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小6友愛days  作者: 玉城毬
6/8

⑥めりくり、あけおめ

 学校祭が終わると、しばらく行事もなく、あっという間に冬休みが近づいてきた。

 莉伊那や和田くんなど、一部の私立中受験の子も試験を終え、結果も発表になったらしい。

 二人とも、合格!

 塾も進学先も一緒なので、密に情報を交換して、仲もよくなっていった。

 莉伊那も受験が終わったし、今年も終わるし、クリスマスだしってことで、冬休み初日の25日、莉伊那宅でSYD会をする予定になっていた。

 今日は24日で冬休み前最後の学校の日、6年生は家庭科でケーキデコレーションをする日だった。

 みんな、浮ついた雰囲気が隠しきれていない。

 家庭科も、班同士で行う。

「速水さん、もうできたんだ?」

「うん、私、シンプルなのが好きだから」

 確かに白一色、でも、絞ったクリームがバランスよくふんだんに使われていて、華やかで大人っぽかった。

「福本さんのは?」

 覗き込んだ彼女の表情が、一瞬、固まった。

 あ、引かれてる……。

「材料、全部使ったんだね!」

 彼女はうまく言葉を選んで、感想を言ってくれた。

「そうなの。

 盛り合わせてみました!」

 そう繕った後で、そのやりとりを見ていた江川くんに、ズバッと言われた。

「全部のっけ丼?」

 大して持ってない乙女心を、打ち砕かれる。

 そこに、天野くんも入ってきた。

「おぉ、なんか二人らしいケーキだね!」

 私のハート、ちょっとだけ回復。

「天野のケーキ、すごい完成度!」

 江川くんに言われて、女子2人は彼のケーキを見た。

 断然、綺麗!!

 食べるのがもったいないくらい……。

「お店に飾れそう」

「絶対売れるよ」

 天野くんは照れ臭そうに笑った。

 それに比べて私のケーキは、……。 

 おうちのケーキは明日食べるけど、今日の学校のデコレーションケーキも楽しみに待ってる家族に、かなり申し訳ない気持ちになった。


 帰りの会も終わり、下校時間。

 みんな楽しみなはずのケーキの箱を前に、私は大きくため息をついた。

「福本さん、お疲れ?」

 天野くんに声をかけられ、苦笑い。

「デコレーションケーキの出来がいまいちだったから、家族に見せるの気が重くて……」

 同じ班で既にどんなケーキかも見せ合っているし、正直に言った。

 天野くんはちょっと考えた顔をして、言った。

「じゃあさ、俺とケーキ交換しない?」

「え、そんな、失礼過ぎる!」

 断る私に、彼は笑って言った。

「俺さ、福本さんの全部乗せケーキ、食べてみたいんだ。

 どうかな?」

 天野くんのまっすぐな目に、ひどく心乱される。

「本当にいいの?

 家族に怒られない?」

 訝しがる私に、彼は笑って言った。

「母さん、俺の作る料理、遊び心が足りないっていうから。

 だから、サプライズしたいんだ。

 オッケイ?」

 私が小さく頷くと、彼は笑って、二人のケーキの箱を交換した。

「ケーキ交換、サンキュ!」

 そう言って、彼は教室を出て行った。

 嬉しいような恥ずかしいような、私は複雑な気持ちになった。


「え、このケーキ、沙良が作ったの!?」

 帰宅して箱の中を見た母は、驚きを隠さずに言った。

「友達からの、クリスマスプレゼント!」

 私の反応から、母はなんとなくのいきさつを感じ取ったようだった。

「素敵ね~~。

 写真撮っていい?」

「いいけど、SNSには載せないでね」

 苦くも甘い、思い出に残る天野くんとのケーキ交換。

 幸せな気持ちで、家族とケーキを堪能した。


 次の日、莉伊那宅でSYDクリスマス会。

 私達は、予算千円で、それぞれにクリスマスプレゼントを用意して渡した。

 私は、靴下。

 麻香は、紅茶。

 莉伊那は、リップクリーム。

 かぶらないかドキドキしたけど、大丈夫だった。

「天野くんのケーキ、素敵だったねぇ」

 昨日話題になっていた彼のケーキ、やっぱり二人にも好評だった。

 味も絶品だったよ、なんて一人心の中でつぶやく。

「莉伊那も和田くんも見事合格したし、男子も誘って遊ばない?」

 麻香が言うと、

「そうね、冬休みだし、初詣とお昼ご飯なんて、どうかしら?」

 莉伊那がすぐに提案する。

「冬休み最後の日曜日にしない?

