監獄の青年
〜死の監獄の最奥〜
死の監獄の最奥、そこには一人の男が幽閉されていた。数百年前に国一つを壊滅させるという悪行を犯した男だ。過去に何千回と死刑を執行されたが、一度も命を落とすことはなかった。彼は不老不死であった。
「うーん、しばらくぶりに寝れたな〜」
男は、青年は鎖でできた枷で手足を縛られながらも、のびをしようとした。ここはなにもすることがなくて、退屈なので寝ることぐらいしかすることがない。国の連中も死刑を執行するだけ無駄だとわかったのか、ずっと青年をここに放置している。
「ま、僕としてはそれでいいんだけど、なんだか寂しいな」
小さい頃、親に怒られた時は嫌な思いをしたが、いざ怒られないとなると寂しくなるあの現象。今、抱いている感情はそれに近い。
「ん、なんだこの音?」
横の檻からだろうか。ガンガンと音が聞こえてくる。隣の檻はずっと誰も入っていなかったはずだが、自分が寝ている間に新入りが来たのかもしれない。
過去に何度か、隣に人が入ったことはあった。しかしすぐに死刑は拷問に連れていかれるため一度も戻ってくることはなかった。
最奥は相当な犯罪を犯さない限り、入れられない場所だ。きっといつも通り怖い人物に違いないと思い、隣に聞こえるように大声で話しかけてみた。
牢の前には見張りの人間もいないので、大声を出し放題なのだ。舐めすぎと言いたいところだが、一人も脱獄者を出していないので文句も言いようがない。
「おーい、誰がいるのか!!」
勇気を持って話しかけてみたが、特に反応はない。もしかしたら誰もいないのに音が鳴っているのかもしれない。
それはそれで怖いが、ここにいて数百年間幽霊などみたことがないので、それはないだろう。もしかしたら話したくないのかもしれない。返事が返ってこないことに内心がっかりしていると、青年の問いに返答が帰ってきた。
「誰? 僕以外にも誰かいるの?」
いつのまにか騒音が消えており、声の相手が対話に集中していることを意味する。聞こえてきた相手の声質に青年はかなり驚いた。どう考えても子供の声だった。声変わり前の少年の声といった方が正しいのかもしれない。
「ああ、隣にいるよ」
「よかった〜〜。僕、一人じゃ心細くて」
青年が返事をし返すと、隣にいた少年から安堵するような声が漏れる。それも当然の反応だ。普通の子供がこんな場所に入れられたら、精神的に不安定にもなるだろう。
「ねえ、僕ここから抜け出したいんだけど、いい方法知ってる?」
「……いや、残念だけど知らないな。まあ、試そうとしたこともないからね」
青年は生きる気力が周囲と比べて、人一倍少なかった。ただひたすらに死刑を待ち続けるこの状態に置かれてもなお、逃げ出したいとは思ったことは一度もなかった。
だからこそ脱獄を試したことも一度もないため、少年の問いに満足な答えるを与えることはできなかった。それを聞いて少年はショックを受けたように声を落とす。
「そっか……」
「そう、気を落とすことはない。後々に髪を待っているのは死刑か拷問さ」
「それ、ちっとも安心できないよ!!」
「?」
なぜだろう。安心させようとしたのに、逆に少年を不安にさせてしまったようだ。
「おじさんはどうしてここに囚われてるの?」
「お、おじさんって……俺、結構若い見た目してるんだけど……」
「そうなんだ。声だけじゃわからないよ」
知らない子供におじさんと言われるのはいくつになってもショックな出来事だ。青年が不老不死になった年齢は十八歳ぐらいなので、見た目もそれぐらいを維持している。しかし少年のいう通り、声だけではわからない問題ではある。
「おじ、お兄さんも心配しなくても大丈夫だよ。すぐに兄ちゃんと姉ちゃんが僕を助けにきてくれるんだ。その時一緒に逃げよう」
「……。残念だけど、遠慮させてもらうよ」
「え?! なんで?!」
きっと隣にいる少年は根っからの優しい子なのだろう。優しくなければ、見ず知らずの青年を逃してくれようとはしないはずだ。
それに死の監獄にいる時点で、青年は大罪人だと決まっている。子供とはいえ、少年にもそれはわかったいるはずだ。
ありがたい話ではあるが、青年はその誘いを拒否する。自分には夢があるのだ。それはここにいなくては決して叶わない夢であった。だからこそ、ここを離れるわけにはいかないのだ。
「悪いな、僕は僕なりに考えるがあるんだ。それに僕は大罪人だぞ。そんな人間が外に出たって喜ぶ人なんかいやしない」
「お兄さんはなにか悪いことをしたの?」
「ああ、とても悪いことをしでかしたのさ。君こそそんな若さでどうしてこんなところに入れられているんだい?」
「……」
「ああ、ごめんね。嫌な思いをさせちゃったかな?」
少年が押し黙ってしまったため、青年は心から謝った。決していい理由でここにくる人などいない。嫌な思い出を掘り起こしてしまったのかと、申し訳ない気持ちになる。
「僕たち、生まれてきちゃいけない子だったんだって。周りの人達がよく言ってたんだ。だからここにいられるべきなんだって……」
「……、君は自分たちのことをそう思っているのかい?」
「えっと、僕は僕自身のことはわからないけど、でも兄ちゃんと姉ちゃんのことは生まれてきてくれて嬉しいって思ってる」
「じゃあ、君の兄さん姉さんも、君のことを生まれてきてくれて嬉しいって思ってるはずさ。今はそれで十分じゃないかな?」
「うーん、うん! そうだね。なんだかちょっと元気出たかも!」
思ったことを素直に口に出しただけなのだが、少年は元の元気を取り戻したようだ。子供は元気が一番である。その様子があの子によく似ていてなんだか微笑ましい。
「それはよかった。君は僕の昔の子供によく似ててね。話していて楽しいよ」
「僕も楽しい! でもどうせなら顔を見て話したかったな〜〜」
「ハハ、それは無理だろうね。ま、こうして話せるだけでも十分だろう? 君のお兄さんお姉さんが、くるまでの辛抱さ」
「うん!」
青年はできるだけ明るい話題を口に出して、少年の心が落ち込まないようにサポートしていた。こんな薄暗いところに誰とも話さず一人でいれば、少年の心が壊れてしまうのも時間の問題である。会話をしているだけでも、気が紛れるはずだ。
(ま、天と地がひっくり返ってもここには辿り着けないだろうけどね)
口に出す言葉がその人の意見を表しているとは限らない。青年は内心、少年の兄姉が来ることを微塵も期待してはいなかった。ここ数百年、一度として囚人を助けにきて成功した人はいなかった。
たとえ、監獄内部に入れたとしても生きては出られないだろう。ましてや少年の兄姉は年上であっても子供である可能性が高い。救出は無謀であろう。
「色々と親身になってくれてありがとう! 僕の名前はカイって言うんだ! お兄さんの名前は?」
「僕? 僕の名前はナット。よろしくね」
ナットはカイと名前をお互いに名乗りあった。




