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期間延長!

 

「……なあ、なんで俺こんなところにいるんだろうな?」


 ゲートから出てきた俺は、一もなく二もなくそう呟いた。


「何言ってんの? そんなのも忘れたわけ?」


 そんな誰に言うでもない俺の呟きが聞こえたのだろう。俺の前を歩いていた髪を染めた少女、浅田佳奈が振り返ってこっちを馬鹿にしたようにそう言った。


「そうじゃねえよ。俺、本当ならもう辞めてるはずなんだよなって話だよ」

「その話はもう片がついたでしょ? 終わった話を蒸し返すだなんて男らしくないんじゃないの?」


 浅田はそう言っているが、周りにいる他の冒険者チームのメンバーである宮野瑞樹、安倍晴華、北原柚子は苦笑いしている。

 ……いや、安倍はどうだろうな? あんまり表情動かしてないからわかんねえや。


「……はあ。辞めたい」


 本来ならば俺はこのチームでの活動を……それどころか、冒険者そのものをもう辞めているはずだった。

 だが、チームメンバーの必死の言葉に、仕方なく俺は辞める期限を当初の予定よりも引き延ばし、今年度が終わるまで——つまりこいつらが一年生を終えるまで続けることにしたのだ。


 ……女子高生が数人がかりで泣きつくのは反則だろうがクソったれ!


 あの時の周りの視線を思い出してみろよ! ケータイ片手にこっちを見てたやつだっていたんだぞ!?


 ……まあそんな事情があって、俺はまだこのチームに残ることになったのだ。

 で、今日もいつもの通りゲート潜ってダンジョン内でモンスターの駆除と素材の回収をしてきたわけだ。


「ふー、今日も終わったあー!」

「だいぶ慣れてきたもの。最初とは比べ物にならないくらいね」

「それに、晴華ちゃんの索敵も、あるから」

「ん、頑張った」


 ゲートを出てきた俺たちはゲートの管理所でダンジョン内で手に入れたものの換金を行ったのだが、確かに初めてダンジョンに潜った時に比べれば格段にこいつらの動きは良くなった。これなら俺はいらないんじゃねえの? と思うくらいだ。


 というか、マジでいらなくねえか? 今日だって後ろからついてってるだけでほとんど何にもしてなかったし……。


「ねえ、この後はどうする?」


 と、今回の冒険を思い出してそんなことを考えていると、浅田がチームメンバー達に問いかけた。


「? 解散じゃないの?」

「そーだけどさぁ、花の女子高生がなんの遊びもなくこんな感じでいいわけ? って話よ。試験も終わったし、もうちょっと遊んでもいいんじゃない?」

「……そうねぇ。夏休みはランキング戦のためにほとんど訓練に費やしたし、この間まではテスト勉強だったものね」

「そう考えると、私たち結構忙しいよね」

「ん。少しくらいは休むべき」


 俺以外のチームメンバー達は、ランキング戦が終わった後は学生らしくテストがあったようでその勉強のために時間が必要だった。だが、冒険を疎かにすることもできず自由時間を削っていた。


 そして先日、ようやくランキング戦へ向けての訓練からも、試験の対策からも解放されたのだった。


「ってわけで、何か甘いものでも食べに行かない? えっと……ああ、ここ。なんか良さげな感じの場所なんだけど、どう?」

「いいわよ。私は特に用事があるってわけでもないし」

「私も、大丈夫だよ」

「構わない」


 冒険者として命のやり取りをしているとは言っても、そこはそれ、彼女達も女の子と言うべきだろう。宮野達は浅田の提案に乗り気な様子を見せている。


「じゃあ俺は帰るな。お前らも遅くなりすぎないように——なんだよ」


 どうやらこのあとはこいつらでどっか寄り道するみたいだし、俺が一緒にいる必要もないだろうと言うことで、今日はこのまま解散するつもりで歩き出したのだが、なぜか俺の腕が浅田に掴まれた。


「そんな嫌そうな顔しないでよ。傷つくじゃん」


 ああ、俺そんな顔してるのか。まあ実際離せよとは思ってるけど。

 というか——


「嫌そうだってわかってんならその手を離せよ」

「じゃあ一緒に来てくれる?」

「……何がどうなって『じゃあ』に繋がったのかわからんが……断る」


 だがそうきっぱりと断ったにもかかわらず、俺を掴んでいる浅田の手は離されない。

 くそっ、無理にでも振り解くか?


「女子高生とお茶できる機会を捨てる気? お金払ってでも一緒にいたいって人もいるのに」

「……逆に金をもらいたい気分だよ」


 俺は自分の腕を掴んでる浅田の手を剥がそうと、掴まれている腕とは逆の手で浅田の腕を掴むが……こいつっ!


 三級の魔法使い系の俺と、一級でもその能力の大半を力に振っている戦士系の浅田では力を比べるまでもなく違う。

 赤子と大人、なんて対比をよく聞くが、まさにそれだ。もちろん俺が赤子でこいつが大人だが。


 つまり、掴まれてる腕を力で剥がすことはできないってことだ。


「それはちょっとひどくない?」


 俺の言葉と態度を見て、浅田は不機嫌そうに口を歪めていっているが、そんなお前はもう少し良く考えてほしい。


「じゃあよく考えてみろ。この状況で俺がお前らと行ったら、女子高生四人におっさん一人の組み合わせだぞ。いかがわしい事を疑われて通報されるだろうが」

「考えすぎでしょ。そうそう通報なんてされないって」

「いーや、今のご時世ちょっとしたことで通報されんだ。だから俺は帰る——おい、勇者様。なんでお前まで掴んでんですかねぇ?」


 俺と浅田が言い争っていると、なぜか常識人枠というか普段なら浅田を引き止めてそうなはずの宮野が浅田が掴んでいる方とは逆の俺の腕を掴んできた。


「まあまあ、伊上さんも行きましょう」

「ざけんなっ! おい、安倍。背中を押すな! 北原もそういうキャラじゃないだろ!?」


 更には残っていた安倍と北原の二人も俺の背中を押したので、俺は進むしかなくなった。


 まあ、背中を押していたのはほとんど安倍で、北原はおずおずとって感じだったが。

 それをチームメンバー達と仲良くなったと捉えるか、裏切られたと捉えるかは微妙だな。


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