お菓子の中には、大凶おみくじだけ。
「フォーチュンクッキー作ったの、食べて」
幼馴染みは毎日お菓子を作って、俺に食べさせてくるんだ。
甘い物は苦手なんだって、前から言ってるから分かるだろ。
そのせいで昼休みはいつも憂鬱だ。
「……嫌だっていつも言ってるだろ」
「ほら、早く食べて。あーん」
幼馴染はそうして、俺にクッキーを近付ける。
いつもは「またアイツらかよ」って感じにスルーしてくれるクラスメイトたちも、今回に限っては無視してくれない。
違う、付き合ってないから!
その生暖かい視線はやめてくれ。ニヤニヤするのもやめてくれ。
誤解だから。こいつが勝手にやってるだけだから!
そんな心の悲鳴は、最悪の形で表に出てしまう。
「待て待て待て! 食べるから、食べるから人前でそれはやめろ!」
居心地の悪さから俺は条件反射的に了承してしまう。
クソっ、してやられた!
幼馴染の手からクッキーを奪い取り、おみくじを食べないようにちびちびと食べる。
甘さは控えめだが、舌の上に甘みが長時間残る。きつい。
「ふふっ」
「おい、なんだよ」
眉間に皺を寄せながら食べていると、こいつが何故か笑った。
何がおかしいんだ。顔か? お前の頭か?
売り言葉に買い言葉のように、俺は喧嘩腰で声を掛ける。
「リスみたいで可愛いね」
「うっさい、黙れ。お前が食べさせたんだろ?」
「そうだねぇ」
一々鼻につく言動に幼馴染を睨み付ける。
……いや、さっさと食べよう。この地獄はそれで終わる。
「あ」
紙が歯の先に引っかかった。
周りのクッキー部分を食し、急いで畳まれている紙を広げる。
その瞬間、俺は幼馴染に殴りかかった。
「おっと、女の子に暴力はダメだよ?」
「チッ」
おみくじには手書きの『大凶』の文字。
ご丁寧に、わざわざ用意しやがって。なんなんだ?
「おい、こんな手の込んだ嫌がらせをしやがって、なんのつもりだ?」
そうだ、今回だけじゃない。毎回だ。
毎回ワッフルやらマカロンやらの甘ったるいお菓子ばかり食べさせてくる。
いい加減鬱陶しい。
「ほら、楽しいでしょ? もう一枚いる?」
「いらん」
ちっとも楽しくないが。
悪びれた様子も見せない幼馴染みにそっぽを向いた。
バカか? 嫌だっての見てりゃ分かるだろ。
「残念、また明日に持ち越しだね」
「は? 二度と食べるか」
話にならない。こいつの頭の中は狂ってるのか?
呆れ返った俺は席を立とうとするも、幼馴染に肩を抑えられてしまう。
次の瞬間、耳元にうわ言を囁かれた。
「明日からずっと、貴方はおみくじの運勢だからね」