正義のあり方
「兄さま、急いでください。はやくしないと、カイが奴らに殺されてしまうかもしれません」
「わかってる、十分急いでるって! そういえばお前、また太っただろ?!」
「……」
「いて!!」
体重の話題に触れた途端、空を飛ぶライの背中に乗っていたルカに力強く頭をぶたれる。なにも殴ることはないと、ライが頭をさすっていると、ルカは何かに気づいたように地面を指差した。
「兄さま、あれ」
「ん? あれは……」
遠く離れた 地面に人が一人立っているのが確認できる。かなり遠いが、何やら見たことのある顔のような気がする。ライは目を細め、その容姿をもっとしっかりと確かめようとした。その瞬間だ。
「あぶね!」
ライは地面からいられた矢を間一髪でかわした。見事な狙いだ。あと少し、かわすのが遅ければ心臓を射抜かれているところだった。いくらライであっても心臓をやられたら終わりだ。
(こちとら、怪我人なんだぞ)
ルカにはなんとかさとられないようにしてはいるが、ライは現在骨折中なのだ。あの男におられた脇腹の骨がまだ完治していない。
破滅の三子と言っても怪我の再生力は常人と大差ないのだ。本来なら安静にしていなければならない状態だが、現状そんなことは言っていられる状況ではなかった。
「いい加減、しつこい!」
地面からまた数本の矢が飛んでくる。こうまで執拗に狙ってくるということは騎士団員だろう。しかも遠距離攻撃にかなり特化している。
(くそ、こんなところで時間を使ってる場合じゃないってんのに……!)
「上です!!」
心の中でぼやくライに、背中に乗っていたルカがライの髪を引っ張りながら大きく叫んだ。チラッと後ろを振り返ると、先程かわした矢が全て逆転してこちらに凄まじいスピードで向かってきていた。
「……!!」
急いでかわそうとしたが、回避だけでは間に合わない。
「くっ!!」
ライは天に向かって指を伸ばすと、飛んでくる弓矢に向かって指を差した。その瞬間、天から矢に向かって雷が降り注いだ。矢は無数の雷にうたれると、真っ黒影になって落ちていった。
「離れていては不利です。一旦、下に降りましょう」
「ああ、それがいいな」
遠距離が得意な相手に遠距離で勝負するなど、ライには無理だ。ライもルカもどちらかというと近距離戦を得意としている。それに空ではルカは自身の大地の力を存分に振るうことができない。
ライが地面に向かって突っ込んでいくと、下にいた相手が次々とライたちに向かって矢をうってくる。しかしかわすなどということはしない。
何故なら、背中に乗っていたルカが空中に一種で生成した木刀で矢を薙ぎ払ってくれるからだ。地面に近づくと、攻撃してきた相手の顔が識別できるようになる。
その顔はつい最近に見たことがある。相手の名前も印象的だったので、フルネームで覚えている。ライは地面に着地して、ルカを下ろすと敵対する相手を睨みつけた。
「お前は……」
「久しぶりだな、破滅の三子」
「数日が久しぶりというかは疑問だけどな、アイシェリカ」
「二人は知り合いなのですか?」
お互いに挨拶をしあう二人を見て、ルカは不思議そうに首を傾げた。彼女と遭遇した時にルカはその場にいなかったので相手を知らないのも無理がないことである。
「ああ、あいつはアイシェリカ・クリスタル。クリタスルの王族さ」
「クリスタル王国の血筋……」
クリスタルと聞いた途端に、ルカの目はいつもより一層、鋭くなる。それは当然のことだ。ライたち破滅の三子を率先して追いかけている国の名前。忘れるはずがなかった。同時に亡き母親の仇でもあった。アイシェリカはそれを聞いて、満足げな顔をした。
「そいつのいう通り、私はクリスタル王国の代二王女のアイシェリカ・クリスタルだ。もっとも王座を継ぐつもりはないから安心してくれ」
「噂で知ってますよ」
あいからわず聞いていないこともずかずか話し始めるアイシェリカに対し、ルカが突っ込む。噂という言葉を聞き、アイシェリカはその青色の目を小さな子供のように輝かせた。
「おお、私もついに有名になれたのだな! ちなみにどんな噂なのだ!」
「国王の言うことも聞かずに幼い頃から遊び歩き、挙句に国のことを放り捨て、騎士団員に入団した変わり者の王族なんだとか」
「誰にそれを聞いた!! その噂を垂れ流したやつを牢にぶち込んでやる!」
「お前ら……、今そんな話してる場合か?」
現在、敵対中なのにも関わらず、ルカとアイシェリカはお互いに会話を進め始めている。アイシェリカはライたちよりも年上だというのになんだか子供ぽい。以外に大人ぽいルカと相性がいいのかもしれない。
「ハ! そうであった、私としたことがそんな大事なことも忘れていたとはな……」
「……。ルカ、お前は先にカイを救出しにいってくれ」
「? 私、一人で?」
ライは弓矢を構え直したアイシェリカと戦う気満々だったルカの肩を掴むと引き止めた。指示を受けたルカは明らかに納得していないような表情を見せる。ライはルカを安心させようとできるだけ自然に笑いかけた。
「こいつなら俺一人で余裕だ。二人も必要ない。それにそいつは俺に用があるみたいだしな」
「ほぉ、よくわかったな! そうだ、私はそいつに用がある。名前は……えっと……」
アイシェリカはライの名前を知らないのかその場でオロオロと困り始める。なんだか可哀想なので、名前を名乗ることぐらいはいい気がした。
「ライだ」
「そう、ライダにな!!」
「ライまでが名前な?!」
今まで、かつてないほど名前を名乗ってきてはいるが、そんな勘違いをされたのは生まれて初めてだ。たしかに勘違いするような言い方ではあったかもしれない。今後、気をつけよう。
「そういうわけだからさ、先に向かってろ。にいちゃんも終わったらすぐに行くから」
「……。わかりました。骨ぐらいは拾います」
「ここまで言っといて俺、負けると思われてんの?!」
危機的状況でブラックジョークをはく妹に対し、突っ込みが止まらない。検討を祈るとか、待ってるとか、そういった励ましの言葉を投げかけてくれてもいいではないか。そんな頭を抑える兄をルカは華麗に無視して、地面を強く蹴り飛ばして走り出した。
ルカの足の速さはチーターにだって追いつくレベルだ。しかもあの速さでずっと走っていられる。その証拠に走り出したルカの姿はあっという間に見えなくなってしまった。ライはルカを見送ると、こちらを睨みつけるアイシェリカに目をやった。
「さてさて、俺になんのようだ?」
「……。お前が私の親友であったフラワーを殺した張本人であろう?」
アイシェリカは長いこと沈黙を貫くと、ライに向かって憎しみに燃えた目を向けた。




