0. プロローグ
「ーー様っ!ーー様っ!」
「ハァッ…ハァッ…」
体が熱い…頭痛がする…苦しい…苦しい…
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『明日、6時にいつもの居酒屋で待ち合わせね!!』
このメールを見た私は自然と口がにやけてしまっていた。
と言ってもこれは彼氏からのメールじゃない。そもそも彼氏なんかいたことがない。
彼氏いない歴=26歳のOLだ。
なぜ私がこのメールをニヤニヤしてみているかというと、『君と花のような恋を〜』(略して花恋)について語ろうっというオタ友からのメールだからである!
早く語りたいなあっ推しについてなら一時間でも語れるよぉぉぉつ!
私はスキップをしながら横断歩道を渡ろうとしたときーー
私を大型トラックのライトが照らす。
あ…逃げなきゃ…
やば…これ死ぬんじゃ…足がすくんで動けない…
その瞬間、トラックの急ブレーキの音とともに"26歳 独身 橘花 来未"の人生は幕を閉じたーー
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「ミルドレッド様っ!だ、大丈夫ですか??」
目をゆっくり開けると侍女のエミリーが心配そうな顔が目の前にみえる。
「エミリー、大丈夫よ。ありがとう」
「よかった…お嬢様、3日間も熱が下がらなくて…ほんと心配しました!今、お医者様を呼んできますね」
「えぇ」
エミリーが部屋を出て行ったのを確認して、周りを見まわす。
「ここは…」
自分の部屋に見覚えがあるのは当たり前…だけど何故か変な感じがする…
横にあった鏡を見ると、金色の髪…ターコイズブルーの目…
「花恋のキャラクターと似てるわ…」
・・・ん? 花恋…?だんだん記憶が鮮明になっていくのが分かった。
「私は…橘花 来未…だったわよね…」
たしかに私は来未だった。
享年26歳、花恋に命をかけた重度のオタクだった。そんな私だからハッキリわかる。
鏡に映っている私は花恋の"悪役令嬢"だ。
つまり…私は花恋で1番厄介なキャラに生まれたわけだ。
なぜ厄介だというと・・・
このヴィント・アルファ・ミルドレッドは、ヒロインのソフィアをいじめる役だからである。まぁ、悪役令嬢の宿命なので仕方ないからしょうがないけれど…
で、私の婚約者になる公爵家の子息のテオドール・ルーファスとヒロインがくっつけば断罪をもちろんされるわけなのだが…このゲームのおかしな点はどの攻略者とヒロインがくっついても、私は断罪・処刑されるというところ。
しかも、処刑は死刑オンリー。死亡フラグしかない。
生き残る道はある…それはルーファス様を断罪前に殺すこと。この場合、ヒロインも後をおって死ぬ。最高に後味が悪いバッドエンドだが、悪役令嬢の私にとってはハッピーエンドなわけである。
そんな悪役令嬢に生まれ変わった私だが、断じてこの悪役令嬢生き残りルートを選ぶ気はない。
理由は一つ!私の推しはルーファス様だ!ルーファス様になら断罪されても悪くないとニヤけてしまう自分を客観的にみて気持ち悪いとは思っている。
でもまたとないチャンスだ。10歳から18歳までは婚約者をどのルートでも続けてもらえる!!
だからこそ、私はルーファス様を間違っても殺せない。8年間はいい思い出をもらいたいから…
鏡をもう一度見る。私は容姿は悪くない。むしろゲームの中でもヒロインと同レベルで美しいと思う。
しかし、中身!中身がだめなのだ!私の中身は今、彼氏のいる時代を生きることができなかった女だ。一緒にいたって楽しくないだろうし…ゲームの中のミルドレッドも、愛と嫉妬で狂っていたから、断罪は当たり前なのだけれど…
ヒロインは純粋の塊だ。もうオーラからわかる。保護欲が湧き出てくる感じだ。ルーファス様が溺愛するのも激しく共感できる。
ルーファス様っ!私は絶対、私が生き残るルートは選ばないので、ヒロインと幸せになってくださいねーーーっっ!!