運命の出会い
血走った目を光らせながら、異界種がこちらに飛びかかってくる。図体が大きいこともあり、異界種が走るだけで大地震が発生する。
こちらに猪突猛進の様子で突進してくる異界種をルカは上空に高くジャンプをすることでかわした。
異界種は壁に頭と体を激しくぶつけたが、全くと言っていいほど、ぶつけた当の本人は痛がっていない。異界種のツノによって軽く粉砕された壁がそこには存在した。その衝撃で少し建物が崩れ始めている。
「ここで戦っていたら、崩れた壁によって押しつぶされてしまいますね」
ルカなら岩の壁を出現させて、崩れてくるものから身を守ることはできるとは思うが、やってみたことがないので無事でいられるからわからない。
しかしこんな大きな生き物が塔の外に出られる出口などはどこにも存在しない。出れるとしたら壁が完全に壊れ、穴が空いた時だけだ。どちらにせよ、塔の崩壊は免れないだろう。
「だったらこれではどうですか!」
ルカは壁の側面を力強く蹴り飛ばすと、ルカを闇雲になって探している異界種の体に向かって手に持っていた剣を力強く突き刺した。
「なっ、これは……」
思いっきり体に剣を突き刺したにも関わらず、剣は硬い皮膚によって無惨にも弾かれてしまう。それも剣が刃こぼれするほどの皮膚の硬さだ。
「ブフフフォォーー!!」
異界種は体に乗っかっているルカを振り落とそうと、体をあちこちに激しくぶつけ始めた。頑丈なはずの壁が少しずつポロポロと崩れ始めている。抵抗したいが、振り落とされないように捕まっているだけで精一杯だ。
「いい加減にしてください!」
ルカは振り落とされないように踏ん張りながら、地面に片手を伸ばした。その瞬間、地面から大きな岩の塊が出現し、異界種の顎に思いっきり刺さった。岩は異界種の皮膚を残酷にも深くえぐりとり、大量の血がそこらじゅうに散らばった。
ルカは異界種が痛みによって悶えている間に、地面に降りたたった。異界種はかなり弱っている。
「あと、もう一撃でやれるはず」
ルカは地面に片手を伸ばし、渾身の一撃をくらわせようとした。
「……!!」
ルカは急に下腹部を襲った激しい痛みに攻撃をすぐに中断した。恐る恐る痛みがする場所に目をやると、異界種の伸びた前足の爪が下腹部に背中まで貫通するほど、刺さっていた。
異界種が爪をひき抜くと同時に、ルカは痛みでその場に立っていることができず、地面に座り込んでしまった。
「油断した……」
出血が止まらない下腹部を押さえ、押さえた手は血で真っ赤に染まっていた。ルカは異界種の方を睨みつけ、致命的な一撃をくらってしまった原因を探った。
異界種の爪は素早く伸び縮みができたのだ。既に攻撃を終えた異界種の爪は元の長さに戻っている。怪我をしているというのに、あちらはやる気満々のようで、こちらに前足を蹴って、突進してこようとしている。
戦ったことがないため、異界種の攻撃寸法をルカはまるで知らなかった。そのこともあり爪がのばせるなど、想像もできなかった。次に戦う時はきちんと覚えておこうとルカはしっかりと心に誓った。
「次があればの話ですけどね……」
何より出血が酷い。頭も段々とくらくらしてきて、めまいもしている。怪我のせいで身体が貧血を起こしているのだ。
全身を黒い服に覆っているので、どれほどの出血をしているのかがいまいちわからないが、このままでは出血多量で死んでしまうのは確かだ。
「ここにいては危険ですね」
ルカは最後の力を振り絞って、目の届くところ全てに巨大な岩壁を出現させた。異界種は知能は低い。突然、表れた岩壁に何度も頭をぶつけて破壊しようとしているが、岩壁はルカを殺さない限り消えることはない。
ルカは傷口を押さえながら、その場から静かに立ち去った。
* * *
「ここまで追い詰められるとは思いもしませんでした」
ルカは長袖を破り取ると、怪我した下腹部に強く巻き付ける。痛みは和らがないが、これで少しは出血を抑えられるだろう。
現在、ルカが休憩をとっている場所は塔の最上階であった。静かに身を潜めながら、なんとかここまで辿りつくことごできたのだ。異界種のあの巨大では、ルカの居場所を見つけても辿り着くことはできないだろう。
異界種は懲りずに壁に頭をぶつけまくっており、声を荒げている。ルカを探そうと躍起になっているようだ。その衝撃でいくつもの牢が破壊されている。
壊れた牢の中にいる罪人たちは壁と異界種に挟み込まれて逃げることができず、異界種の突進に巻き込まれて何十人もの死人が出ている。まさに下の階は地獄と成り果てていた。
「あの男、罪人などどうなってもいいということですか」
カイを攫っていったクリスフォールという名の騎士団員の男。見た感じ、かなり頭が良さそうにみえた。きっとこうなることをわかっていた上で、あえて異界種をここに出現させたのだ。
「死刑を執行するのにも罪人の命を維持する食費にも時間がかかりますし、ここで一斉処分ということですね……」
それが本当だとしたら、クリスフォールという男はかなり残虐だ。いくら罪人とはいえど、命には変わりない。ぞんざいにもののように扱っていいはずがない。
「騎士団員というのはやはり好きにはなれませんね」
「まったくもって同感だよ! 僕も騎士団員なんか大っ嫌いさ。君と僕は気が合うね」
「!! 誰ですか!」
ルカは立ち上がり、キョロキョロと辺りを見渡した。しかしどこにも声の主は見つからない。
「ここだよ、ここ。牢の中さ」
ルカは声がする方角に歩いていく。ちょうどルカが座っていた場所の隣にあった牢から聞こえてくる。あまりにも静かなので気づかなかった。これが罠である可能性もないとはいえないが、死を間近にしてそんなことを気にしている場合ではない。
「あなたは……」
ルカは牢の人物と対面して、その拘束の仕方に驚いた。目にはくいが埋め込まれており、四肢にもそれが同様に埋め込まれている。
恐らく、逃げないようにするためだとは思うが、残酷な拘束の仕方だ。同時にここまでされるということは、余程のことをしでかした人物なのだろう。
「君、怪我してるのかい? 下にいる化け物にやられたんだろうね。もっとも、あんなやつに僕なら引けを取らないけど」
「あなたなら、あの異界種を倒せるんですか?」
「異界種? 君たちの世代ではそう呼ばれているんだね。そうだよ、僕を殺せる奴なんてこの世には存在しないからね」
囚われている男はやけに自信満々だった。ルカは牢の鉄格子を両手で握ると、それを力技で捻じ曲げて牢の中に入った。
「何をするつもりかな? 僕に協力して欲しいなら、それはうけつけないよ。僕はここから出たくはないんだ。条件次第では、協力してあげなくてもないけどね」
「わかりました。引き受けます」
「まだ、何も言ってないんだけどな……」
「私はもう死にかけてますし、手段を選んでいる場合ではありません」
「ふーん」
普段なら、こんな怪しい提案には乗らないのだが、この状況ではそうも言っていられない。男はニヤリと笑うと、再び口を開いた。
「僕の頼みっていうのはーー」




