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小6友愛days  作者: 玉城毬
2/8

②春の体育祭

 小6始まって一ヶ月、SYD初めてのミーティングが、莉伊那宅に集結して行われた。

 彼女の家はブリティッシュ風の一軒屋で、庭の植物も素敵に手入れされている。

 お母さんは来客が嬉しかったらしく、紅茶と焼きたてのクッキーを出してくれた。

「お口に合うといいんだけど。

 友達が遊びに来るの久しぶりだわ、みんな来てくれてありがとう。

 ゆっくりしていってね」

 お母さんはそう言って、一礼して部屋を出ていった。

「ママ、喜びがダダ漏れ過ぎ!」

「優しそうで上品なお母さんじゃん。

 莉伊那と違って、控え目だね」

「家族だけだともっとしゃべるよ?

 でも、私とパパが話したがりだから、よく聞いてくれてる」

 なるほど、莉伊那の性格は父親似なのね。

「しかし、みんなぼちぼち慣れてきたけど、うちら急に呼び捨てで仲良しになったから、みんな不思議そうな顔してたね」

「本当。

 去年なんて特に何もなかったのにね」

「私、松林はキャラ変したのかって先生に聞かれちゃったわよ」

「莉伊那はずっと、みんなのこと名字で呼んでたもんね」

「天野くん効果、すごいね!

 SYD爆誕、みたいな」

 あれから急速に仲良くなった私達だけど、6年生は学校活動も多く、また放課後土日はクラブ・習い事・塾等がそれぞれ入っていて、GWになってやっと、初の集会をすることができた。

「莉伊那は週6で塾と習い事でしょう、毎日疲れない?」

「そりゃあ、大変よ。

 でも、将来のために、いろいろやっているわ。

 もちろん、SYDもね!」

 うん、うん、と二人も頷く。

「じゃあ今日は、今月末の体育祭でなにかできることはないか、話し合いましょう」

「もうそんな時期かぁ、休み明けから練習始まるね」

「応援合戦あるよね。

 その時に目立つように、カラフルなうちわでも作る?」

「めちゃくちゃバレるし!

 推し会じゃないんだから……」

「でも天野くんて、運動神経いいよねぇ。

 スポーツテストも、断突トップだったし」

「6年恒例の全員リレーも期待できるし、学年優勝狙えるね!」

 はぁ、と莉伊那がため息まじりに呟いた。

「私、体育祭で貢献できる気がしない、むしろ足引っ張っちゃう気が……」

「私もそんな動けるとは思わないけど、それぞれががんばったらよくない?」

「個人差は絶対あるしね。

 適当こいたら本気でしらけるけど、がんばってたらみんなわかるよ」 

「いいこと思いついた!

 天野くんに個人レッスン申し込むのはどう?」

「いや、個人って、一対一でしょう?

 ないない」

「走るのと教えるのは別だし、引かれそう」

 二人に全力でストップをかけられて、莉伊那はしゅんとなった。

 でも次の瞬間には、顔がパッと明るくなった。

「それなら、有志でリレーの練習をするのは?

 クラスの何人かでやるなら、自由意思だし、共通の目的があっておかしくないと思うの」

「個人レッスンよりはずっといいね。

 でも天野くん、運動神経いいし参加するかなぁ」

「そうだねぇ……。

 けど、わたるんをうまくのせれば、男子数人はやってくれると思うし、天野くんも入ってくれそう」

「それいいね!

 じゃあ私、わたるんにさりげなく話振っとこ」

 私と麻香の反応に安心して、莉伊那はやる気いっぱいの顔になった。

「二人とも、ありがとう。

 私、連休明けにみんなに提案できるように、企画書作っておくわ。

 学級活動だと通らない可能性もあるから、クラスの掲示板に貼って集めようと思うの」

「そうだね、やりたくない人だっているしね」

「やっぱり、わたるんメインの男子がターゲットだな」

「いつぐらい?」

「土か日の公園は?」

「一週間前くらいが気合入りそうだよね」

 盛り上がるうちに、運動会一週間前の日曜10時に、学校最寄りの公園でやる企画がまとまった。

 SYDの話が終わっても、三人はとりとめのないガールズトークに華を咲かせ、夕方までしゃべり通した。


 連休が明けて、学校再開。

 莉伊那はPCで作った企画書の掲示を先生に許可してもらい、昼休みに貼り出した。

「おぉ、楽しそうな企画じゃん!」

 麻香からそれとなく聞かされたであろうわたるんが、早速飛びつく。

「俺、絶対行く!

 恵も来られる?

 お前足早いし、つられてみんな足早くなりそう」

「いや、それはどうかな。

 けど、クラスの人らと休みの日に集まるの、楽しそう」

「そりゃ、楽しいのは間違いなし」

「だね、じゃ行こう。

 親にも言っとく」

 二人のやりとりを聞いて、SYDの三人は、ウインクしてやったねのサインを送り合った。

「これさ、委員長の松林さんの企画?」

 そこに、なにか言いたげの和田くんが入ってきた。

 邪魔が入るか?

 一瞬の間の後、彼はやる気に満ちた顔で言った。

「僕も、この企画いいと思う!

 体育祭で力になれるように、是非参加させてもらうよ」

「ありがとう、和田くん」

 莉伊那は恥ずかしそうにお礼した。

「それなに?