 神社も空いてるし、帰省も終わってそうだから」

 早速次の予定も立って、楽しいことに全力投球な三人。

「莉伊那、最近和田くんと仲いいよね?」

「そうね、塾も中学も同じだし。

 でもそれは、貴重な共通の友達だから。

 中高一貫で6年間長いつきあいになるから、とても信頼しているわ」

 彼女は同士として、和田くんを頼りにしているようだった。

「麻香は、わたるんとは長いつきあいなのよね?」

「幼なじみとしてね。

 でも一緒にいると楽しいから、持ちつ持たれつ、ありがたい存在かな」

「沙良は?

 二学期も天野くんと席近いけど、ときめいちゃったりしてない?」

 莉伊那の不意の発言に、私は赤くなって噴き出してしまった。

「大丈夫!?

 図星だったかしら」

 介抱してくれる莉伊那。

「実は……。

 春からときめいていました」

 驚きながらも、納得する二人。

「そうだったんだぁ。

 6年になって、毎日楽しそうだったから」

 と麻香。

「私が推してたから、遠慮させたわね。

 これからはどんどん、恋しちゃってね?」

 と莉伊那。

 図らずも二人に気持ちを知られたけれど、寄り添ってもらえてるような気がして、私は大きくこくんと頷いた。


「あけおめ、ことよろ~~!」

 年が明けて六人で初詣の日、わたるんが浮かれて挨拶をする。

「今年もよろしくね。

 学校前におめでとう言えるの、なんか新鮮」

 私達は校区の小さな神社に集合して、気持ち新たにお参りした。

 六人仲よく無事に卒業して、中学生活もうまくいきますように!

 私は長々と心の中で願い事を思い浮かべて、ただひたすら祈った。

 みんな思い思いに、神妙な面持ちでお参りしていく。

「ねぇ、おみくじ引こう!」

 百円を入れて出て来るタイプのおみくじ、全員順番に引いた。

 莉伊那が大吉で、残りの人は様々な吉だった。

 女子達があれこれ見せ合っていると、わたるんが待ちきれないように言った。

「腹減ったーー!

 昼飯、行こうぜ」

「もうちょっとで終わるから、待ってて!」

 お参りを済ませて、次は近くのファミレスでランチ。

 みんなで向かっている時、天野くんの近くになった私は、話しかけた。

「ケーキありがとね!

 うちのお母さん、感動して写真撮ってた」

「マジで?

 なんか照れる」

 気恥ずかしそうな天野くん。

「私のケーキ、食べられた?」

「大丈夫、おいしく頂いたよ。

 いろんな味がして、得した気分。

 家族にもサプライズできたよ」

 私はちょっとほっとして、うれしくなった。


 ファミレスに着いて、それぞれ食べたいものを頼む。

 夏休みと修旅に続いて三回目のご飯、やっぱり賑やかで楽しい。

 食後の甘い物が届いた辺りで、天野くんが話し出した。

「あのさ、俺、隣県の中学に行くんだ」

「え、マジで!?

 また転校すんのかよ」

 みんな、動揺の色を隠せない。

「うん。

 小6直前に、父さん転勤になって。

 中途半端な時期で準備ができなかったから、単身赴任になったんだ。

 で、母さんの実家に二人同居する形で、一年間だけこの学校に来たのが、転校の理由」

 6年生の転校にはなにか事情があると思っていたけど、そういうことだったのか。

 中学に転校するまでの、準備期間だったんだね。

「転校続きで大変じゃない?」

 莉伊那が率直に言った。

「うん、確かに。

 でも母さんにとっては地元だし、一年かけて中学準備の時間がとれたから、ようやく終わりそうだよ」

 天野くんは寂しいようなほっとしたような、複雑な顔をした。

「恵、話してくれてありがとな!

 すげーー寂しくなるけど……。

 こっち遊びにくる時は、教えてくれ!」

 わたるんは、しみじみと言った。

「もちろん!

 みんなに言えて、スッキリした。

 あと三ヶ月もないけど、卒業までよろしくお願いします!」

「よし、乾杯だ!

 みんな、ドリンク持って」

 わたるんが、音頭を取る。

「ちょっと待って、私おかわり持ってくる」

 空の何人かが、慌てて注ぎに行く。

「揃った?

 じゃあ、恵の旅立ちと、和田と松林の合格と、俺と麻香と福本の入学に、乾杯!」

「みんなに、かんぱ~~い」

 私達はそっと飲み物の器を上にかざして、みんなの顔を見合わせて、気分新たにデザートを味わった。


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