真実へと近づけ!
「あ、来てくれたんだね!」
ライたちが姿を見せると、中で薬の調合中だったフーラは喜びに目を輝かせた。あれから数時間が経ってしまって、もう深夜だというのにフーラはきちんと起きて待っていてくれたらしい。
「うわー! ここ、いろんな薬があるよ!」
ライの背後からひょっこっと飛び出してきたカイはフーラの家を見て周り、好奇心に駆られている。この様子を見てると、フーラとカイは少し似ているところがある。
「僕、ここ初めて来た」
「実は前にも来てるけどな……」
カイからしてみれば果実の毒でやられていたため、フーラの家での一切の記憶がないのだろう。人騒がせにもほどがある。今度からは未知なる果実を食べようとしたカイを必死で止めようとライは心に誓った。
「あれ、一人増えてるね。ごめんね。食事を用意したんだけど、三人分しかないんだ。もう一人分、急いで作るよ」
「あ、いいよ。気にしないで。僕は食べなくても平気だから」
フーラは背後から息を切らしてやってきたナットの存在に気づいたのか、料理が提供できないことを詫びた。机には三人分の美味しそうな料理が用意されており、通りでいい匂いがするわけだ。
料理は主に海の食材で構成されていて、魚のムニエルやホタテ、大きなエビの丸焼きなどとても豪勢な料理だ。少なくともここ数年はこんなに大量の料理はお目にかかれていなかった。
「うわーー! 美味しそう! ねえ食べてみてもいい?」
「ご自由に召し上がってよ。おかわりはないけど」
薬を見て回るのに飽きたのか、カイが机の上の料理を机の下からジーッとみている。まるで餌を狙っている猫のようだとライは少し思った。
「こら、カイ命の恩人に失礼だろ?」
「命の恩人? 君はえっと……」
カイはフーラの顔をジロジロみて、必死に地震の記憶の中から彼の記憶を掘り起こそうとしている。しかしどうしても思い出せるわけがない。困っているカイをみていたフーラは自身からもう一度、自分の名前を名乗ってくれた。
「僕の名前はフーラです。君は果実の毒でやられたんですよ。覚えていませんか?」
「んーー。あ! 思い出した! じゃあ、君が僕を助けてくれたんだね! ありがとう!」
「いえいえ、破滅の三子をお守りするのは僕の役目ですから」
カイの純真なお礼にフーラはにっこりとしながら会話をしている。その発言に妙に引っかかるものがあり、ライはフーラにずっと気になっていることを質問を試みた。前々からぼかされてはいたが、そろそろ真実を知りたいのだ。
「フーラ、お前は俺たちのことについて何を知ってるんだ」
「そうだね。料理を食べながら、話さないかな? 一人すごくお腹が空いているようだし……」
フーラは机に向かうと、椅子を引いた。座れということだろう。食べるもなにも、既にカイが料理に手をつけ始めている。凄い勢いでライたちの分までもがなくなってしまいそうだ。
「お、おい! カイ、俺たちの分も残しとけよな」
ライは話を聞くことも忘れ、机に向かって走っていった。家の入り口では比較的無口で静かなルカとナットが会話をしている。
「ナット、私は少食なので私の分も食べればいいですよ」
「え、そんな……。悪いよ……」
ルカの提案を受けたナットは首を横に張り、ルカの提案を拒絶する。
「食べないのなら、カイに食べられて終わりですね」
「……わかったよ。実は食べるのは何百年ぶりかで、ちょっと食べをてみたかったんだ」
「ナット!! 僕の分もあげるよ!」
「妹の恩人だからな、俺のも半分やるよ」
机に並んでいる料理の量はたくさんある。ライもそこまで食べる方でないため、最初から上げるつもりではいた。自分たちだけ食べるだなんてそんな傲慢なことはできない。
でも食いしん坊なカイに先にそれを言われたことはなんだかむかつく。カイはそんなライの感情には微塵も気づく様子もなく、料理をみてハッとしたように目をまん丸くした。
「あれ、でもそうするとフーラの分がないや!」
「大丈夫。僕らは水だけでも十分、生きていけるのさ。あ、ナットは僕の椅子に座るといいよ。僕は飛べるからむしろ立っていた方が楽なんだ」
フーラはいつ持ってきたのか、透明なグラスに入った綺麗な水を床に立ちながら飲んでいる。そういえば空の守り人は水だけでも平気な種族だった。肉や果実が食べれないというわけではないが、わざわざ摂取しなくてもいいものは取らないということなのだろう。
「じゃー!! 遠慮しないでじゃんじゃん食べるぞー!!」
「うわー!! 俺の分まで取るなよ!」
「ナット、カイと一緒に食べるときは死ぬ気で皿ごとかぶりつかないと持っていかれますよ」
「さ、皿ごと!! ちょっと上げる気ないだろ!」
ナットは驚きの声を上げた。カイは人のお皿の中身だろうと、容赦無く取っていくため食べたいものがあったら箸などは使わず、皿ごと口に流し込むしかないのだ。カイは兄弟の中で一番体が小さいというのに、なぜか食べる量だけはライたちを上回っていた。
「あ、アハハ……。話は食べた後の方がいいかもね……」
とてもではないが食事をするとは思えない雰囲気をみて、その様子を近くから見守っていたフーラはため息をつき、口を閉じた。
* * *
「満腹で動けないよ」
獣のように料理にかぶりついていたカイはあまりの満腹さにその場に倒れ込んだ。腹がいつもの倍近く膨らんでおり、相当食べたことがうかがえる。
「うーん、食事ってこんなに疲れるもんだったけ?」
同じく床に座り込んでいるナットは真っ二つに割れた机をみて頭をおさえた。お互いに意思が強いライとカイはよくとお互いに食べたいと思ったものを譲らない。
その結果、家の中から破損物が出るほどの大げんかにまで発展するのだ。喧嘩というよりは勝負だ。勝ったほうが欲しいと思っていた食べ物をゲットできるのである。
「あの料理。なかなか美味しかったですね」
ルカがライとカイが争っていた原因の食べ物を横からこっそりと頂戴することで勝負は幕を閉じた。いつもこんな感じだが、懲りずに勝負をしてしまうのはやはり楽しいからだろう。
「今日はありがとな。フーラ、机弁償するよ」
「いいよいいよ。人間の食べ方を知らなかった僕も悪いし……」
「いや! あれは人間の食べ方じゃないよ! そ、それとも僕が囚われている間に食べ方まで変わったのか!」
床に横向きに倒れ込んでいたナットは驚きで立ち上がり、勝手に自問自答をしている。めんどくさいし、面白いのであのまま放っておいておこうとライはその問いを無視した。
「で? 話してくれんだろう? 真実を」
「あ、僕は外に出てるね」
「ああ、助かる」
ナットは空気を察したのか、そのまま外に出ていってくれる。ナットのことを信用していないわけではない。しかし聞かれたくない内容であることは確かだ。それを合図にカイと部屋の隅にいたルカもライのところに集まる。三人いるのをしっかりと確認したフーラは真実を話してくれる。
「心の準備はできたね? ……君たちはね、神様の生まれ変わりなんだよ」




