全員集合
「なんだ? この音」
「水が爆発したような不思議な音だったね」
ライが遠くから聞こえた謎の音を疑問視すると、そばで耳を動かしていたナットが答える。この音にはなんだか聞き覚えがある気がする。どこで聞いたのかは覚えていないので、相当前な出来事であることは確かだ。
「水の音なら、カイなのでは? もしかしたら私たちに気づいてもらうために合図をしたのかもしれません」
ルカの考えにライも同意だった。ここにいてもらちがあかない。カイの安否を確認するのが先決だ。
「そうだな。とりあえずいってみるか」
ライは監獄を出る前に監獄の内装をぐるっと見渡す。監獄の中身は異界種との戦いでかなりボロボロだ。牢の中で何人かの死人もでているし、これではますますライたちの悪名が世界に振りまかれることとなりそうだ。
「ま、これ以上考えても仕方がないか」
ライは監獄から脱出すると、音のした方角へと全力で向かった。
* * *
荒野を見回りながら、空を飛んでいると地面に誰かがいるのが確認できた。こちらに手をブンブン振っている。その様子を見ていれば、顔を確認するまでもなくカイだということがわかった。ライはカイがいる近くの地面に降り立った。
「にーちゃん!!」
「カイ!」
荒れ果てた荒野のど真ん中、前から走ってきたカイが思いっきり突進してくる。その威力に巻き込まれたライは激しく地面に転がり込んだ。ライの上にのっかったカイは勢いよく抱きついてくる。
「遅いよ!」
「仕方ないだろ? これでもだいぶ急いできたんだから……。あのクリスフォール・アルネブだっけ? あいつはどこに行ったんだ?」
カイを攫い、ルカに異界種をけしかけた張本人の姿は見当たらない。ルカに名前を名乗ったらしく、ライはルカから彼の名前を聞いたのだ。
「戦ったんだけど、逃げられちゃった」
「そうか、でもカイが無事で何よりだ」
ライはカイの頭をよしよしと撫でて、落ち込むカイを慰めた。やはりあの男は狡猾だが、戦闘能力はそこまで高くはないのだろう。
もしかしたらライたちが助けに来るまでもなかったのかもしれない。いつも通りならこれぐらいの距離、すぐに移動できたのだが、思ったよりも集合に時間がかかってしまった。
ライは背後を振り返り、思ったよりも時間がかかってしまった原因を目にした。うしろからは汗だくで地面を這いながらのナットとそれを冷たい目で見つめるルカがライの跡をついてきていた。
「まさかあいつがあんなに運動音痴だなんて知らなかった」
異界種との戦いでは、あんなに凄まじい実力を見せたナットには運動能力が全くないことが判明した。
本人曰く、長いこと囚われていたせいで筋力がなくなっているとの話だが、これでライたちの旅についていけるのかと、不安になってしまう。少しずつこちらにやってくるナットを見て、カイは首を傾げた。
「誰? あの人」
「ああ、牢獄の最上階に囚われてたナットだよ。なんでも俺たちの旅についていくんだってさ」
「え! あの人がナットなんだ!」
「知ってるのか?」
「僕が囚われてる時、ずっと話し相手になってくれたんだ。お陰で、怖くなかったんだよ!」
「そうか……。あいつには結構な借りができたな」
ルカの致命傷を治してくれただけでなく、異会社の退治に、カイの牢獄での話し相手。妹と弟によくしてくれた以上、どんなに足を引っ張られようとも目を瞑るしかないだろう。
カイと話している間にライたちの元にたどり着いた当のナットはゼェゼェと息を切らし、目が完全に死んでいる。
「大丈夫か?」
「へ、平気……だよ。そこまで……心配してくれるのなら、背中に乗せてくれてもよかったのに……」
「あいにく俺の体には大人一人を乗せるスペースがない」
目的地へ到着する速さを重視するため、ルカとナットを地上に置き去りにしたまま向かったのだ。
「ルカに持ち上げて運んでもらったらよかったのさ」
ルカは力が強く、重いものでもヒョイっと持ち上げられる。体力はそんなにないが、ナットを手で担ぎ、目的地へと運ぶことぐらい容易だろう。ライは出発する前にそれを提案したのだが、ナットは人には頼らずに自分で歩くと聞かなかった。
「女の子に運んでもらうだなんて、情けないだろ?」
「子供に運んでもらうのも結構、情けないけどな」
ルカに運んでもらうのはダメで、ライがいいというのは納得がいかない。まだ地面から起き上がる気配のないナットの服をルカは無理やり引っ張り、地面に立たせた。
「これ以上、遅くなるのなら置いていきますよ」
「ちょ、ちょっと待ってよ。今の子は忙しなさすぎるよ。人生、急いでもいいことなんて何もないもんさ」
ナットは息を整えながら、年長者の発言をする。ナットが不老不死であるのは知っているが、年齢は不明だ。
「今の子って……。お前、いったい何歳なんだ?」
「え、わからないな。五百を超えたあたりから、数えるのをやめちゃったし……」
ナットの五百という言葉に、そばにいたカイがびっくりしたように目を丸くする。そういえば、カイは幼い頃から歴史が大好きで、村の学校でも歴史だけは真面目に授業を受けていた。
少なくとも、歴史のことに関してはカイの右に出るものはいなかったぐらいだ。
「五百歳越え?! それってもしかしたら異界歴になる前のことなのかな?」
「異界歴? なにそれ?」
ナットは頭を抱え、異界歴という言葉を懸命に思い出そうとしている。しかしこの世界に暮らしていながら、それを知らないなんてあり得ない。
「今の元号さ。今年で六百五十四年になるところ」
「うーん、僕が知っているのは宇宙歴だな」
「宇宙歴ってなに? 聞いたことがないや」
ナットの答えに歴史に詳しいはずのカイが首を傾げる。ライ自身、宇宙歴などという元号は聞いたことがない。教科者では異界歴からの歴史しか習っていないのだ。
「そんなことより、フーラの家にさっさと向かいませんか? 確か話があるとか言っていましたよね。その話なら落ち着いてからすれば良いじゃないですか?」
「それもそうだな。今はとりあえず身を落ち着ける場所に行くことが先決だ」
「もっとお話聞きたかったのに。まあ、いいや。一緒に旅に出るんなら、いつでもお話聞けるもんね」
カイはいつものように文句を言わずに、ルカの提案に従った。理由はわからないが、言うことを聞いてくれるのなら幸いだ。
「じゃあ、四人で歩いて行こうか。バラバラになるのは危険な気がするしな」
お互いにバラバラに行動した方が、目的地に早く辿り着けるのはライもわかってはいるが、騎士団員がまだこの辺を彷徨いているかもしれない。単独行動は危険だと判断した。
ライたちはフーラの家に向かって足を踏み出した。それを遠くの岩陰からじっと見ている影にも気付かずに。




