってしまったとばかりに口を抑える。その申し訳なさそうな顔から彼女は本当にライの正体に気づいていない。


「あ、ごめんなさい。実はそれは嘘なの。私は王国騎士団員で破滅の三子の散策に来ていただけなの……。騙してごめんなさい」


「いえ、もういいですよ……」


「?!」


ライは彼女の謝罪を受け入れると同時に、ズボンのポケットにずっと突っ込んでいた右手を出した。出された右手はバチバチと青い雷を纏っている。それをみて彼女は何かに気づいたようだったが、もう遅い。


 ライは雷を纏った指で彼女を指差した。その途端、彼女の体に雷が流れる。どんな人間であろうとこのボルトには耐えられない。彼女は言葉を発する暇も無く、その場に黒焦げになって崩れ落ちた。完全にこと切れている。ライは崩れ落ちた彼女を冷たい金色の目で睨みつけた。


「妹と弟に手を出すやつは容赦しない。二度とお前たちに奪わせない……!」




 

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