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出し物の案

 

「でも、伊上さん。伊上さんはダンジョンで採れる食材だとか商品になりそうなものって知ってるんですか?」

「ん、まあ、一応知らない訳じゃない。と言うか、知らないとダンジョン内で食料が尽きた時に死ぬからな」


 そこまで言ってハタと気づいた。


「……そういえば、お前達にはそう言った知識面ではあまり教えてなかったか?」


 俺はこいつらにダンジョンの敵だとか生き残り方だとかは教えてきたが、何が採れるか、だとかどうやって活用するか、だとかの知識面は教えてきた記憶がほとんどない。


 それは一年の時しか教えないんだったら、後で自分で身につけられる知識よりも技術を教えようと思ったからなんだが……教えてこなかったのは事実だ。


「そうですね。今までは技術ばかりでしたね」

「時間がなかった」


 安倍は俺を擁護したようなことを言っているが、それでも俺が知識面を蔑ろにしていたというのは変わらない。


 それを俺の不手際とするなら、食材だなんだについて自分で調べろって突き放すのも無責任か?

 ……仕方ない。


「まあいい。とりあえず知ってるやつは教えてやる。本当にやるんだったら免許が必要ないものを教えてやるし、必要になっても免許は用意できるから安心しろ」

「伊上さん、免許持ってるんですか?」

「いや? 俺じゃなくてケイ——っと、あー、ほらお前らもあった事があるけど、俺の元チームメンバーだ。あいつダンジョン素材を使った調理師やってんだよ。やるんだったら呼んどけば免許については問題ない」


 ケイの家は飲食店だ。あいつはそこで……もう家を継いだのかわからないが、とりあえずそこで働いている。

 そのために免許も取ってたし、前もって頼んでおけば来てくれると思う。


「で? お前らは本当にダンジョン素材の料理系の店をやるのか?」


 俺の言葉に四人とも頷いた。


「コスプレがしたくて、ダンジョン素材を用いた飲食系の店で、なおかつ出来るだけ金を稼ぎたいと」


 俺の言葉にもう一度揃って頷く四人だが、結構難しいってか欲張ったこと言ってるぞ。


 いやコスプレはどうでも良いんだが、少人数で金を稼ぎたいとなると、少し考えないといけない。


「加えて、できるだけ調理が簡単で素人が少人数でもできるものとなると……」


 人手が少なく簡単にできて、なおかつ文化祭という状況で売れそうなもの、か……。


 多分宮野がいればそれだけで売れると思うんだけどなぁ。だって『勇者』だし。


 学生で勇者の称号を与えられた天才の開いている店。

 見物する奴も繋がりを持ちたいからって奴も、結構集まることだと思う。


 けど、それはこいつらの望むようなものじゃないだろうな。


 だとすると真っ当に金を稼げそうなものを考える必要がある。


 まず手間云々を抜きにして、味や見た目の出来が悪くても人を集められそうなものって言ったら、高級品か希少なものだよな。高かったり珍しい物ってのはそれだけで価値がある。


 売れる売れないは別にしても、見るだけでも人が集まってくるだろう。

 少なくとも普通に学生が使うようなありきたりなものじゃなきゃ人はある程度は集まる。


 まあ高すぎると本当に売れないわけだが、そこは学生のやったものだから品質が〜、とか言っておけば、他の学生達の商品よりは高いかも知れないけど一般でも手の届く範囲で安くすることはできるだろう。


 通常店で売ってるよりも何割か安い高級品となれば、それだけで売れるはずだ。

 変に安いと怪しまれるが、そこはさっき思ったように見た目の悪さや、『勇者』の名前を使えば問題ないだろう。

 勇者の名前で人を集めるのは嫌がるだろうが、それくらいなら許容範囲内だと思う。


 値段が高いとそれだけで売れる数量自体は減るかもしれないが、それはそれでいい。

 なんたって人手が少ないんだ。売れる量が減るってことは作業量が減るってことで、その分人手が少なくて済むし、一人当たりの仕事量が減る。

 店をやりたいって言っても祭りそのものも楽しみたいだろうし、それでちょうど良いと思う。


 まあそんなわけで仮に高級品を売るとして、そうするんだったらその素材が高くなるが、それは自前で採りに行けばいいからそれほど気にしなくていいだろう。


 一応俺が行ったことのある場所なら助言や注意くらいはできるし、こいつらなら採取くらいなら簡単にできるだろう。なんたって一級と特級だし。


 それがこいつらの強みだよな。自分で採ってくるから元手はかからないし、それを謳い文句にすることだってできる「採取から調理、販売まで全部学生がやってます」ってな。学生のやる文化祭には良いと思う。


 で、高級品の中でも売れるものって言ったら、味と見た目だ。

 さっきは「味と見た目が悪くても」なんて言ったが、どっちも良いに越したことはない。


 味と見た目、どっちが素人でも技量を上げやすいかって言ったら、まあ見た目だと思う。

 そりゃあ飴細工みたいなのは話が別だが、普通の料理の盛り付けとかならどうにかなるはずだ。


 なので、基本方針は『見た目の良い高級食材を使った簡単な調理で出来るもの』になるわけだな。

 ……なんだか条件絞られた割に、絞られてないような気もする条件だな。


 まあ、良い。

 見た目のいい食材になるものでそれなりに高い奴となると……うーん。俺がヒロ達と冒険者やってた時に金稼ぎした中にいい感じのやつはあったか?


