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初めてのハニーガードナー戦、失敗

 浅田は結局、予備の武器であるメリケンサックを装備して戦うことになった。


 一応前々から知っていたが……なんか、すごく似合ってる装備だよな。言ったら怒られるかもしれないから言わないけど。


「どおおおおっ、っせええええええい!」


 だがそれも最初だけで、最初の一撃は殴って叩き落としたが、そのあとは宮野が切った蔓をもって巨大な鞭として使っていた。

 まあ、鞭の使い方としては素人もいいところなんだが、それでも重量物を振り回してるだけで脅威にはなる。


 というか両手じゃないと抱えられないような太さの蔓を片手で振り回すってどういうことだよ?

 力があるのはわかってたが、相変わらず現実離れした力だよな。


 だがまあ、これであいつが問題なく戦えることはわかった。

 あと心配なのは、やりすぎて本体を折らないかってことだな。


「おーおー、流石に安定してんなぁ」

「だなぁ。おれらみてぇに奇策も道具も必要ない。ま、王道ってやつだよな」

「いや、王道かあれ?」


 そんな光景をヒロ達が感心しながら見ている。


 俺達と違って除草剤の使用や回復役による攻撃や魔法使いによる近接戦だとかしてないもんな。


 戦士は安定して敵の攻撃を引きつけ、魔法使いが本体を攻撃して隙を作り、火力役が蔓を切り落とす。

 回復役は攻撃なんてしないで万が一に備えて待機。


 うん。ほんと理想的なチームの構成と戦い方だよな。一人だけ武器がおかしいけど。

 流石は勇者一行ってところか?


 まあ、これほど安定して戦える状態にたどり着いたのは才能だけじゃなくて、こいつらの努力もあってのことだけどな。


「佳奈! そろそろ気をつけて!」

「りょーかいっ!」


 再生が遅くなり、蔓の威力も無くなってきた頃、宮野が浅田に声をかけた。

 どうやら浅田が蜜の回収を行うようだ。まあ、実際にこいつらだけで来たのなら、蜜を採取するのは浅田の役目になるだろうな。だってじゃないと保存容器を動かせないし。


「晴華もね! 三本以上燃やさないでよ?」

「分かってる」


 俺たちはラストは二本しか残さなかったが、こいつらは三本残すことにしたようだ。

 事故死を防ぐための安全マージンと考えるなら残りが多い方が安定するし、こいつらなら三本どころか五本でも問題なく囮をこなせるだろうけどな。


「……今っ! 回収してっ!」

「最後に!」


 宮野の合図で攻撃をやめた安倍と浅田。

 だが浅田は攻撃を控える前に最後の一撃とばかりに、武器がわりに持っていた蔓を放り投げ、本体に直撃。


 そして、ガードナーは死んだ。


「「「「——あ」」」」


 投げられた蔓の直撃を受けたガードナーは、蔓を再生させようとする様子も見せず、幹が半ばほどまで折れて池へと倒れ、萎びたのだった。


「……えっと」


 浅田は気まずそうな様子で宮野達や、後ろで待機していた俺たちへと視線を巡らせ、最後にまた宮野へと視線を戻した。


「かぁ〜なぁ〜?」

「ご、ごめえん! まさかあれで死ぬとは思わなくって……」


 俺もあれで死ぬとは、というか折れるとは思わなかった。


「馬鹿力」

「むぐぅ……」


 安倍の言葉を否定できないのか、浅田は唸るだけで何も言い返さない。


「はは、まあ最初の失敗なんてよくあることだ。むしろ、あそこまでもってけたんだから最初にしては十分すぎるほどじゃないか」

「俺たちなんて最初は逃げ帰ったもんな」

「だったな。いや、懐かしいわー」


 こういう金になるダンジョンってのはあんまり情報が出回らない。

 何がいるとか、何が採れる、なんて表層的な情報なら出てくるんだが、どうやって倒すだとか、どこに希少品がある、とかはみんな自分たちだけの情報として秘密にしている。飯の種だし当然だけどな。


