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期待してるよ

 

 ──◆◇◆◇──


「お疲れ様」


 ニーナと少し話をしてから、部屋を出て宮野達が待っている部屋に向かうと、佐伯さんから労いの声がかけられた。


「戦ったわけでもないんで、疲れたってほどでもないですけどね」

「でも、常に気を張っていないといけないんだから多少なりとも疲れはするだろ? いつ暴走するかもわかんないんだし、僕たちなんて話をするだけでも命懸けだ」

「……まあ、気を使うのは確かですけど、話をする程度なら問題ないですよ」


 俺にはすでに普通の少女に見えてしまっているニーナの扱いをはっきりと理解し、同時に、自分も今までこんなだったのかと理解することになった。


 だが、ここでそれを態度に出すとまずいので、グッと拳を握りしめて何事もないかのように——いつも通りに振る舞う。


「……それで、こいつらには話をしてくれたんですか?」

「ああ、それはバッチリだ。勇者になった者には一度は会っておかないといけなかったしちょうどよかったよ。ま、ちょっと時期が早いかもとは思うけどね」


 宮野達へと視線を向けると、そこには意気消沈という言葉が正しいくらいに気落ちした様子の宮野達がいた。

 まあ、安倍だけは普段とあまり変わった様子はないが。


 ……いや? そうでもないか。他のやつほど分かりやすくはないが、それでも普段とは違って顔をしかめている。


「そうですか。ありがとうございました」


 まあいい。とにかく今はここを離れよう。今ここにいても、良い事なんてないからな。俺にとっても、こいつらにとっても。


「お前ら、帰るぞ」


 俺がそう言うと佐伯さんが立ち上がり、来た時と同じように先導をしてくれたので、その後をついていく。


「ああ、君たち。帰る前に一つ覚えておいて欲しいことがあるんだ」


 道中無言のまま出口までついた俺たちは佐伯さんに挨拶をして別れようとしたのだが、別れる直前で呼び止められた。


「アレに関することは秘密だ。能力なんかの見た目は群衆からバレてるけど、それはいい。でも、ここで聞いた話を誰かに漏らそうとしたら、その時は——」

「その辺は俺からも言い聞かせておきますから」

「そうかい? なら任せたよ」


 そして俺は無言の宮野達を引き連れて研究所の敷地を出ていった。





「——あれが俺の『小遣い稼ぎ』の内容だ」


 帰りの車の中で、俺は宮野達にそう話しかけた。


「……アレが、あんたが冒険者を辞めたいって言った理由? 冒険者をやめれば、あんたは戦わなくていいから? あそこには行かなくて良くなるから? だから辞めたかったの?」

「それは……まあ理由の一つではあるな」


 冒険者を辞めれば能力の使用に制限が付き、俺はあそこでニーナと戦わなくても良くなるかもしれないと思った。


「ただ、俺が冒険者を辞めたところで、どのみちあそこには行くことになったと思うけどな」


 だから、俺は冒険者を辞めたかったのはそれ以外の理由によるところが大きい。


「でも、行かずに済んだかもしれないんですよね? 私たちが引き止めてしまったせいで……」

「ちょっと期間が引き伸びただけで、俺が冒険者を辞めるってのは変わんねえよ」


 宮野が申し訳なさそうに言った言葉を否定する。

 ついでに俺が辞めるんだということも改めて伝えておく。


 しつこい気もするが、こうした時に言っておかないとずるずると続けることになりそうなんだよな。


「それに、そんなに悔やむくらいなら、お前達があいつの相手をしてやれるくらいに強くなってくれ。一人じゃ無理でも、お前らチームならできるかもしれないからな」


 だが、話しかけた宮野達からは返事がない。

 それはつまり、自分たちには無理だと諦めたということに他ならない。


 ……まあ、あいつの力を見たわけだし、それに加えて色々と話を聞いた後だと頷けないか。


 こいつらは直接ニーナの戦いを見たわけじゃない。だがその片鱗は見たはずだ。

 ほんのかけらであってもニーナの力は強力だとわかる。それを見たのなら、無理だと思うなって方が難しいか。


 仕方がな——


「かもしれない、じゃない……。絶対に強くなって、一人でも相手になれるように……ううん! 勝てるようになってやるんだから! 三級のあんたにできんだから、あたし達でもできるに決まってるでしょ!」

「そう、ね……。ええ。強くなってみせますっ」

「わ、私も、一人だとできる気はしないけど、みんなとならっ!」

「頑張る」


 俺が結論を出す直前、浅田が俺の考えを否定した。

 そして、そんな浅田に続くように他のメンバー達も口を開いて意気込みを口にする。


 こいつらはニーナの全力を見ていないからそう言っていられるのかもしれない。

 だが……


「……ふっ、そうか。期待してるよ」


 本当に、そうなることを願ってるよ。

 そうなったら、あいつにも友達ができるだろうからな。


 あいつは子供なんだ。成人してないどころか、まだ高校生にもなっていない子供。

 いくら最強なんて言っても、誰も隣にいてくれないってのは、寂しいことには変わりないからな。


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