戦闘開始
ライは頭を抑えると、正直に返答してもいいものか迷った。アイシェリカは今もこちらを強く睨んでいる。
どれだけ時間がかかろうとも、真実を聞き出すでまでその場から動かない気だ。嘘をついたところでどうせ無駄だろう。どうせあちらは既に誰が何をしたかなんてわかって質問しているのだ。これは確認に過ぎない。
「そうだよ。俺が殺したんだ」
「くっ……! やはり貴様か! フラワーは雷に打たれたたような黒焦げな状態で見つかった。それなら天候を操る貴様で間違いないと睨んだのだが、私の考えは間違いではなかったようだ。最後に一つだけ問う。なぜ、殺した?」
「……。俺たちを殺そうとした。だから先に手を打ったまでだ」
素直にことの真相を述べるライに対し、アイシェリカは胸の内から溢れる激昂を抑え、冷静さを保っている。戦う決心がついたのか、やがて腰にかけていたレイピアを鞘から引き抜いた。金色に輝く珍しいレイピアだ。かなりの上ものであろう。
「……、貴様らはやはり我らとは相反する存在のようだ。ここで処罰するしかないようだな」
「そうだな。俺はお前と戦うの嫌だけど、逃してくれなさそうだし」
「うわあぁぁ!!」
ライがてのひらから雷を出そうとした瞬間、アイシェリカが地面を激しく蹴り飛ばして叫びながら飛び掛かってくる。顔を下げてこちらに見せないようにしているが、涙を流しているのがライにはわかった。
「……」
アイシェリカライを両足で蹴り飛ばし、地面に押さえつけると剣を縦に構えた。そのままライの心臓に剣を突き刺すつもりだ。普段なら抵抗するところだが、ライはあえて無抵抗を貫いた。それに対してアイシェリカの目に疑問が浮かぶ。
「なぜ、抵抗しない?」
「君が泣いてるからかな」
「……!!」
アイシェリカは自身が泣いていることに指摘されて初めて気づいたのか、ゴシゴシと袖で目の涙をぬぐった。その様子を見ていてわかったことが二つある。一つ、アイシェリカとフラワーはかなり親しい仲だったようだ。二つ目、それは……。
「お前、人を殺したことがないだろ?」
「……!!」
「誤魔化そうとしても無駄だ。その様子をみていれば一目でわかるさ」
言い訳をしようと口を開いたアイシェリカの言葉をライはきっぱりと遮る。どんなに誤魔化そうとしても彼女の持っているレイピアをみていればわかってしまう。
レイピアは小刻みに震えていた。それはレイピア自身が震えているわけではなく、アイシェリカが感じている恐怖や動揺から揺れ動いているのだ。
ライは数々の敵と今まで戦ってきた。その中にはアイシェリカのような人間も少なからず、存在していた。だからこそ彼女が人殺しが初めてで、それに対する恐怖で怯えているのも理解できた。
「お前、騎士団員向いてないよ」
「黙れ!!」
騎士団員は民を恐怖から守る正義のヒーロたちだ。当然、そのためには相手を殺さなければならない状況も存在する。そんな時に躊躇いや恐怖を感じるのはあまりにも優しすぎる。
「死ねーー!!」
アイシェリカは涙を抑えきれないまま叫ぶと、レイピアを勢いよくライの心臓に突き刺そうとした。
「なっ?!」
ライは彼女のレイピア指二本で軽々と受け止めた。剣筋は悪くないが、攻撃の仕方が単調すぎる。ライは驚く彼女の腹を両足で思いっきり蹴り飛ばした。蹴り飛ばされたアイシェリカは地面を転がって倒れた。
レイピアは今、ライの手の中にある。レイピアを目の前にかがげると、レイピアはつかに宝石が埋め込まれており、ライの上ものという推測が当たっていたことを意味する。
アイシェリカは剣を失ってなお、目の闘志は揺るがなかった。ヨロヨロと片腕を抑えたまま、立ち上がった。
「返せ、それは父上に貰った大切なものなのだ!」
「奪うつもりはないよ。ただ、一回だけこっちで使わせてもらうぜ」
「??」
ライはレイピアを天に掲げると、目を瞑った。自分はカイのように能力を上手く使いこなせていない。だからフーラの言う通り、空の声も聞くことができないままなのだ。それにルカのように冷静でもないし、頭も良くはなかった。
しかし唯一、ライがルカとカイに優っているものがあった。それは……。
「これを喰らえば、少しは大人しくなるかな?」
ライが持っているレイピアに一筋の雷が落ちた。普通の人なら感電死しているところだが、ライは雷をいくら喰らおうと平気だった。手の中のレイピアは青い雷を力強く纏っている。
それを見てアイシェリカの目に強い怯えが走った。それもそのはず。戦闘に長けていないものでさえ、ライの一撃を受けたら、ただでは済まないことを空気で感じ取れるのだ。
「なっ、やめ……!」
「ランニングシャイン!!」
ライは叫ぶと同時にレイピアを彼女に振り落とした。広範囲の雷がレイピアから放たれる。それは山一つを消しとばしてしまうような威力だった。いくら走ろうとも逃げることなどできない。しかしアイシェリカも無抵抗ではなかった。
「これならどうだ!」
アイシェリカは両手にシールドを発動させると、雷をその手に受け止めた。
「シールド、騎士団員が使う肉体を極限状態に硬化させる技……」
かなり習得が難しい技であるので、 実際に使う騎士団員はほんの僅かだ。それができるだけで騎士として一人前だと認められるぐらいだという。少なくともその歳でシールドを使えるアイシェリカは生粋の天才か、努力家のどちらかだろう。
「さっき、向いてないって言った一言、取り消させてもらうよ!!」
ライは両手に握っていたレイピアを片手持ちにすると、空いている方の手でアイシェリカの背後にあらかじめ忍ばせていた雷を操った。
「何?!」
突然、背後から飛んできた雷にアイシェリカはその身をうたれる。万が一を考えて先手を用意しといたのだ。少し卑怯な技だが、命の奪い合いではそんなことも言っていられない。
「君の弓技、応用させてもらったよ!」
アイシェリカが弓を反転させたのを間近で見た時、やり方を瞬時に学習したのだ。
背後から避けられない一撃を背中に喰らい、アイシェリカのシールド状態が解かれる。アイシェリカはそのままレイピアの雷にその身を包まれた。
「うわああぁぁーー!!」
アイシェリカの叫び声と共に、ライたちが立っている荒野に激しい爆発が起きる。地面は自身のように揺れ動き、荒野の三分の一ほどの地面がなくなった。
爆発の衝撃と雷の点滅がなくなると、ボロボロになったアイシェリカが倒れていた。ライはアイシェリカの元に近づくと、レイピアを彼女の手前に置いた。アイシェリカは戦意を失った目で近づいてきたライを睨みつけた。
「なぜ、殺さない……!!」
「言っただろ? 戦いたくないって」
「私を見逃したこと後悔するぞ!」
「そんときはそんときだ」
ライは倒れているアイシェリカをあとにすると、死の監獄に向かって歩き出した。
* * *
ライの様子がすっかり見えなくなると、アイシェリカはレイピアを支えにし、立ち上がった。本気の一撃をくらっていたら間違いなく死んでいた。自分は手加減されたのだ。それがアイシェリカにとって最大の屈辱だった。
「これが、破滅の三子の中でも一番の実力を持つと言われるライの力。かつて陸地の三分の一を削り取ったと言う話は本当だったのか……」
ライが妹と弟よりも優れているところは、単純な実力であった。