「——薄刃華、ランダムシロップ、温チョコレート、雨飴、あとは……あー、いや、そんなところか」


 この辺りが高い食材か? 他にもいくつかあったが、そんなに多くしても手が足りなくなるし、こんなもんでいいだろう。


「……どれも聞いたことない名前ね?」

「そうだろうな。どれもダンジョン産の素材の中でも高級だったり希少だったりするやつで、そこそこの難度のダンジョンの奥の方にしかないやつだからな」


 俺の提案した素材の名前を聞いて、宮野達は首を傾げた。あまりそういう方面では勉強をしてこなかったのだろう。


 まあ、今俺が出した名前の場合は仕方ないだろう。基本的に一般には出回らない類だし、そもそもが料理には使ったとしても、素材の名前単体で出てくることなんてないはずだから聞かないはずだ。


 とはいえ、一つくらいは知っていてもおかしくないんだがな……。


「でも、チョコくらいは聞いたことあんじゃねえか? 冷えると溶けて、暖かいと固まるって普通と逆のチョコなんだが」

「あー、なんだっけそれ。どっかで聞いたことある……あっ! チョコマロでしょ」

「あっ、それなら知ってるよ。前に特集で見た」

「そんな名前だったか? まあ多分それだ」


 俺のあげた名前の中でチョコだけは割と有名だ。北原が言ったように特集を組まれるくらいにはな。

 まあ有名だからと言って実際に食べたことがあるのかは別だが。


 俺は名前を忘れていたが、浅田達も料理名くらいは知っていたみたいだ。料理ってか菓子だけど。


 冷やして溶かしたチョコにマシュマロをくぐらせて、焼いて固める。そんな菓子だ。


 温チョコレートは普通のチョコと違い、一定温度以下だと溶けるというその性質から、持ち運びはできないために店のある場所でないと食べられない。


 だが、だからこそ自分たちで素材を集めて売れば売れるだろう。と思う。この辺には店がないし。


 ぶっちゃけ俺としてはそこまでの価値があるようには思えないが、それなりに人気がある。

 まあ面白い食感ではあったけどな? 熱い固形チョコってのは初めての感覚だった。


 ちなみに、浅田は『チョコマロ』と言ったが、中に入っているのはマシュマロだけではない。なんか派生は色々出てるが、とりあえず全部『チョコマロ』で統一されてる。『チョコマロクッキー』みたいな


「あれ結構高いんだよねー」

「確か、一個千円とか、だったかな?」

「たっか! でも作れんの?」

「素材さえあればな。今言った素材が出るゲートは、一番遠くても場所はこっから電車で四時間くらいの範囲にある」


 高いと言ったが、それは当然ながら理由がある。

 採取が、ものすごくめんどくさいのだ。普通にやってたらとてもではないが学生が売り物にするほど量が集まらない。


 まあ俺たちの場合は裏技というか、簡単な方法を見つけたから荒稼ぎしたけど。


「素材ねー。……そういやさ、他のはなんだって言ったっけ?」

「薄刃華、ランダムシロップ、雨飴」


 誰に問うでもなくただ口にされたであろう浅田の言葉に、安倍が言葉少なに答える。


「薄刃華はこれね」


 俺の言った直後からケータイを弄ってた宮野が、四人の囲っているテーブルの上にケータイを乗せてその画像を見せた。


「わっ、きれぇ……」

「花じゃん。食べられるの?」

「特殊な採取方法が必要だけどな」


 薄刃華は、簡単に言えばすっごく薄い半透明の花びらを持った牡丹だ。

 ただし、花びらの全てが刃になっているので、不用意に触ると触ったものが切れる。


 だから採取するには普通にちぎっておしまいじゃなくて専用の採り方ってのがあるんだが、それについては俺がわかってる。実際に食べたことあるし。


「まあ特殊な採取って言ってもわかってるから、その辺はやる時になったら教える」


 その後は俺の言った他の食材をケータイで調べてワイワイとはしゃいでいる宮野達。


「——じゃあ、それでいいな?」


 どうやら受け入れられた感じだったので、俺はもう話し合いが終わった感じで雑誌へと視線を戻した。


「だめ」


 だが、浅田からそんな言葉が飛んできた。


「なにがダメなんだよ」

「まだなにやるか教えてもらってないでしょ」

「……ああ、素材の説明だけだったか」


 そういやあ素材の説明だけでなにをどうやって調理すんのか言ってなかったな。


「そうそう。大事なところを忘れるなんてボケてんじゃないの? もう歳? だいじょーぶおじいちゃん?」


 浅田はこっちを馬鹿にしたように楽しげに笑っているが、そこに悪意はないってのはわかってる。こんなのは冗談みたいなもんだ。ムカつくけどな。


「そうだよボケたんだよ。だから歳だってわかってんなら辞めさせてくれよ」

「それとこれとは別。言ったでしょ? まだまだ離さないって」


 言われたけどさぁ……そろそろ体の節々の問題が顕著になってきてるんだ。

 知ってるか? 人間の最盛期って二十歳なんだぜ? 俺もう三十後半だぞ? 辞めさせてもいいんじゃないかって思うんだ。


 一応、そんなことはもう何度も言ったんだけどな。


 ……とりあえず今はさっきの素材で何をやるのかの説明をするか。


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