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小6友愛days  作者: 玉城毬
1/8

①6年生の転校生

 私、福本沙良ふくもとさら、小6になったばかりの女子。

 一学年3クラスで、クラス替えは二年毎だから今年はないし、仲のいい河瀬麻香かわせあさかもいるし、安心して始業式の日を迎えた。

 それでもやっぱり、どの席になるのかってのは、ドキドキするけどね!

 教室に入って、黒板に貼られた座席表を確認してから、席に着く。

 ……知らない子の名前があった、ひょっとして。

「あれ、もしかして転校生?」

 その声で前を見ると、私の席の前で、山西渡流やまにしわたるがその子に早速話しかけていた。

「うん、よろしく。

 天野恵あまのけいです。

 わかんないことあったら教えてくれる?」

「もちろん、なんでも聞いちゃってよ!

 俺、山西渡流、わたるんでいいから。

 あ、後ろの女子は、福本沙良さん。

 さらやんって呼ばれてる」

 二人のやり取りを見ていた私も、慌てて会話に入った。

「ちょっと!

 わたるんとセットみたいな呼び名、作らないでよ」

「よろしく、福本さん」

「いえ、こちらこそよろしく、天野くん」

 意図せず、初めましての会話を交わしていた。

 やっぱり、転校生だったんだ、しかも、前の席!!

 天野くんの隣の席のわたるんが終始話しかけているせいか、彼の緊張は和らいでいるようだった。

 先生の采配にも、納得。

 それにしても、なかなかのグッドルッキングガイだなぁ!

 背も160ありそうだし、顔も体格もバランスよくて、態度は控えめな感じ。

 この時期の転校ってのも珍しいけど、それでいてイケメンなんて、慣れ切った小学校生活が、急にドキドキしちゃう。

 周りの子も彼の方を見てる、きっと私みたいに気になってる女子、いるんだろうな。

 ああ、隣じゃなくて後ろでよかった、これで、自意識過剰に悩まず落ち着いて天野くんのこと、見られる……。

 そんなことを考えていたら、先生が教室に入ってきた。

 担任も持ち上がりで一緒、熱しにくく冷めにくい指導のよさが売りの、森山健太もりやまけんた、通称森健先生、独身アラサー。

「みなさん、おはようございます。

 今日から6年生、最高学年である立場を意識しながら、最後の小学校生活を有意義に過ごして下さい」

 先生に言われて、私は気を引き締めた。

「えーと、みなさん気づいているかもしれませんが、今日から一緒にクラスで学ぶことになりました、天野恵さんを紹介します。

 天野さん、立って挨拶を一言、お願いします」

「はい」

 彼は恥ずかしそうにしながら、自己紹介をした。

「天野恵です。

 一年間、どうぞよろしくお願いします」

 手短に終えて着席する彼は、否応なしに今日一番の注目を浴びていた。

「天野さん、ありがとう。

 ではみなさん、改めて、6年1組での学校生活を始めていきましょう」

 転校生の紹介も済み、私は胸の高鳴りを感じていた。

「では早速なんですが、一学期の学級委員を男女一名ずつ、決めたいと思います」

「はいっっっ」

 先生が言い終わるのと同時くらいに、松林さんが勢いよく立候補した。

 出たっ!!

 松林莉伊那まつばやしりいな、確か去年も委員長に立候補して務めた、積極的優等生女子。

 彼女みたいな人のおかげでクラス運営がスムーズに行くことも多いんだけど、自分にはないキャラだけに、私はいつも羨望と困惑を感じていた。

「松林さん、立候補ありがとう。

 では他の人、いないですか?」

 みんなが静かにお互いの顔を探り合っていると、一人の男子が静かに挙手した。

 和田辰彦わだたつひこくん、成績優秀だけど静かなタイプだから、みんなちょっとびっくりしている。

「和田さん、立候補ありがとう。

 では他に、いないですか?」

 先生は少しの間、確認の時間をとった。

 男女一人ずつ立候補があって、みんなもうそれでいいよ、という空気だった。

「わかりました。

 では、松林さんと和田さんに、一学期の委員長をお願いします。

 みなさんも、二人に協力して、クラス運営のお手伝いをして下さい」

 一同拍手して、一学期の学級委員長二人は、平和的に決まった。


 昼休み。

 転校生とわたるんは既に親しくなり、学校の散策に繰り出そうとしていたところ、松林さんに呼び止められた。

「天野くん!

