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文化祭の話し合い

 

「外部からねぇ……まあやるにしても、やっぱりなにをやるか、よね。じゃないとどれくらい呼ぶかも決められないもの」


 俺がそんなことで悩んでいる間にも話は進んでいく。


「んー、定番だと、コスプレ喫茶、とか?」

「でも喫茶店は人が必要じゃないかしら? コスプレはいいと思うけどね。こんな機会でもないとしないもの」

「移動販売?」

「確かにそれなら喫茶店よりは人が少なくて済むけどさ、売り上げ的にどうなの? どうせやんならいっぱい稼ぎたいじゃん」


 話は進んでいくのだが、まあ俺には関係ないだろ。だって学生の祭りだし。

 頼まれれば協力くらいはするけど、自分からあれこれ言って出しゃばる必要もない。


 ただ、そうなるとこの状況をどうするかってなるんだが、できる限り空気になっていよう。

 確か鞄の中に冒険者用のファッション誌が入ってたし、それでも読んでおこう。


「衣装は、コスプレで決定なの?」

「なんの?」

「そもそも衣装なんて手にはいんの?」

「一応みんなコスプレは賛成なのね?」

「まあ、楽しそうではあるし? ……ちょっと恥ずかしい気もするけど」


 ……へー、ここ新しいの出したのか。確か前のは一年半前くらいだったか? なら遅すぎるくらいか。

 でも冒険者関連で半端なもん出すとすぐに潰れるからな。時間をかけてでもいいもの出したほうがいいのか。


「ちょっとそこ。あんた関係ないフリしてるけど、あんたも当事者なんだから話に参加してよね」


 部屋の隅で話を聞き流しながら雑誌を読んでいると、浅田が俺に向かって小さなぬいぐるみを投げてきた。


「……つってもよぉ。それって教導官の仕事か?」

「仕事に決まってんでしょ」


 俺は頭にぬいぐるみの柔らかい感触を受けると顔を上げて問いかけたのだが、迷う事なく返されてしまった。


 そうかぁ、これも仕事だったのかぁ……。


「何か案があったりしませんか?」


 仕事の幅が無駄に広すぎねえかなぁ、なんて思っていると、宮野の声が聞こえた。

 仕方ない。まともに考えるかな。


「はあ……で、なんだっけ?」

「文化祭についてなんですけど……どんな出し物をするかなって。あっ、コスプレをする方向で行きたい、とは決まってます」


 そこは決まってんのかよ。


 そういやあ聞き流してたけどそんな話をしてたか?


「——てか、そう言うのってクラスごとに決めるもんじゃないのか?」


 普通、こういう学園祭の出し物なんてのは、クラスごとに決を取って出し物を決めるもんだと思う。

 こいつらがここで話し合ったところで、意味なんてあるんだろうか?


 ……いや? もしかしたら実行委員的なあれか? それで先にある程度話し合ってるとか?


「ああ。この学校はちょっと変わってて、クラスごとじゃなくて有志での参加なんです。三人以上なら何人でも一つの班として参加できるんですよ」

「勉強や訓練に集中したい人とか、文化祭に参加してる余裕のない人もいるからね」


 ああそういう。まあ、怠けたらその分死にやすくなる訳だし、余裕がない奴は文化祭なんて参加したくないってやつもいるのかもな。


 特に、昨年度の時にあった襲撃事件を体験してた生徒達はその思いが顕著であってもおかしくない。

 何せ、実際に死にかけたわけだし。


 まあいい。こいつらは参加するみたいだし、他の奴らの状況については俺が考えることでもない。今はこいつらの話について考えるか。


「で、お前らはチームで参加すると」

「はい」

「もちろんあんたもね」


 ……うん。知ってた。話に参加だけじゃ終わんないよなぁ。


「まあ無難なのは販売系——それも食べ物じゃなくてそれ以外だろうが……」

「な、なんで食べ物系以外、なんですか?」


 俺の言葉に北原が問うてきたが、理由としては簡単なものだ。


「人手がいるからだ。材料の仕入れ、調理、裏方、販売、なんかあった時の対処や方々との折衝。お前らだって普通に文化祭を見ることもしたいだろうし、やるものによっても変わるが、食べ物系はとにかく人がいる。だが置物や飾りなんかだったら作り置きができるから割と楽にできると思うぞ」


