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アドベンチャーハント

 

 ゲートが現れてから二十年。五年前だからゲートができてから十五年か。ならこんな競技ができてもおかしくない……いや、遅すぎるくらいか?


 にしても、アドベンチャー(冒険)にハント(狩り)ね……。冒険者の活動を指してるのか、それとも、そのまま冒険者を狩るって意味なのか……。


 その後、宮野はルールの説明をしていったが、まとめるとこんな感じだ。


 まず一チーム四〜六人で編成される。

 これは卒業後の冒険者としての活動を見据えてであって、外部の公式大会だと二・三十人とかのチームを組むこともあるみたいだが、学校ではそれは無し。


 二つ目に、チームは自分たちの『宝』を定められた範囲内のどこかに隠し、お互いに相手の『宝』を探す。そして隠された相手の『宝』を見つけ出すことが勝利条件となる。

 これは冒険者としての活動を表してるんだな。冒険者ってのは戦うだけじゃなくてダンジョン内で目的の品を回収することだってあるからな。


 三つ目が、チームは自分たちの『宝』がどこに隠されたのか書かれた紙を持っていないといけないってこと。

 その際、チームメンバーの数に応じて『宝』のありかが記された紙が増える。四人なら四枚。六人なら六枚と、人数と同じ数の紙を持っていなければならないそうだ。


 これは……なんだろう? 人数が多ければそれだけ守らないといけないものも増える的な考えが元になってるのか?


 まあいい。で、四つめに、リーダーは隠した『宝』から三十メートル以上離れてはいけない。

 これはわかりやすいな。守るための訓練を兼ねてるんだろう。

 冒険者ってのは基本的にゲリラ戦法をとるが、状況次第では何かを守りながらその場に止まって戦わないといけない。これはそのためのものだと思う。


 最後に五つ目、敵チームを全滅させたとしても、宝を見つけない限りは試合は終わらないということ。

 ただし時間いっぱいまでお互いに宝を見つけられなかった場合は残りの人数による判定で決まるから、実質的にチームの全滅は負けとなる。


 これもわかりやすい。ゲームとして成立させる以上勝敗と時間制限を決める必要はあるからこんなルールになってるが、これは敵を倒しても探し物を見つけられなければ戦った意味はないというルールだ。



 話を聞いた限りだと、基本的にはよくできてるゲームだと思う。冒険者としての能力を鍛えつつ、ゲームとして成立させる。

 これでいい成績を残せるようになれば、実際のダンジョンに潜っても死に辛くなるだろう。


 ……ああ、それでか。あの時桃園先生が行事で良い成績を残せば金が出るって言ってたが、確かにこれでいい成績を残せるほど成長するのなら、多少の金は出してもいいと思えるかもな。


 しかし、いくつか疑問もある。


「だがそれだと、人数差で不公平が出るだろ?」

「はい。けれど、卒業後の冒険を見据えての試合でもありますから、人数を揃えられなかった方が悪い、ということになるんです」

「なるほどな」


 だが、結構大掛かりだな。一対一を何箇所かって、そんな場所あったか? 

 確かにここは田舎だし、学校の土地は広い。しかしながら、今の説明を聞いた限りだとそんな戦いをいくつも同時にやるには些か場所が狭いように感じる。まさか校舎を巻き込んでやるわけでもないだろうし。


「ゲートの中です。比較的学校から近く、危険も少ないダンジョンの中で行われます」


 そのことを宮野に尋ねたらそんな答えが返ってきた。

 確かにゲートの中なら広さは十分あると思うけど……安全面的に大丈夫なんだろうか?


「──あ」

「あ?」


 と、そこで宮野が何かに気がついたように声を出した。


「えっと……一応説明しましたが、詳しいものは学校のホームページに書かれていたはずですから、そっちを見たほうがわかりやすいかもしれません」

「ホームページ? ……ああ、あったな」


 スマホを取り出して検索すると、宮野の言ったページが見つかった。だが……


「……んー?」

「どうかしましたか?」

「んー……あー、ここに書かれてることだけじゃ分からないことがあってな」

「なんでしょうか?」

「まず一つ、『宝』がどこに隠された書かれた紙って言ったが、それは地図か? それとも文字だけか?」

「文字と地図の両方です。宝のありかを示す紙は、その重要度が分けられてるんです。大まかな場所を記したものや、誰の近くにあるのか書かれたものなどですね。私も参加したことがあるわけではありませんが、昨年の試合を観戦してた限りでは地図には宝のある場所そのものが記されていました」

「観戦なんてあんのか……」


 大会があるくらいだからそりゃあ観戦もあるか。ただ、ゲートの中でやるんだとしたらわざわざ撮影班とかくるんだろうか?