 一学期の委員長の一人になった、松林莉伊那です。

 よろしくね」

 彼女はとても積極的に、彼に自己紹介した。

「こちらこそ、よろしく」

 天野くんの好反応に、彼女は嬉々として続けた。

「私、5年の時も委員長やったから、クラスのこといろいろ知ってるの。

 なにかあったら、いつでも聞いてね?」

「そうなんだ、頼りになるね!

 じゃあ、わたるんに聞いてわかんない時は、お願いするよ」

「じゃそういうことで、失礼!」

 男子二人組は即座に教室を後にして、残された彼女は赤面・硬直しているように見えた。

 その下りを後ろから目撃していた私は、振り向いた彼女と、思い切り目が合ってしまった。

「ふ、福本さんも席が近いんだから、天野くんに親切にしてあげてねっ!」

「あ、うん、そうだね……」

 なんとかそれだけ言うと、彼女は自分の席に戻って行った。

 一部始終を見てたらしい麻香が、私のところへやって来た。

「松林さん、自己プロデュースすごいね~~」

 私は大きく頷いた。

 彼女は、よくも悪くも自己主張するし、容姿や成績もいい方で自分に自信を持ってる。

「ひょっとして、天野くんと仲よくなりたくて、今年も委員長になったのかなぁ?」

「うーーん、やる気半分、天野くん半分、じゃないかなぁ」

 彼女って元々前に出るタイプだけど、ほんといいフットワークしてる。

 そんなこと考えながら松林さんの方を見てたら、もう一人の委員長の和田くんが、彼女に話しかけていた。

「松林さん、僕、委員長の仕事初めてなんで、どういうことやるのか、教えてもらってもいいかな?」

「あら、もちろん!」

 彼女は彼に頼られたことがうれしく、ジェスチャーを交えて説明を始めた。

「ーーありがとう。

 またわかんないことあったら、教えてくれる?」

「喜んで!

 いつでも、力になるわ」

 先輩委員長の彼女は気分上々な感じ、そして、和田くんの様子もなんだか、うれしそうだった。

「ねぇ、和田くん、キャラ変したのかなぁ。

 去年はあんな、自分から話さなかったよねぇ?」

「だね。

 一学期早々、なんか気合入ってるねぇ」

 春は、始まりの季節。

 転校生に、新委員長、なにやら心の動きが慌ただしかった。


「4月は配布物が多くて大変ですが、一枚ずつ取って後ろの席の人まで回して下さい」

 先生はそう言いながら、たくさんの資料を配り始めた。

 前の席の天野くんが、その都度、私に紙を渡してくれる。

 素敵な彼と、自動的に関われるのがすごく嬉しい!

 変に嫉妬されることもないし。


「福本さん、ちょっと時間あるかしら」

 放課後、松林さんに捕まる。

 私が浮かれてたの、咎められるのか……!?

「な、何でしょう?」

「あのね、相談なんだけど……。

 私と席、交換しない?」

 彼女は、照れながら言った。

 席替えは基本先生が行い、一学期間は同じ。

 見えづらい等の事情があれば、先生に相談して変わることもある。

「ど、どうして?」

 強めキャラな彼女に、私も負けじと答えた。

「それは、その……。

 天野くんが学校生活に慣れるお手伝いを、委員長としてできるんじゃないかなと思って……」

 顔を赤くしながら、歯切れが悪そうに理由を述べる彼女。

 やっぱり、と確信しながら私は言った。

「ちょっと個人的な理由じゃないかな。

 わたるんと仲良くなったし、大丈夫だと思うよ?」

「山西くんねぇ。

 確かに、すごくよくしてくれてるみたいだけど……」

 彼女はなおも、食い下がる。

「じゃあさ、わたるんにお願いしてみる?