 俺らにも見してーー」

 他の男子達も、興味深げに集まってきた。

 想像以上にうまくいきそうで、すごく嬉しかった。


 練習当日。

 1組の男子七人、女子五人が公園に集まった。

 SYD以外の女子は、運動の得意な速水はやみさんと軽部かるべさん、二人が手際よく、進行を務めてくれた。

「じゃ、公園の外周を3周してから、各自ストレッチね。

 公園を利用してる他の人にぶつからないよう、くれぐれも気をつけること」

 早速、練習開始。

「もっと楽しいと思ってたのに、最初から本気モードだわ……」

 莉伊那は早速グチっている。

「松林さん、マイペース!

 僕も、日頃の運動不足を解消するよ~~」

 後ろから来た和田くんが、彼女を励まして先を走っていった。

 莉伊那と同じくらい塾に行ってるらしい和田くんも、今日は気合が入っている。

「私だって、本気出すわっ」

 莉伊那の負けず嫌いスイッチが入ったのか、彼女は走ることに集中した。

「和田くんて、莉伊那とコミュ取るの、うまいね」

「莉伊那のこと、なんだかんだ意識してるよね」

 体ほぐしが終わって、今度は約50mダッシュを、10本。

 ここで10分の休憩、莉伊那じゃなくても息が上がっていた。

「いやーー、本格的!

 莉伊那、大丈夫?」

 麻香が声をかけると、すっかりバテた様子の彼女が答えた。

「なんとか……。

 水分、補給!!」

 持ってきたスポーツドリンクをゴクリ、ゴクリと飲んで、息を整える彼女。

 いつもなら、「少しずつ飲むのがいいのよね」なんて主張するところ、今日はそんな余裕もなく、ガチでがんばっているようだった。

「はい、休憩終わり!

 じゃ次は三人一組になって、バトンパスの練習しよう」

 ここで、莉伊那が動いた。

「天野くん、わたるん、一緒に練習してくれない?」

「指名入ったーー!

 恵、一緒にやんぞ??」

「いいよ、やろう」

 わたるんに軽く笑わされながら、三人は練習を始めた。

 莉伊那もぎこちないながら、精一杯話して、がんばっていた。

「沙良、うちらも、和田くんとやろうよっ」

 慌てて、自分の練習に入る。

 麻香と、和田くんと、私、バトンの代わりのペットボトルを丁寧に受け渡す練習を、何度か繰り返した。

「松林さんてさ、天野推しなのかな」

 不意に和田くんに聞かれて、私は焦った。

「ああ、天野くん運動得意だから、あやかりたいって言ってたよ?」

 向こうの様子を眼鏡越しに眺めながら、彼は納得したように言った。

「だよね。

 僕も、マジでリスペクト。

 1組なら、学年優勝できる気がする」

 賢く穏健そうな彼も、静かに熱い気持ちを持っているようだった。

「じゃあ、六人ずつの2チームに分かれて、本番の練習しよう。

 2セットやったら、終わりね~~」

 なるべく男女交互に、ペットボトルのバトンをつなぎながら、各自懸命に走りきる。

「ゴーーーール!!」

 2セット目のラストをわたるんが飾って、1組有志による自主練は幕を閉じた。

 みんな、やりきったいい表情をしながら、労い合った。

「みんな、お疲れ!

 私と軽部は用事があるからこれで、また明日ね~~」

 練習をスムーズに進行してくれた女子二人は、そう言って爽やかに帰っていった。

「よし、練習終わりっ!!

 じゃあここからが本番、時間ある人は、公園の遊具で体動かしていこうっ」

 わたるんを筆頭に、男子何人かが、遊具の方へ走って行った。

「小さいお友達に、優しく遊ぶんだよーー!!」

 麻香が、大きく声かけした。

「じゃあ、僕はこれで失礼するよ」

「あ、俺も用事があるから。

 途中まで、一緒にいかない?」

 和田くんと天野くんはそう言って、公園を後にした。

「わ、私もっ、途中までご一緒するわ!!」

 二人を見た莉伊那も、慌てて後を追っていった。

「SYDトークしながら帰ろうかと思ったけど、大丈夫そうね」

「きっと、今日の感想と本番の抱負でも、熱く語ってるよ」

 麻香と私も、うまくいった練習を終えて、帰路についた。


 そして、運動会当日。

 派手に盛り上がった応援、一人一人が走り切った徒競走を経て、最後の競技、6年生全員リレーの番になった。

 場につくまでの間も、緊張が高まる。

「位置について。

 用意」

 パァン!!

 開始の合図と共に、1組第一走者のわたるんが、いい感じに走り出していく。

 一人一人が、一周を全力で走りきり、バトンを繋いでいく。

 抜かれたり、抜き返したり。

 応援して、走って、また応援してーー。

 声掛けに夢中になっていたら、あっという間に最終走者、天野くんの番になった。

「あーーまーーのーー!!」

「天野くん、がんばれーー!」

 1組のみんなが、一丸となって声援を届ける。

「もうちょっと!!」

 ゴールが迫ったところで、競っていた3組の男子と重なって、二人がゴール!

 ワァッと歓声が上がって、どちらが一位か、その行く末を見守った。

 先生達が少しの間協議し、結果が伝えられた。

「一位、1組!」

「やったぁーー!!」

「絶対、同着だよーー!!」

 歓喜とブーイングが混じり合いながら、全競技が終了した。

 天野くんと3組のアンカーの男子が、肩をタッチして称え合っていた。

「天野くん、みんな、ありがとう!」

 莉伊那はぼろぼろに嬉し泣きしていた。

 6年1組は、見事学年優勝に輝いた。

 つられてもらい泣きしそうなのを堪えながら、閉会式が始まる前、私は彼の雄姿を目に焼き付けた。



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