⑥めりくり、あけおめ
学校祭が終わると、しばらく行事もなく、あっという間に冬休みが近づいてきた。
莉伊那や和田くんなど、一部の私立中受験の子も試験を終え、結果も発表になったらしい。
二人とも、合格!
塾も進学先も一緒なので、密に情報を交換して、仲もよくなっていった。
莉伊那も受験が終わったし、今年も終わるし、クリスマスだしってことで、冬休み初日の25日、莉伊那宅でSYD会をする予定になっていた。
今日は24日で冬休み前最後の学校の日、6年生は家庭科でケーキデコレーションをする日だった。
みんな、浮ついた雰囲気が隠しきれていない。
家庭科も、班同士で行う。
「速水さん、もうできたんだ?」
「うん、私、シンプルなのが好きだから」
確かに白一色、でも、絞ったクリームがバランスよくふんだんに使われていて、華やかで大人っぽかった。
「福本さんのは?」
覗き込んだ彼女の表情が、一瞬、固まった。
あ、引かれてる……。
「材料、全部使ったんだね!」
彼女はうまく言葉を選んで、感想を言ってくれた。
「そうなの。
盛り合わせてみました!」
そう繕った後で、そのやりとりを見ていた江川くんに、ズバッと言われた。
「全部のっけ丼?」
大して持ってない乙女心を、打ち砕かれる。
そこに、天野くんも入ってきた。
「おぉ、なんか二人らしいケーキだね!」
私のハート、ちょっとだけ回復。
「天野のケーキ、すごい完成度!」
江川くんに言われて、女子2人は彼のケーキを見た。
断然、綺麗!!
食べるのがもったいないくらい……。
「お店に飾れそう」
「絶対売れるよ」
天野くんは照れ臭そうに笑った。
それに比べて私のケーキは、……。
おうちのケーキは明日食べるけど、今日の学校のデコレーションケーキも楽しみに待ってる家族に、かなり申し訳ない気持ちになった。
帰りの会も終わり、下校時間。
みんな楽しみなはずのケーキの箱を前に、私は大きくため息をついた。
「福本さん、お疲れ?」
天野くんに声をかけられ、苦笑い。
「デコレーションケーキの出来がいまいちだったから、家族に見せるの気が重くて……」
同じ班で既にどんなケーキかも見せ合っているし、正直に言った。
天野くんはちょっと考えた顔をして、言った。
「じゃあさ、俺とケーキ交換しない?」
「え、そんな、失礼過ぎる!」
断る私に、彼は笑って言った。
「俺さ、福本さんの全部乗せケーキ、食べてみたいんだ。
どうかな?」
天野くんのまっすぐな目に、ひどく心乱される。
「本当にいいの?
家族に怒られない?」
訝しがる私に、彼は笑って言った。
「母さん、俺の作る料理、遊び心が足りないっていうから。
だから、サプライズしたいんだ。
オッケイ?」
私が小さく頷くと、彼は笑って、二人のケーキの箱を交換した。
「ケーキ交換、サンキュ!」
そう言って、彼は教室を出て行った。
嬉しいような恥ずかしいような、私は複雑な気持ちになった。
「え、このケーキ、沙良が作ったの!?」
帰宅して箱の中を見た母は、驚きを隠さずに言った。
「友達からの、クリスマスプレゼント!」
私の反応から、母はなんとなくのいきさつを感じ取ったようだった。
「素敵ね~~。
写真撮っていい?」
「いいけど、SNSには載せないでね」
苦くも甘い、思い出に残る天野くんとのケーキ交換。
幸せな気持ちで、家族とケーキを堪能した。
次の日、莉伊那宅でSYDクリスマス会。
私達は、予算千円で、それぞれにクリスマスプレゼントを用意して渡した。
私は、靴下。
麻香は、紅茶。
莉伊那は、リップクリーム。
かぶらないかドキドキしたけど、大丈夫だった。
「天野くんのケーキ、素敵だったねぇ」
昨日話題になっていた彼のケーキ、やっぱり二人にも好評だった。
味も絶品だったよ、なんて一人心の中でつぶやく。
「莉伊那も和田くんも見事合格したし、男子も誘って遊ばない?」
麻香が言うと、
「そうね、冬休みだし、初詣とお昼ご飯なんて、どうかしら?」
莉伊那がすぐに提案する。
「冬休み最後の日曜日にしない?