 松林さんが天野くんの力になりたいから、なにか手伝わせてほしいって」

「それは!!

 そこまではいいわっ。

 ゴリ押しみたいじゃない……」

 彼女は後ろを向いて、小さく言った。

 席代わる方が、大胆なんですけど。

 さすがの彼女もわかってはいて、やっぱり、天野くんのこと気になってるんだなってわかった。

 すると、くるっとこちらに向き直った松林さんが、私に宣言してきた。

「じゃあ、私と一緒に、天野くんのファンクラブやってくれない!?」

「えぇっ!?」

 彼女の想いを知ったと思いきや、面倒なことに!!

「いやあ、私、天野くんのファンじゃないから!

 きっと、松林さんみたいに天野くんのこと気になってる人、学校にいると思うよ?」

 自分も気になっていながら、でも彼女のようにオープンになどできず、私は必死に断った。

「そこをなんとか!

 福本さんはファンじゃないけど、席が近いでしょ?

 だから天野くんのことかなり知れるはずだから、席を交換できない代わりに、協力してほしいの」

「でも、バレたらヤバくない?」

「行き過ぎた行動は慎むわ!

 人権はできる限り尊重するっ。

 天野くんを密かに想う気持ちを、共有する仲間になってほしいの……!!」

 彼女は目を閉じて、私に懇願してきた。

 天野くんを、シェア……。

 私の小学校生活最後の一年に現れた、王子様的存在、転校生天野くん。

 後ろの席で独占的に愛でる権利を獲得したけど、彼を慕う気持ちを共有できる仲間がいたら、さらに幸せかも!

 もちろん、自分の気持ちは伏せて、松林さんの応援、みたいな形で……。

 私は頼み込む彼女の前で、素早く考えをまとめた。

「じゃあ、麻香と一緒にだったら、いいよ?」

 私の提案に、彼女は怪訝そうになった。

「福本さんと友達だから?

 彼女にも、私の気持ちバレちゃう……」

 もう、かなりの人にバレてると思うけど。

「まあ、それもあるけど、麻香はわたるんと幼なじみじゃない?

 天野くんわたるんと大分仲いいから、情報も入ってくると思うよ?」

「なるほど、確かにーー」

 松林さんは、妙に納得していた。

「わかったわ、じゃあ三人にしましょう!

 そうね、小6友愛days、SYDでどう?

 リーダーは私よ。

 親密度上げていきたいから、名前で呼ぶわね!

 じゃあ沙良、麻香にこの話するの、よろしく頼むわねっ」

 彼女は一気にそう言うと、去っていった。

 完全についていけなかった私は、彼女がいなくなって10秒くらいしてから、反応した。

「ちょっと、暴走し過ぎーー!!」


 次の日の朝、悶々としながら登校した私は、急いで麻香を見つけて、昨日の経緯を説明した。

「え~~!

 私がいないところで結成して、しかも呼び捨てですか……」

 彼女は当然、面食らっていた。

 でも次の瞬間、ハの字眉になって爆笑しながら、受け入れていた。

「松林さん、キャラ濃すぎ!!

 でもさーー、彼女がリーダーだし、基本いろいろやってくれるよね?

 沙良も一緒なら楽しそうだし、いいよ、やろう、SYD!」

「ありがと、麻香!!」

「話は聞いたわ、沙良、麻香、よろしくね!」

 莉伊那がいつの間にか話に入ってきた。

「莉伊那リーダー、よろしくっ」

 麻香はノリよく、答えた。

 なんだか妙な展開になっちゃったけど、おもしろくもなりそうな、6年生の一学期がスタートした。


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