「……まあそれはいいとして、なら地図を奪われたらほぼ負けか」

「はい」


 ならヒントの紙ってのは結構重要だな。それそのものが、ってわけじゃなく、それをどう扱うかってのが。細工をしてもいいし、囮にしてもいい。まあその辺は考えよう。


「二つ目、その紙の大きさはどれくらいだ?」

「一辺が四十センチ程度のものです。これくらいですね」

「結構でかいな」

「はい。加えて、多少の折り目や筒状に丸めるのなら構いませんが、明確に折りたたんで所持することは認められていないので、だから持っていることを隠すことはできません。基本的にはみんなホルダーに入れて腰や背中につけたりしています」


 確かに四十センチ四方の紙はでかいな。筒状に丸めるのならいいって言ったが、それでも結構でかいぞ。


「三つ、紙は必ずしも誰かが持ってなきゃならないってことはないんだな?」

「そうですね。チームメンバーの誰も持たずにどこかに隠す、ということもできます」

「ですが、紙には特殊な魔法がかけられているので、特定の魔法を使えばどの方向にあるかわかるようになっています。それが地図なのかおおよその場所が書かれたものなのかはわかりませんが」

「隠すこと自体は可能、と」

「はい。けれど、見つかったらすぐに奪われてしまいますし、紙が破れたり燃えたりして文字が読めなくなったらその所有者として設定されている人は退場となるので、どこのチームもあまりやりません」


 でも本人が持っている必要はなく、隠すこと自体は可能か。

 ……地下五十メートルくらいに埋めたらどうなるんだろう? それほどの魔力は無駄になるからできないが、考え方としてはできなくもないはずだ。


「あ、それと、紙に書かれた内容はあらかじめ審判に見せて記録しておくのですが、その時の内容を消して書き直すのは違反になります」

「……」


 ……なんとなくだが、勝ち筋は見えるな。

 要は宝を奪われず、罠でも毒でも騙し討ちでもなんでもいいから相手をこっちと同数以下にすればいいってことだ。なら、それはいつも通りの戦いと同じだ。

 違うのは殺しはなしってことくらいだが、その程度ならどうとでもなる。


 後は一度相手チームの戦ってるところとか訓練の様子を見て、実際の大会でもいいからゲームの流れを確認して……


「あの……」

「ん?」


 俺がゲームについて考えていると、宮野が若干不安そうな色を滲ませて問いかけてきた。


「勝てるでしょうか?」

「お前は仲間がバカにされたのが悔しかったんだろ? バカにすんなって言ってやりたかったんだろ?」

「……はい」

「だったら、勝てるか、なんて弱気なことを言うなよ。絶対に勝ってやる。勝って、ざまあみろってバカにしてやる。私たちは弱くねえんだよ雑魚って言ってやるんだ、って、そう思えよ」

「あの、流石にそこまでは……」

「でも、勝ちたいんだろ」


 俺の言葉に宮野は無言で、だが真剣な表情でしっかりとうなずいた。


「安心しろ。勝たせてやるって言ったんだ。勝たせてやるさ」

「ありがとうございます」

「なに、気にするな。お前らが勝てば俺への褒賞も増えるからな」


 そう冗談めいた口調で言って緊張を解そうとしたのだが……


「私はなにをすればいい?」

「うおっ!?」

「きゃあっ!?」


 突然背後から声が聞こえたことで俺も宮野も驚きのあまりビクリと体を跳ねさせてしまった。


「おま、安倍……聞いてたのか? 錬金はどうした?」

「私には無理だと分かった」


 そこにあったのは、魔力はこもっているが魔法具となっていない道具たちだった。

 その数は俺の想像以上にあり、随分とやり込んだようだ。……全部失敗してるが


「正直、勝ち負けはどうでもいいけど、個室は欲しい。それに……瑞樹がいなくなるのは寂しい」


 安倍には珍しく、少し恥ずかしがった様子で視線を逸らしてそう言った。


 そんな安倍の様子に、俺も宮野も軽く笑ったが、それ以上に何かを言うこともなく動き出した。


「一度話をするから訓練場に行った残りの二人も呼んできてくれ」

「はい、わかりました!」

「離して」


 俺の言葉に反応した宮野はスッと立ち上がり、すぐそばにいた安倍を掴むと歩き出した。

 その際に安倍が気怠げな声で文句を言っていたが、宮野が彼女を離す様子はない。


「では伊上さん。よろしくお願いします!」

「……離して」


 歩きながらこちらに振り向いた宮野はそう言うと再び前を向いて歩き出した。


 だが、どうやら安倍の言葉は最後まで聞き入れられないようだ。


 そんな様子に苦笑しながらも、俺はランキング戦とやらの準備のためにスマホを取り出す。


「ああ、ヤス? ちょっと頼みがあるんだけど、今暇か?」


 どうせ暇してんだろうなと思いながら電話をかけた先は、前のチームで共に活動していた仲間の、ヤスこと、安田だ。


「そうか、ありがとう。……ん? ああ、まあそれなりにやってるよ。ただ問題がないわけでもなくてな。ちょっと力を借りたいんだ。欲しいものがあってな。……ああ、頼む。詳しくはメールを送ったからそっちを見てくれ。礼は今度女子高生付きで飯奢るから。ははっ。ああ、またな」


 そうして電話を切ると、俺は上を見上げながら息を吐き出した。


 これで最低限の準備は整うだろう。


「さて、後は……ああ、来たのか」


 次はゲームのプレイ動画でも見ようかと思ったんだが、それをする前に宮野が浅田達を引き連れて戻ってきた。

 思ったより早かったな。多分ろくに説明もしないで連れてきたんだろうな。まあいいけど。


「勝たせる、なんてカッコつけちまったからな。ちゃんと勝たせてやらないとな」


 それにしても、『前のチーム』か………。一瞬だけの場所だと思ったのに、やっぱり俺も存外今の状況を気に入ってるんだな。


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