神社も空いてるし、帰省も終わってそうだから」
早速次の予定も立って、楽しいことに全力投球な三人。
「莉伊那、最近和田くんと仲いいよね?」
「そうね、塾も中学も同じだし。
でもそれは、貴重な共通の友達だから。
中高一貫で6年間長いつきあいになるから、とても信頼しているわ」
彼女は同士として、和田くんを頼りにしているようだった。
「麻香は、わたるんとは長いつきあいなのよね?」
「幼なじみとしてね。
でも一緒にいると楽しいから、持ちつ持たれつ、ありがたい存在かな」
「沙良は?
二学期も天野くんと席近いけど、ときめいちゃったりしてない?」
莉伊那の不意の発言に、私は赤くなって噴き出してしまった。
「大丈夫!?
図星だったかしら」
介抱してくれる莉伊那。
「実は……。
春からときめいていました」
驚きながらも、納得する二人。
「そうだったんだぁ。
6年になって、毎日楽しそうだったから」
と麻香。
「私が推してたから、遠慮させたわね。
これからはどんどん、恋しちゃってね?」
と莉伊那。
図らずも二人に気持ちを知られたけれど、寄り添ってもらえてるような気がして、私は大きくこくんと頷いた。
「あけおめ、ことよろ~~!」
年が明けて六人で初詣の日、わたるんが浮かれて挨拶をする。
「今年もよろしくね。
学校前におめでとう言えるの、なんか新鮮」
私達は校区の小さな神社に集合して、気持ち新たにお参りした。
六人仲よく無事に卒業して、中学生活もうまくいきますように!
私は長々と心の中で願い事を思い浮かべて、ただひたすら祈った。
みんな思い思いに、神妙な面持ちでお参りしていく。
「ねぇ、おみくじ引こう!」
百円を入れて出て来るタイプのおみくじ、全員順番に引いた。
莉伊那が大吉で、残りの人は様々な吉だった。
女子達があれこれ見せ合っていると、わたるんが待ちきれないように言った。
「腹減ったーー!
昼飯、行こうぜ」
「もうちょっとで終わるから、待ってて!」
お参りを済ませて、次は近くのファミレスでランチ。
みんなで向かっている時、天野くんの近くになった私は、話しかけた。
「ケーキありがとね!
うちのお母さん、感動して写真撮ってた」
「マジで?
なんか照れる」
気恥ずかしそうな天野くん。
「私のケーキ、食べられた?」
「大丈夫、おいしく頂いたよ。
いろんな味がして、得した気分。
家族にもサプライズできたよ」
私はちょっとほっとして、うれしくなった。
ファミレスに着いて、それぞれ食べたいものを頼む。
夏休みと修旅に続いて三回目のご飯、やっぱり賑やかで楽しい。
食後の甘い物が届いた辺りで、天野くんが話し出した。
「あのさ、俺、隣県の中学に行くんだ」
「え、マジで!?
また転校すんのかよ」
みんな、動揺の色を隠せない。
「うん。
小6直前に、父さん転勤になって。
中途半端な時期で準備ができなかったから、単身赴任になったんだ。
で、母さんの実家に二人同居する形で、一年間だけこの学校に来たのが、転校の理由」
6年生の転校にはなにか事情があると思っていたけど、そういうことだったのか。
中学に転校するまでの、準備期間だったんだね。
「転校続きで大変じゃない?」
莉伊那が率直に言った。
「うん、確かに。
でも母さんにとっては地元だし、一年かけて中学準備の時間がとれたから、ようやく終わりそうだよ」
天野くんは寂しいようなほっとしたような、複雑な顔をした。
「恵、話してくれてありがとな!
すげーー寂しくなるけど……。
こっち遊びにくる時は、教えてくれ!」
わたるんは、しみじみと言った。
「もちろん!
みんなに言えて、スッキリした。
あと三ヶ月もないけど、卒業までよろしくお願いします!」
「よし、乾杯だ!
みんな、ドリンク持って」
わたるんが、音頭を取る。
「ちょっと待って、私おかわり持ってくる」
空の何人かが、慌てて注ぎに行く。
「揃った?
じゃあ、恵の旅立ちと、和田と松林の合格と、俺と麻香と福本の入学に、乾杯!」
「みんなに、かんぱ~~い」
私達はそっと飲み物の器を上にかざして、みんなの顔を見合わせて、気分新たにデザートを味わった。