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アルビノの少女

 


「それじゃあ、気をつけてくれよ。特に今日は大変なんだから」

「ええ、わかってます。出来うる限り何事もなく終わらせますよ。元々俺が原因でもありますし、それに俺自身の安全のためにも」


 とある部屋の前にたどり着くと、俺は佐伯さんから真剣な様子で注意され、そんな言葉に俺もまた真剣に返した。


「お帰りなさい!」


 部屋の前で一度大きく深呼吸をしてから部屋の中に入ると、入った途端に黒く長い髪に白い肌。

 そして赤と青の瞳をした人形のように美しい少女が満面の笑みで俺を出迎えた。


「いつも言ってるが、俺はここに帰ってきたわけじゃなくて客人として来たんだぞ」


 この少女はニーナ。

 髪は黒いが、それは今は染めているからであって、本来の色は真っ白だ。

 明らかに日本人ではない顔立ちをしているこの少女は、ここで保護、そして監視されている。


「でも、確かにお客様ではありますけど、私にとってはそれだけじゃないんです。もし私の言葉が嫌だというのでしたら、変えますから代わりに私のお願いも聞いてください」


 流暢な日本語でそんなふうに可愛らしくおねだりをしてくるが、下手に頷いたら俺の身が危ない。


 仮に命の危険がなかったとしても、面倒なことになるのは間違いない。

 何せ、今日だって俺がここに来なくてはならなくなったのは、俺が『お守り』の代わりが欲しいってお願いをした結果なのだから。


 お守り——それは前回特級に遭遇したときに使ったミサンガのことだ。


 あれはニーナの髪を使って編まれており、魔力を流せばニーナの使う魔法発動させることができる魔法具だ。


 あれがあるのとないのでは万が一の生存率が違うので、なくてはならないものだ。

 それを使ってしまったのでもう一度くれという願いを叶えてもらう代わりに、今日ここにきてこいつの願いを叶えることになった。


 なので、どうしても必要なこと以外は願い事なんてしない方がいい。

 できることならここにはあまり来たくないしな。


「……なら、その話はまた今度にしようか。今日は新しい願い事じゃなくて、元々約束してた願いの方を叶えに行くんだから」

「あ、そうですね」


 ニーナはハッとしたように目を開いてから一拍おくと、頷き俺の手を掴んだ。


「それでは、行きましょうか!」


 そうして俺たちは外出——ニーナ曰くデートのためにこの研究所から出て行った。


 ──◆◇◆◇──


「ではまた後日、会える日を待ってますね!」

「ああ。風邪をひいたり体調を崩さないように、ここの人たちの言葉をよく聞いて、しっかりと休むんだぞ」

「はい!」


 可愛らしく頷いているが、この程度で言う事を聞いてくれるのなら俺がここに来ることもないだろう。


「お疲れ様、伊上君」

「ああ、佐伯さん。……いえ、俺が原因ですし、何事もなく終わってよかったです」


 ほんの三時間程度ではあったが、ニーナは満足そうにしていたのでよかった。

 今日のミッションば無事終了だ。


 そのことに、俺だけではなく佐伯さんも、そして周りにいる他の職員たちもホッとしている。


 ちなみに、一時間は移動時間で、三十分は外に出るための手続きなどだったので、実際の行動時間は一時間半程度しかなかった。


 だが、それ以上は無理だった。


 いろいろな事情が重なってのことだが、たったそれだけの時間しか彼女の外出は認められなかった。


 そしてそれは俺たちの都合ではなく、上から——国からの命令だった。


「またもう一度あるけど、その時も頼むよ」

「ええ、わかってます」

「それにしても、君もすごいよね。よく『アレ』と一緒にデートなんてしてられるもんだと感心するばかりだよ」

「こっちとしても命懸けですからね」


 失敗すれば大変なことになる。

 それは後始末が大変だとかご機嫌取りが大変だとかそんな小さなことではなく、本当に『大変なこと』になるのだ。


「そもそも、デートを願われるほどアレに気に入られると言うこと自体がすごいと思うよ」

「俺としては気に入って欲しくありませんでしたけど」

「だろうね。でも見た目は超絶美人じゃないか。アルビノ特有の白い髪に白い肌。加えて赤と青のオッドアイ。強力な覚醒者だからかアルビノの障害は全て無効化できてるし、見た目だけならまさにお人形のように綺麗だろ?」

「……まあ、見た目がいいのは俺もそう思いますよ」


 今日は外に出るからと目立たないように髪を黒く染めていたが、彼女の本来の髪の色は白だ。

 見た目だけなら今佐伯さんの言ったようにお人形のようだと言ってもいい。


「それに、愛する人のために言葉を覚え、知識を身につけ、電気を使わない家事も使った家事もできるように努力し、美味しいと言ってもらえるように料理も鍛えて今ではプロ顔負けだ。恋人や妻として迎えるのなら最高の条件だと思うよ?」

「じゃあ佐伯さんはアイツを嫁にしたいと思いますか?」

「そりゃあごめんだね。僕なんかがアレと一緒にいたら、一分とたたずに灰にな……らないな。うん。灰にすらならないよ」


 一分持てばいい方じゃないかな、なんて笑ってるが、こっちとしては笑い事ではない。


「確かに好いた相手のために努力する、それ自体は好ましいと思うし、それが自分に向けられてるのはありがたいとも思う。……でも、それ以外が死んでるんですよ。壊滅的と言ってもいい」

「壊滅的で、死んでる、か。確かに、どっちの評価もアレに対するものとしてはこれ以上ないくらいにふさわしい言葉だろうね」


 女性に対する言葉としては些か不適合かもしれないが、ことニーナに限ってはその評価は間違いではない。

 本当に『壊滅』的で、『死』んでいるのだ。できることなら仲良くなりたくない相手だ。

 それでも仲良く在らないといけないので胃が痛い。まったく、なんで俺なんだか……。


「……ともかく、後一回、次の外出をこなせばしばらくは黙っているでしょう」

「多分ね。でも、気をつけてくれよ? 今回平気だったから次回も平気だ、なんて考えてると危険だよ?」

「わかってますよ。これでも人一倍『死』には敏感なつもりですから」

「……そうだったね。まあそんなわけだ。次もアレとのデートを頼むよ」

「ええ」


 デートか……。


 心に少しだけ〝余計なもの〟が溜まった感覚を無視して、俺は研究所から帰っていった。



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