 クラスでまとまった人数を用意して、というのなら飲食系もある程度は余裕を持ってこなすことができるだろう。

 だが、こいつらはチームで参加するといった。圧倒的に人数が足りない。


 外部から人を呼ぶ、なんて話をしていた気がするが、これはあくまでも学生主体の祭りだ。

 生徒四人に外部の大人十人、なんて構成になったらそれはなんか違うだろう。


 だが、俺が理由を説明しても納得してなさそうな顔をしている四人組。


 まあ、その気持ちもわからないでもない。学園祭の華って言ったら飲食系だもんな。


 飾りなんかも悪いって訳じゃないけど、それでもこいつらみたいに祭りを楽しむために店を出したいってんなら飲食系の方が楽しめると思う。

 祭りで買い食いをしたいし店側としても参加してみたい、って事なら作り置きとかでもいいんだと思うけどな。


「まあ、品数を絞って手間がかからないのだったらできるかもな。それに、お前ら四人揃って祭りを見て回るのは無理でも、移動販売ってことで二・二に分かれて祭りに参加することはできるだろうよ。外部から雇うのがありなら、できるはずだ」


 仕方ないので、代案を出すことにした。


 問題は外部から雇うって言っても、その人を雇うのに金がかかるかもしれないってことだが、まあヤスとかケイあたりに話を通せば人を出してくれるかもしれないから、その辺は多分なんとかなる。はず。


 俺がそう言うと、宮野達は不満顔からわかりやすく変化させて笑った。


「金を稼ぐんだったらダンジョン素材を使ってのものがいいぞ」


 そしてさらに言葉を重ねると、浅田達が……主に浅田が金を稼げるとわかって、笑顔だけではなくついには喜びの声もあげた。


「……? でも免許は?」


 その中で、安倍はふと不思議そうに首を傾げたあと、俺を見ながら口を開いた。


「免許? なんの?」

「ダンジョン産の素材を使った調理物を売るのは、免許が必要のはず」

「へー……えっ!? だめじゃん!」


 浅田は叫びながら驚いた様子を見せているが、後の宮野と北原の二人も驚いているようだ。


 どうやらダンジョン素材を使う際の免許については安倍しか知らなかったようだ。

 むしろ、なんで安倍は知ってるんだろうな?


 まあいい。多分本かなんかで読んだんだろう。あとはニュースとか。知る手段なんていくらでもある。


「一応抜け道はあるんだけどな」

「そんなのなんてあんの?」

「ある。定められた工程を行わなければ『調理物』として判定されないんだよ。簡単に言えば火を通さなければいい。ジュースとかみたいに、ダンジョンの果物をミキサーにかけて売る。それくらいなら普通の果物を扱ったのと同じ判定になる。お前らも移動式のジュース屋とか見たことねえか?」


 火を通すと性質が変わったり破裂したりする素材なんて結構な数があるからな。酷いものになると、火を通すと放射能をばら撒く奴がある。


 今の時代、ダンジョン産の素材のおかげで放射能もどうにか浄化できるようになったが、それだって爆発したその場で即浄化、ってわけにはいかないし、人に吸収されれば除去できないので、加熱の際には毒やなんかで被害が出ないようにとても気をつけなければならない。


「あー、あるかも。あれって免許持ってないんだ……」

「普通のやつは持ってるだろうな。ただ、ダンジョン産の特殊なやつはないってだけだ」


 一応火を通さなくても毒があるものもあるが、それは当然使ってはならない。

 毒がないものの一部の食材は、ダンジョン産のものであっても普通の食材として使ってよかったはずだ。


 使っていい食品に何があるのかはすぐにネットで見られるし、そう言った『普通の』ダンジョン産の食材を使っている者は結構いる。


「でも、火を通さないとなると、結構限られますよね」

「ジュースだけ?」

「そ、それは、ちょっと寂しくないかなあ?」


 そんな北原の言葉で他の三人も黙ってしまう。


 だが、確かに他の喫茶店なんかに比べれば寂しいとは思うけど、そこはもう仕方がないだろうと思う。

 他にも飾り切りなんかもあるが、結局のところ少人数でできるのなんて、所詮は作り置きができたり工程の少ない簡単なものだけだ。


 まあ、案は出したし、あとはそっちで悩め。


「で、火を通さないってなにができんの?」


 そう思って視線を再び雑誌へと落としたのだが、しかし浅田はそれであきらめるのではなく、俺のことを見て話しかけてきた。


「……ちったぁ自分で考えるとか調べるとかしろよ」


 というか、なんでも聞けばいいと思っているんじゃない。

 食材と言ってもダンジョンに関することなんだから自分たちで調べろよ。そう教えたはずだろうに。


「だから、調べてんじゃない。知ってる人に聞くのも、調べるうちでしょ?」


 確かにそうだと言えないこともないが……


「猪が変に知恵を使って屁理屈こねやがって」

「誰が猪よ」


 お前だよ。

 反撃が怖いから言わないけど。


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