 だから俺たちも金を稼げる上に危険度がそんなにないってことでこのダンジョンにきたんだが、初めの頃は苦戦しまくった。


 それこそ、今ケイが言ったように敵がその場から動けないのをいいことに、やばそうなら逃げてのトライアンドエラーを繰り返したもんだ。


「再生が止まると急に脆くなるから、お前らが気をつけるとしたらそこだな。お前らは俺たちと違って攻撃力が高いし、殺さないようにってのはなかなかむずいだろ」


 俺たちはどうやって殺すかを考えるが、こいつらの場合は逆にどうやって殺さないか、を考える必要がある。

 贅沢な悩みってやつだけどな。


「ねー。あたしだってあれ、全力じゃなかったのにあんなに簡単に折れちゃったし……」

「お前のはただの馬鹿力だと思うけどな」

「なんでよ!」


 なんでって……だって普通あの蔓を攻撃手段にするとか考えないだろ? そんな力なんてないし。

 それに、投げたところで普通はあんな威力は出ない。


「わ、私、何もできませんでした……」


 だが、浅田が樹を折ったとはいえ、概ねいい感じだったにもかかわらず、一人だけ——北原だけが少し暗い様子でつぶやいた。


 しかし、なぁ……。


 北原は何もできない、なんてつぶやいているが、それは何もできないんじゃなくて、何もしないのが正解だ。


 ケイは回復役のくせに攻撃に参加していたが、それはチームの〝力〟が足りないことが理由だ。


 治療できる回数が少ないのだから、少しでも怪我をする可能性を減らすために自分も攻撃に参加する必要がある。


 だが北原の場合はそうじゃない。


「それでいいんじゃないの? 俺みたいなのは力がないからお荷物にならないように色々できるってだけで、君みたいに何度も治癒をかけても平気なくらい力があるなら、それで十分だと思うよ?」

「というかそれが王道ってもんで、治癒師は変に他のことをやる必要はないってのが普通だ。だから安心しな」


 頼りになりすぎるくらいに頼れる仲間がいるんだから、下手に攻撃して狙われる危険性を生む必要はないのだ。

 後ろでドンと構えて、怪我をしたら即座に回復し、他の敵が来たらみんなに警告する。それでいいのだ。

 むしろ回復役としてはケイのが間違っている。


「で、ですけど……」


 だがそれでも何もできないで見ている状況ってのはすんなりとは受け入れ難いようだ。


「なら、弓じゃなくてパチンコでも使うのはどうかな?」

「パチンコ、ですか?」

「ああ。正確にはスリングショットだけど、まあ呼び方はどっちでもいい。あれなら多少の練習でそれなりに使えるようになるし、持ち運びも簡単で場所は取らないし、玉の補充もそこらへんの小石でできるから便利だよ」

「……やって、みますっ」


 そんな北原の様子を見かねたケイが提案すると、北原はやる気のこもった声で返事をした。


 俺としては純粋に治癒しとしての戦い方を極めて欲しいんだが、本人の意思ってのは大切だからな。


 迷ってたり悩んでたりやる気がないのにやらせたところで、成果なんて出やしない。

 それだったら多少横道に逸れたとしても好きなことをやらせた方が伸びる。そういうことだ。


 まあ、手段が増えるってのは悪いことでもないし、現状でも及第点は過ぎてるんだし、構わないかな。


 そう判断すると、俺は先ほど浅田達が倒したガードナーの浸かってしまった蜜の池へと進んでいく。


 そしてその池の側でしゃがみ込むと、持っていた小さな容器に蜜を回収していった。


「何してんの? それ使えないんでしょ?」


 俺が蜜を回収していると、その行動を不思議に思ったのか浅田を先頭に他の奴らもやってきて、問いかけてきた。


「まあ売り物としてはな。だが、自分たちで食べる分には使えないこともないし、安くていいなら売れないこともないぞ?」


 それに、成功した場合と失敗した場合の比較はできた方がいと思う。


「ま、とりあえず次に行くか。安定して採取できるようにしないと、いい場所を見つけた時に失敗して悲しいことになるぞ」


 一応今回は採取失敗ということなので、もう一度だけこいつらだけで戦わせてよう。

 その方がこいつらとしても納得できるだろうし。


 そう判断して宮野達に話すと、宮野達は今度こそは、と意気込んで次の獲物を探すために歩き出した。



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