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慌ただしい未来

「——やっぱこうなってたか」


 今俺たちの前には空から降り注ぐ雨によって視界を制限されながらも、それでもはっきりとその存在を認識できるほどの存在がいた。


 それは強大な力を持っているとか、姿が大きいとかではない。

 体は五十センチほどで、俺みたいな雑魚でもちょっと殴れば殺せるような、小さく弱い存在だ。


 赤紫色をした空飛ぶクラゲ。こいつらを簡単に言えばそうなる。

 特筆すべきと言ったら、こいつらはモンスターで空を飛んでいるってことくらい。


 さっきも考えたように、こいつら自体は俺でも倒せるくらい弱い存在だ。


 だがそれでも、俺たちはそんなクラゲに脅威を感じ、そしてこの制限された視界の中でもはっきりとその存在を認識できる。


 なんでか。そんなの、雑魚だと分かっていながら警戒しなくちゃいけないくらいに、そして雨が降っていようがはっきりと分かるくらいに空を埋め尽くすほどの数がいるからだ。


「ってか、数が多すぎない?」

「百とか二百じゃ、足りない感じがする……」

「千……万?」

「いや、流石に万はいないでしょ……いないでしょ?」

「どう、かしらね。向こうにも同じような光景が広がってると考えると、万どころかさらに桁一つ増やしてもいいかもって、思っちゃうけど……」


 見渡す限りのクラゲ。ここがこのクラゲ達の群れの中心ならば、その数は万を超えないだろう。


 だが、ここが中心ではなく、まだ全体の一部しか見えていないんだとしたら、クラゲの数は万どころか十万、ともすれば百万すらも超えることになるかもしれない。


 おそらくその考えは正しい。ここはまだ、クラゲ達にとっては全体の一部しかいないんだろう。

 そして、これからもその数は増えていく。


「状況は把握した。一度離れるぞ」


 俺たちは本来こいつらを倒しにきたわけじゃない。イレギュラー。本来なら遭遇するはずのなかった敵だ。


 現状、装備の相性を整えていない状態では戦うことになったら厳しいものがあるかもしれない。


 こいつらをどうにかするってのは変わらないが、それでもあの数を相手にこのままつっこんでいくのはまずいと判断し、一旦話し合いをするために下がるように宮野達に言った。


 だが、そう告げて俺たちが後退し始めた瞬間、何もせずに空を漂っていただけのクラゲ達は一斉に俺たちに向かって触手を伸ばし始めた。


「っ!?」


 その触手は俺たちに当たる前に、降り注ぐ雨から自分たちの身を守るために北原の張っていた結界にはじかれたが、それでもお構いなしに狙い続け、弾かれ続けている。


 今のいままで攻撃してこなかったのになぜ突然、と観察してみると、その触手はよく見ると先ほどまでとは形状を変えており、先端が針のようになっていた。それも、刺した獲物を逃さないための返しつきだ。


 先ほどまでは全くと言っていいほど攻撃性を見せなかったのに、俺たちが帰ろうとした瞬間にこの猛攻。

 理由を考えるとしたら、俺たちがこいつらから離れようとしたからか?


「何こいつら! いきなり攻撃してきたんだけど!?」


 どうしてこいつらが動き出したのかを考えていたが、そんな悲鳴まじりの浅田の声を聞いて、今は考えている場合ではなくこの場から脱出する方が先だと判断して思考を切り替える。


「チィッ! 浅田は北原を担いで宮野は安倍を担げ、走るぞ! それから北原は結界を強化、安倍と宮野は前の奴らを減らせ!」

「「「「はい!」」」」


 北原が張っていた結界の上に、更に魔法具を発動させて結界を重ねる。これでしばらくは持つだろう。


 魔法使い系の北原と安倍は全力で逃げるとなると問題があるので、宮野と浅田に抱えてもらう。


 正直なところ俺が一番能力が低いので俺も抱えて走ってもらいたいが、万が一に備えていつでも動けるようにしないといけないし、流石に女の子に抱き抱えられながら逃げるなんてことをするわけにもいかない。主に俺のプライド的な問題だけど。


「走っても追いかけてくんだけど!?」

「それでもとりあえず走るしかねえ!」

「一掃するのは無理なの!?」

「全滅させないと追ってくるんだぞ。一撃で殺させないと増えるような奴相手に全滅なんて狙えるか! いいから逃げるぞ!」


 安倍が広範囲攻撃をすればひとまずは周りについてくる奴らは消せるだろうが、それでも遠目に見える奴らは消せないだろう。

 焼け石に水。ぶっちゃけ無駄だ。だったら逃げ切ったほうがいいと思う。


「伊上さん、やっぱり無理ですよこれ! ずっと追ってきてるし、さっきよりも増えてます!」

「くそっ!」


 だが、クラゲの動きは思った以上に速く、なかなか引き離せない。

 その上、もともと進路上——俺たちが通ってきた場所にいたクラゲ達の数が異様に増えている。

 おそらくは俺たちの逃走を察した瞬間に何らかの指示が行って分裂して数を増やしたんだろうと思う。ここには餌は掃いて捨てるほどあるからな。


「容器を下ろしたところで止まれ! あの結界なら多少なりとも役に立つ!」


 くそっ! どうしてこんなことになったってんだ!


 確かにここはダンジョンだ。イレギュラーに遭遇する可能性はどうしたって消しきれない。


 だが、俺たちは文化祭の準備のために来ただけだったはずだ。

 楽しい学生イベントの準備のはずが、なんでこんな命懸けの追いかけっこをしなくちゃならんのだ。


 いるんだとしたら恨むぞ、神様よお!

 素材の回収に来てまたもイレギュラーに遭遇するだなんて、一対どんな確率になってんだかなあ!



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